焼き鳥
久しぶりの外の空気は、とても心地よかった。時間は午後7時を回っており、どの店も電気をつけ元気に営業している。
どこよりも栄えている雰囲気が、これからここはダンジョン都市として栄えるのだろうか、と思わせる。
英斗が何を食べようかと見回っていると、見たことのある背中を見つける。
「博士!」
「月城君か、今戻ったようだね。立ち話もなんだ、あそこの屋台で話さないかい?」
「ご一緒します」
そう言って、英斗達は焼き鳥の屋台に入る。
「ここはゲイルチキンと言う魔物の焼き鳥を出しているが、とても美味しいんだ。ビールと、モモ10本頼む」
屋台の店主からモモ串10本が置かれる。醤油ベースのタレで味付けされていおり、とても食欲をそそる。
「美味しい~! ビールとめっちゃ合いますね!」
英斗もナナも美味しそうにゲイルチキンの焼き鳥を頬張る。
「そうだろう、そうだろう」
しばらく食べた後、博士が尋ねる。
「どこまで登れたんだい?」
「21まで」
「ほう……。驚くべきスピードだね。おそらく最速と言ってもいいんじゃないか?」
「遊馬に追いつかないといけないですから」
「『雷神』に追いつくとは、大きく出たね。彼らは先日遂に31階層にまで到達したよ!」
博士が言う。30階のエリアボスはかなり強いと聞いていた。だが、遂に突破したらしい。
「彼等の実力は本物だよ。まだ他は誰も31階には行けていない。しばらくは彼等の独走になりそうだ。他のトップ組『ジャイアンツ』や『姫の茶会』もしばらくは30階のボス相手だろうね」
博士はそう言ってビールを飲む。
「やるな、遊馬」
自分の友人の成功を素直に喜んだ。
博士と話していると、後ろがざわめいている。ふと振り返ると、『雷神』パーティが戻ってきたようだった。
「エクセリアさん、ご無事でよかったです!」
「遊馬~、31階どうだった?」
ファンや友人に囲まれているようだ。
「人気ですねえ」
「まあ、皆実力者に憧れるもんだ。そして彼等は性格もいいだろう?」
と博士が言う。英斗も納得であった。すると、英斗に気付いた2人がやってくる。
「焼き鳥いいな! 俺も食べるぜ!」
遊馬が英斗の横に座る。
「じゃあ私も~」
そう言って、エクセリアもやってきた。
「30階突破おめでとう、遊馬、エクセリアさん」
「あざす! 初めに突破したかったから良かったわ」
「ありがとう! これが実力ですよ!」
と嬉しそうに笑う。
「遂に前人未到の階層に行ったわけですが……まだしばらくありそうですか?」
と博士が聞く。一体何階で終わりなのか、という話である。
「う~ん……まだしばらくはありそうだと思う……」
とエクセリアは言う。
「そうですか」
そう言って博士は何かを考え始める。
「英斗は何階まで行ったんだ?」
遊馬が言う。
「今21階だな。次は31階まで行きたいな」
「ほう~、中々の自信ですなあ」
と遊馬が笑う。
「先輩として、私がアドバイスしてあげましょう! 30階のエリアボスは引き際が大事だよ?」
とエクセリアが言う。
「確かにな。幸いにも、ここは危険なら扉から逃げられるんだ。諦めも肝心だぞ」
「そんなにか……。うちのギルドの青犬ってパーティもここに来てるんだが、今どこなんだろ、大丈夫かな」
「青犬? 確か26階層ぐらいに居たかもしれん。あった事ある。あそこもトップ層に近いパーティだからな」
「おおー、流石ユート達だ。それならそろそろ30階かもしれないな」
「多分な」
皆が話している中、博士が何か考えているような顔をしていた。
「博士、何かあったのか?」
遊馬が尋ねる。
「大したことでは無いんですが……最近少しずつ外を襲う魔物達の数が増えているんですよ。本当に少しずつなんですが」
その言葉を聞き、英斗に不安がよぎる。杉並区の皆は無事なのだろうか。
「具体的にどれくらいですか?」
「毎回数%増加といったところです。まだしばらくは大丈夫だと思います。だが、最悪安全なタワー付近に皆が移動せねばならないかもしれませんね」
その後も色々な情報交換をしつつ、真夜中にエクセリアが遊馬を連れ帰った事により解散となった。
皆が去った後も博士は1人で日本酒を呷っていた。
「昇さん、初音さん、彼はやっぱり貴方達の息子だよ……。人のために動ける良い子だ。そして強い。君たちの願いも彼なら叶えてくれるかも、と思うよ」
博士の言葉は誰に聞こえることなく屋台の喧騒にかき消されていった。