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遭難です

「おーい、開けてくれ! 伽藍だ! 寒い!」


 その意外な来客は英斗も知る伽藍のようだった。迷ったのだろうか。流石に放置は可哀想なので、警戒心を引き上げつつも扉を開ける。


「た、助かったぜ……。いくら俺でも天候には勝てねえからよ」


 歯をカチカチ言わせながら、寒そうに伽藍は言う。どうやら普通に遭難してたようだ。


「ですよねー。どうぞ、暖炉であったまってください」


「言葉に甘えさせてもらうぜ」


 そう言って、暖炉で温まる伽藍。英斗は温かいお茶を出す。


「ふう……生き返るぜ。英斗、お前のスキルは本当すげえな。何でも生み出せるって、便利すぎる」


 温まって落ち着いたようだ。


「本来このスキルは戦い以外の方が活きますからね。鍋でも作ります、きっと温まりますよ」


「おっ、いいねえ! 白熊を仕留めたから、それも使ってくれ。外に置いてある」


 そう言って、伽藍はあの巨大白熊の死体を持ってくる。英斗は白熊を一部分だけ切り取ると、鍋の用意を始める。


「熊鍋は久しぶりだねえ」


『ね!』


 英斗は手際よく、野菜と肉をさばき、味噌で味付けをする。こうして白熊の肉を使った、熊鍋が完成した。


「美味い!」


 白熊の美味しさには、半信半疑であったが、とても食べやすく美味しかった。


「美味い! シンプルな味付けだが、ダンジョンでこんな美味い料理が食えるとは思わなかったぜ!」


 伽藍も幸せそうに鍋をつついている。この間会ったばかりなのに、奇妙な縁である。


「吹雪いて、全く先が見えない時は普通に死を覚悟したぜ。いくら体が強化されてると言えど、人間だからな」


 そうしみじみと言う。


「そうですねえ。高峰さんも12階で会ったんですけど、無事だろうか」


 ふと思い出したかのように呟く。13、14階あたりに居そうである。


「あいつなら、この吹雪の中飛んでたぞ。ついさっき見た」


「えっ、それ迷ってるんじゃ……」


「そうかもなあ」


 呆気らかんと言う。


「もう……まだ借りを返してないのに、死んでもらっちゃ困る」


 そう言って、英斗は外に出る。昔のオーク狩りの時、いつか借りを返すと言ったのを覚えていた。未だに全く吹雪は収まっていない。


『英斗は、お人よしだねえ』


 ナナも同じように、外に出る。


「臭いで分からないか?」


『昨日会ったし、できると思う』


 そう言って、ナナは走り出す。英斗も背中に乗って声を出す。


「おーい高峰さーん! 聞こえたら返事してくれ」


 しばらく付近を走っていると、空飛ぶ何かが視界に写る。


「高峰さーん! 今は危険だ! 家に入るんだ!」


 その言葉が聞こえたのか、空飛ぶ高峰は止まり、地上に降りる。肌は真っ白になっており、かなり体温が低下しているようだ。全身はフルプレートの鎧で覆われている。


「この吹雪の中、探しに来るなんて……。お人よしなのねえ、貴方」


 呆れがちに言う。


「そうだよ、だから来い。せめて吹雪が収まるまでは」


 英斗は高峰の手を取って、家に戻る。室内では、リラックスした伽藍が寝転がっている。


「おおー、見つけたのか。運が良かったなあ、高峰」


 と呑気に言う。


「貴方もいたのね。確かに、あのままじゃ危なかったわ」


 高峰も暖炉で暖を取る。さっきまで着ていたはずの鎧はなぜか消えている。寒いのか、震えているので温茶を差し出す。


「今、熊鍋を温めてるところだから、待ってな」


「……ありがとう」


「なに、オークの借りは返したぜ」


 英斗の言葉を聞き、少し考えるそぶりを見せた後、笑う。


「貴方、まだ覚えていたの?」


 そう言って笑う高峰は、年相応の可愛い女の子に見えた。器に入れた鍋を驚くべき速度で完食した。


「なんだかんだで、ギルドマスターの3人が揃っちまったな」


「そうですねえ。千代田区の妻夫木さん以外集まりましたね」


「ああ。あの50人で潜るってやつだろ? そもそも、Sソロで狩れない奴なんて後半足手纏いだろうに」


 伽藍は言う。英斗も後半は厳しいとは思っていた。


「もしかしたら、そういうスキルなのかもしれないわよ?」


 高峰が言う。


「味方が多いほど、強くなるスキルなのか、味方全体を強くするスキルなのか。あり得るかもしれないですね」


 ソロかコンビを貫く3人とは対照的である。


「レベルにもよるからなんとも言えねえけどな。最低でも踏破するなら、50以上は欲しいもんだ」


「伽藍さんは70近いのでは?」


 さりげなく英斗が尋ねる。それを聞いた伽藍は少しだけ口角を上げる。


「……良い読みだ。68だ。まだ70には乗っちゃいねえ。英斗は、まだ60いってねえな。もっとレベル上げに励めよ」


「はい。56です。最近さぼっていたので……良くありませんね」


「ははっ! レベルが全てじゃあ勿論ないが、強くなれるのは間違いない。ここの最上階ではどんな化物が出るか分からねえからな。高峰、お前も60いってねえだろ」


「……貴方みたいな戦闘ジャンキーと一緒にされては困ります。50代とだけ」


 冷静に高峰が返す。


「誰が最初に踏破できるか楽しみだ」


 伽藍はそう言いながら英斗が先ほど出した酒を飲む。


「高峰さん、伽藍さん、今日は吹雪が止みそうにありません。この家を増築して2人の部屋も作るので、そこで寝てください」


「ありがたく申し出に甘えるわ。あと高峰でいいわ」


「助かるぜ! まあ俺はここでもいいんだが」


「いや、作るんで遠慮しないでください」


 そう言って、壁に触れると、その先に2部屋を生み出し家を拡張する。


「2人の部屋作ったんで、そこで寝てください」


「本当に便利だな。助かるぜ、この借りはいつか返そう」


 伽藍と高峰はそれぞれ部屋に向かっていった。


 それを確認してから英斗は少し早めに眠りに着いた。

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