四大勢力
ガラの悪い男たちが、人のいなくなった豪邸で話し合っている。誰も掃除をしないのですっかり荒れ果てている。
「直人さん、『我羅照羅』に入りましょうよ。このままじゃ俺達やられちゃいますよ」
彼らは半年前ホームセンターを占拠していた男達であった。その言葉を聞いた直人は深刻な顔をしている。
直人は筋骨隆々で190㎝という恵体に、左右を刈り上げ髪を右に流している。年齢は20代後半だろうか、口元に髭を蓄えている。
「あんな奴等の言いなりになるのは癪だが……」
直人は、苦虫を潰したような顔をする。
「あいつらは人数も多すぎます。正直言って質だって……」
怯えながら説得するのは、若いチンピラである。我羅照羅に怯えているのか、直人に直訴している。
「こっちは7人、あっちは50人近くいますからね。特にトップの一条弦一の力は強すぎる……。今杉並区の4大勢力で一番勢いのある勢力は我羅照羅です。早いうちに下に付きましょう!」
他の男も説得する。最近彼らは我羅照羅から下に付くか、杉並区を去るの二択を突き付けられたのである。今日がその期限なのであった。
「それなら、まだ結花の極真会の下に付いた方がいいんじゃ……」
「あいつらが俺たちを受け入れると思うのか?」
直人達の意見も中々まとまりつかなかった、だが刻一刻と期限の時は迫っていた。
「よう、直人。ここに来てくれたってことはいい返事を期待していいのかい?」
弦一達、我羅照羅のアジトは大企業の本社ビルをそのまま使っている。弦一達は机を吹き飛ばし、好き勝手やっているようだ。弦一は机の上に座っている。
まだ17くらいの年齢で、綺麗な金髪を左右に分けており、王子様前とした端正な顔立ちをしている。いまだに制服を羽織っている。そして口元には妖しい笑みを浮かべていた。
「ああ、我羅照羅の傘下につく」
直人は我羅照羅の傘下につくことを選んだ。他に良い案も浮かばなかったのである。
「おお、ありがとう! さすが直人。あんたは賢いからそう言ってくれると思ったよ。近々抗争があるからそん時は期待しているよ」
弦一は席を立つと直人の肩を叩く。
「まさか他の勢力とぶつかるつもりなのか?」
「いい質問だな。今杉並は大きな勢力と言われてるのが4つある。知ってるよな。1つがうちだ。2つ目があの獣人が頭の5人組クラン。3つ目があの女の仕切ってる極真会。4つ目は銀狼使いだ」
「知ってるよ、ここらじゃ有名だからな」
「最近警察署の勢力が完全に潰れた。まあ、あそこは雑魚ばかりだからどうでもいい。駅前の市場じゃどこの勢力が杉並区を占めるのかが噂になっている。わくわくするよな、男ってのはやっぱり強さで頂点を取りたいってもんだ。近いうちにやるつもりだ」
「いったいどことやるつもりなんだ?」
「そりゃ――」
英斗は他者と積極的に関わることはしなかったが、杉並区では中々の有名人であった。それはスキルが何なのか特定できないこと、そしてなにより銀狼を従えていることが一番の原因であった
半年間で生き残った人たちは駅に集まるようになった。そこで皆で暮らしているのでなく、小さな市場として人が集まっていた。
「月城さん、久しぶりだねえ」
おばさんが野菜を駅前の広場で売っている。英斗はレベルが15を超えたあたりから食材も生み出すことができるようになっていた。自分の生み出した食べ物で体力が回復できるようになったので、何もない砂漠でも悠然と生きられるようになったと言えるだろう。
だが、気持ちの問題なのか英斗は人が作った野菜を食べたくなるので定期的におばさんの野菜を買っていた。
「オーク肉獲ってきたから、野菜とかえてよ」
英斗がオークの死体を担いで持ってくる。
「はいはい、何がいいんだい?」
「じゃがいも、と玉ねぎ、キャベツも欲しいな」
「はいはい、2㎏でいいよ」
「おばさんの野菜はおいしいから楽しみだよ」
「そりゃあスキル『農家』で作った野菜だからねえ」
スキルは戦闘用スキルばかりでなく、農業やその他日常生活用のスキルの人々も多かった。こんな世界ではそれは大きなハンデであるが、必要なスキルなのは間違いない。
結局現在は物々交換に戻ってしまった。貨幣の価値がなくなったからである。現在は物か、魔石での交換が主流になってきた。魔石を使用することで魔力消費無しでスキルを行使できることが判明してから、魔石の価値が上昇したからである。内蔵魔力を失った魔石は色を失い、砕けてしまう。
人とはたくましいもので、こんな世界になっても生き続けていた。
「そういやあんた、我羅照羅の坊やたちが杉並区のトップになるって息巻いてたから気をつけな」
「我羅照羅? なんですか、それ」
「やっぱり知らないのかい? 今あんた杉並区の四大勢力に数えられてるよ。そのうちの1つが我羅照羅さ。ヤンキーあがりが仕切ってるからそんな名前なのさ」
「四大勢力!? 俺がですか!?」
英斗は自分はそこまで実力を見せていないはずだと思っていたので驚きを隠せなかった。
「あんた、あんな派手に銀狼つれて目立たないと思ってたのかい? それにソロでオーガを狩れるのはここらじゃ少ないから当然だろう」
「あちゃー、そう言われればそうか……」
「まあ気をつけな。あんたはおとなしいから好きだよ」
「売られた喧嘩は買うだけですよ」
「ガウ!!」
ナナと英斗は笑う。
「ハハハ、中々血気盛んだねえ。まあ忠告はしたからね。じゃがいもだよ、持っていきな」
おばちゃんも笑いながら野菜を手渡す。
「ちなみに他の勢力も聞いていいですか?」
「結花ちゃんの仕切ってる極真会というクランと、尾形って子がトップの五人組クランが他の2つの勢力だよ。他の2つは穏やかだから大丈夫とは思うけどね」
「尾形かー、どっかで聞いたような」
「そりゃここらじゃ中々有名な男だからねえ」
「だからですかねえ」
「そういえば、警察署のごく潰し達がここに流れ込んできたんだよ、知ってるかい?」
「警察署が半壊したのは知ってます」
「あいつら何もできないのに飯だけよこせって、馬鹿なこと言うから全員追い出してやったよ。こんなご時世にずっと大和さんに寄生してたんだから当然だね」
「大和さんが解放されたのはよかったですねぇ」
「大和さんは千代田区に向かったらしいよ」
「そんなとこに。俺もたまにはどこか行きたいですねー」
「あんたなら遠出もできるだろう、行ってきたらどうだい?世田谷ダンジョンならレベルアップもしやすいらしいし、何より現代文明では作れないような物が手に入るらしいよ」
「そうですね、行ってみようかな」
「ハハ、お土産頼むよ」
英斗もオーク肉をおばちゃんに手渡して更に駅前に進む。