兎さん
「うおっ、さぶっ!」
英斗はその寒さに震えながら、その景色に溜息を吐く。そう11階は雪山である。見渡す限りの雪景色と、視界を覆う雪。真っ白な世界は美しくも人を永遠の眠りにも誘いそうな怖さがあった。
だが、ナナは本来寒さに強いのだろう、大はしゃぎで雪の上を走り回っている。
『英斗、とっても冷たいよー! すごーい!』
そう言って、雪の上を転がるナナは可愛さに溢れており、英斗の心を掴んだ。
「ナナー!」
そう言って、ナナに飛び掛かる。ナナの毛で暖を取りながら、もふもふを堪能する。しばらく堪能していると、真っ白な子兎が何匹もこちらに寄ってきた。全長20㎝ほどだろうか、首を傾げている姿は非常に可愛らしい。
「この階層は過酷って聞いてたけど、可愛らしい動物もあるんだなあ」
そう言って、英斗は手を伸ばす。
「よしよし、おいで」
すると、子兎が胸に飛び込んでくる。だが、その子兎が飛び込んでくる速度は英斗の想像の何十倍も速く、回転してまるで弾丸のようであった。
「ってうおおおお!」
英斗はとっさに鉄板を生み出し、飛び込んできた子兎を受け止める。受け止めた鉄板は大きく歪み、まるで大砲を受け止めたかのようである。
弾かれた子兎は、綺麗に着地を決めると臨戦態勢に入る。
『弾丸兎 D級
可愛らしい容姿で敵をだまし、油断しているところは弾丸のような突進で仕留める。人間の被害が特に多い』
英斗は鑑定結果に驚く。まさに自分であった。
『もー、騙されて』
ナナはそう溜息を吐きながら、爪で兎を一掃する。
「どうみても地球産だよ、あれは。予想できん。あれには冒険者もやられるだろうな」
死体を見ながら言う。
英斗は気を引き締めると、11階の探索へ向かう。雪も収まっており、今のうちに次の階段を見つけたかった。
一番の敵は気候のようだが、他にも多くの魔物が居た。そのうちの一匹が白い景色と同化した狼である。気品は違うも小さい頃のナナに少し似ている。
『ホワイトウルフ D級
雪の中に隠れて獲物を狩る。群れの長は知能も高い』
「ワオオオオオオオオン!」
だが、ナナの一吠えで格の違いを感じ取ったのか、姿を消してしまった。
探索しているうちに、12階へ辿り着く。上がった先は洞窟だったので、洞窟から出る。12階も雪山なのに変わりはないが、違いは気候である。とても吹雪いていた。
「oh……。これ止むのかな」
しばらく洞窟で吹雪が収まるのを待つ。1時間程で暴風が収まってきた。
「じゃあ、行こうか。まあ最悪俺なら家建てて耐えればいいし何の問題も無い」
普通の人間なら死ぬほどの吹雪でも英斗なら家を建ててゆっくり休めばいい。万能性の高い『万物創造』だからこそできる強行である。
ナナに乗り、雪山を駆ける。ナナの足は雪など気にすることも無く、平地のように軽やかに進んで行った。
途中で巨大な白熊にも出会ったが、階段を探すためスルーした。段々日が落ち暗くなってきた頃ようやく12階への階段を見つける。どうやら雪山エリアの階段は洞窟になっているようで、そこがセーフゾーンとなっているのだろう。
そこにはようやくここにたどり着いた冒険者たちが皆座り込んで暖を取ってきた。その中には高峰も居た。
1人で晩御飯を食べている高峰に他のパーティが声をかけていた。
「嬢ちゃん、一人で食べてるなら、うちで一緒に食べないか? こっちなら肉も酒もあるぜ?」
二十代の男達が、高峰を囲いながら言う。
「せっかくのお誘いですが、ご遠慮させてもらうわ」
高峰は一切動じることなく、淡々という。
「そんなこと言うなよ、ダンジョンは初めてか? こんなとこに一人で潜るなんて自殺行為だ。お前の態度次第では俺達のパーティに入れてやってもいいんだぜ?」
そう言って、高峰の手を掴む。
「嫌がってるし、止めた方が良いんじゃない?」
英斗はその男の肩を掴みながら声をかける。