コイバナ
2人はツマミを肴に酒を飲み続け、段々酔いが回ってきた。ナナは付き合いきれないとばかりに眠っている。そうなると話すのは男女の話になってくる。
「英斗~、彼女とか居ねえのか? そんな万能スキルで、強いってんならモテモテだろ~?」
ニヤニヤしながら言ってくる。
「いや、全然できねえよ。最近まであまり人とも関わってなかったからな。人が嫌いってわけじゃないんだが、あまり信じられなくてなぁ」
「なんだー。もったいねえな。最近何かいい縁とかなかったのか?」
そう言われて考えるも、あまり思いつかない。凛とはたまに関わるが、色恋という感じではない。
「いやー、無いな。そもそも強いからってもてるのか? 俺、ギルマスになってももててないぞ。まあ名ばかりで、今も好きに動いてる訳だが」
実は杉並ギルドマスターになった後、英斗のスキルの有用性を感じ近寄ろうとした女も居たには居たが全てナナの一睨みで追い払われていた。それは英斗にとって良い事かは不明であるが。
「隙が足りないのかね? 警戒心が高すぎるんじゃないか?」
それには心当たりがあった。英斗は基本的に人当たりは良いが、そこまで人を初めから信用できないのある。
「まあ、それはあるかもな。それより遊馬はどうなんだよ! あんな美人の幼馴染が居て、実は付き合ってんのか?」
英斗はお返しと言わんばかりに言う。実際にトップパーティの美人であるエクセリアは人気が凄かった。
「うっ!? ……別に付き合っちゃあいねえよ。あいつは只の幼馴染だ。そういう関係じゃねえ」
動揺しつつも返す遊馬。
「その割には仲良さそうでしたけどねえ……。エクセリアさんはもてるんじゃないか?」
英斗は、すっかり付き合っているものだと思っていた。他もそう思っているだろう。それくらい2人の距離は近かった。
「……あいつは確かに見た目は可愛いかもしれないが、がさつだし、料理もできねえんだぞ!? そんなあいつが、なあ」
「いやいや、けど人当たりもいいし、もてると思うぞ。結構皆見てるし」
英斗の言葉を聞き、眉を顰める遊馬。
「見てるのは知っているよ」
流石幼馴染。気付いているようである。
「そうなんだよなあ。もてるんだよ、エクセリアは……」
英斗からすればもてるだろう、以外の感想はない。
「遊馬、このままでいいのか! 俺達の仕事は日々命がけだ! いつまで隣の人が生きてるかなんて誰にも分らねえんだ。後悔しないためにもしっかり言葉で伝える必要があるんじゃないのか?」
と真剣な声で言う。これは自らにも刺さる言葉でもあったが。
「……実はこのタワーを踏破したら、言うつもりなんだ」
遊馬は小さく呟いた。言うというのは間違いなく、告白の事だろう。
「まじか……けどその条件は止めといた方が良いぞ。俺が踏破するから告白できないじゃねえか。友人の恋路の邪魔はしたくない。タワーが踏破されたらに変えるべきだ」
英斗は静かに遊馬の肩に手を置く。
「馬鹿言え! うちに決まってんだろ!」
2人は楽しそうに怒鳴り合う。ナナは五月蠅いなあ、という顔で2人を見ていた。
夜中まで騒いだ後、朝方ベッドからゆっくりと起き上がる。あまり最後の方の記憶が無いが、どうやらベッドまでは戻れたようだ。
英斗が居るのは、探索者用に貸し出されてるマンションの一室である。現代は割と寝る場所には困らない。なぜなら、家に比べて人が減りすぎたからだ。
頭痛が酷い。ここまで飲んだのはいつ以来だろう、と英斗は頭を抱えながら考える。遊馬とは馬が合うのかどこまでも騒いでしまった。
「おはよう……ナナ」
『酷い顔……洗った方が良いよ?』
ナナに言われて鏡を見るが、確かに酷い顔である。英斗は、二日酔い用の飲み物を生み出し飲み干し、顔を洗う。
朝ごはんを食べて、準備体操をする。なんとか昇れそうだ。
「よし、行くか!」
『11階楽しみ~!』
11階から再び景色が変わる。ナナにとっては良い場所でも、英斗からみたら……。





