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ハウスマン

「一回出るか。久しぶりに人の作る美味しいご飯が食べたいし」


『賛成ー!』


 英斗達はセーブポイントから、ダンジョンタワーを出る。夜だというのに、タワー付近はまるで毎日が祭りのように栄えていた。自販機から出る現代利器のお陰であろう。

 夜にも関わらず、お店には電気がついている。勿論昔の様では無く、電池式の電気を各所に置いている。

 まるで子供の秘密基地のようだな、と英斗は微笑む。

 どこに入ろうとさ迷っていると後ろから声をかけられる。


「英斗ー、お久! 俺達も戻ってきたんだ。今から一杯行かねえか?」


 と遊馬がお猪口を持つ仕草をしながら言う。横には、エクセリアが居た。


「遊馬ー、また飲むのー? 明日また探索だよー。私はもう先寝てるからね! 月城さんもこいつに無理に付き合わなくていいですからね?」


 エクセリアが呆れたような顔をする。


「今からちょうど店に行こうと思ってたんで、助かります。少しお借りしますね」


「じゃあ、おやすみなさーい」


 エクセリアは眠いのか、そのまま去っていった。


「もう、うるせえんだから。行こうぜ、英斗。いい店があるんだ」


 遊馬に連れてこられたのは、中心から少し離れた暖簾のかかった店である。


「大将、空いてるかい?」


 遊馬は扉を横にひき、尋ねる。


「奥が空いてるよ。今日は良い魚が入ったんだ。食べてきな」


 寿司屋の大将のような風貌の初老の男がいう。


「じゃあ、それまず3人前お願い! 後、生2つとジュース1つ!」


「失礼します」


 英斗達は奥の席に座る。中は居酒屋のようで多くの冒険者たちが騒いでいる。皆幸せそうにビールを飲んでいた。


「こんな居酒屋もあるんだな」


「いいとこだろ、酒もあるんだ。自販機製だが、それも美味いもんさ」


 商品はそこまで多くはないが、メニューは確かに居酒屋のそれであった。メニューを見ていると、店員がジョッキに入れたビールを持ってくる。並々と入ったジョッキに泡が溢れそうになっていた。ナナにはオレンジジュースである。


「それじゃあ、カンパーイ!」


「カンパーイ!」


『カンパーイ!』


 グラスを合わせた後、2人とも一気飲みする。


「うめーーーー! この1杯のために生きてんだよなー!」


「染み渡るー!」


 2人は一瞬で杯を乾かすと、2杯目を注文する。


『私も飲んでみたーい』


「ナナ、前飲んだら一瞬で寝ちゃったから駄目ですー。もうちょっと大きくなったらな」


『英斗よりでかいもんー』


 ナナを宥めながら、2杯目に口を付ける。


「英斗、どこまで行ったんだ?」


「11階までだなー」


「おおー。中々良い速度だなー。最速じゃねえか?」


「ナナが居るからな」


「なるほど。頼りになる相棒だ」


「そっちは何階まで到達したんだ?」


「ようやく30階だ……。だがここがかなりきつそうでな。しばらく止まりそうだ。他のパーティもまだ誰もエリアボスを倒せていない」


 遊馬達でも手こずるエリアボスに興味が湧いたが、人類の現状の最高階の情報を聞くのはマナー違反な気がして、尋ねられなかった。

 話していると店員が綺麗に盛られた刺身を持ってきた。白身魚の刺身だろうが、ハリがあり輝いて見えた。


「崩壊後に発生した謎の魚らしいぞ。美味いから安心してくれ」


 そう言って、遊馬は醤油につけ口に運ぶ。そして、ほおを緩ませた。


「美味しゅうございます」


 それを見て英斗も食べる。その美味しさに英斗も舌鼓を打つ。


美味(びみ)!」


『美味しい―!』


 皆謎の魚を幸せそうに食べていた。その後も大将の自慢のメニューを食べながら、どんどん酒が進む。


「そういえば、ダンジョンで家建ててたらしいな! 噂になってたぜ、ダンジョンにログハウスを建てている銀狼を連れた男がいるって」


「それは……俺だな」


 確かにあれは目立つだろう。ナナまでいたら余計に。


「英斗、ハウスマンって呼ばれてたぞ! ハウスマンって! 聞いた時笑い転げたわ!」


 そう言って大笑いをする遊馬。


「ハウスマンって……。なんて酷えあだ名だ」


 英斗は、これは自分を嫌いな人間の工作なのでは、と疑った。


「なんのスキルかは知らねえが、便利で羨ましいぜ……ブフッ!」


 そう言いながらも噴き出す。まるで羨ましさが伝わってこない。

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― 新着の感想 ―
[一言] 岸朝子さんを思い出すセリフだな笑
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