ツンデレ?(オジサン)
英斗が警戒すると同時にその大男は大剣を振るい、リザードマンを一閃する。その一撃で数体のリザードマンの上半身から胴体が離れる。
リザードマンも、パーティの者達も突然の登場に動きが固まる。リザードマンからすればその大男は死神に見えただろう。
まるで暴風のような風圧を放ちながら振るわれる大剣は、残りのリザードマンを全て葬った。
パーティの者は、突然の救助に呆気を取られ腰を抜かしていた。
だが、大男こと伽藍は彼等を見るなりにこりと笑う。
「すまねえな、お前たちの獲物を横取っちまったよ。こいつあ迷惑料だ」
そういって、怪我をした男に赤ポーションを渡し、その場を去ろうとする。
冷静になった助けられた男は、伽藍を見て叫ぶ。
「ありがとうございます! 俺は江戸川ギルドの者ですが、昔も伽藍さんに助けていただきました! どうかお礼を!」
どうやら伽藍はあの見た目に寄らず普段から人助けをしているようである。
伽藍は振りむくこともなく、ただ左手を上げて軽くふって去っていった。
『英斗、先こされちゃったねえ』
と笑う。
「そうだな……。あれは確か江東ギルドマスターの伽藍さんだっけ……。前評判は怖かったけど、良い人だな」
『素直じゃないわね、男って』
ナナはスナックのママのような言葉を言う。あれは伽藍なりの優しさなのだろう。前情報よりも優しいのかもしれない。
ともかく解決したので、英斗達は再び階段を探し歩き始める。そして歩き続けること数時間、伽藍とばったりと遭遇した。
伽藍は英斗の顔をみるなり、笑顔で話しかけてくる。
「おう、英斗だったか? この前の会議で会ったな」
「お久しぶりです」
「まあ、俺は渋谷区でお前を見てるんだがな! 米谷賢ってのが強いって聞いて戦いてえな、って思って行ったんだが、まさか先約が居たとは思わなかったぜ」
と歯を見せながら笑う。
「いやー、あそこに別の区からも来てる人がいるとは……」
他の区で勝手に暴れていた手前、謎の気まずさがあった。
「あそこは割と有名だったから、他の区からも客は来てるぜ。渋谷区の頭はあの後挿げ替わった。別のクランがトップを獲ったみてえだ」
「じゃああの2人は……」
「トップ2人がどうなったのかは分からねえ。死んでるかもしれねえし、まだどこかにいるかもしれねえ。だが、あの大抗争から2か月くらい経つが、鬼神会は完全に沈黙したままだ。残党も殆ど消えた。元々いろんなところを吸収してあそこまで大所帯になったところだからな。皆のびのびやってるようだ」
「なら良いんですが」
「だが、残党もどこかに息を潜めてるかもしれねえ。気を付けるんだな。まあお前ほど強けりゃ問題無いだろうがな」
「余裕ですよ」
そう虚勢を張るも、やりすぎたなあ、と反省していた。
「じゃあな。またいつか戦おうぜ」
と伽藍は戦闘狂みたいな台詞を吐いて消えていった。
「良い人だった……よな?」
『多分ね』
英斗とナナは顔を合わせて言う。謎の出会いの後、英斗達は更に上階へ向かう。2日後の夜、エリアボスも討伐しようやく11階のセーブポイントまでたどり着いた。