どこからともなく現れる
6階は今までと景色が大きく変わった。5階までは壁が煉瓦でできた迷路のような場所であったが、6階は沼地である。
湿度が高く、足元はぬかるんでおり、泥に大きく足を取られる。そこら中に沼があり、そこからは見たことも無い魚が顔を出していた。
『ここ嫌い―』
「俺もだ。足を取られるし大きく不利な戦いになりそうだな。だけど、初めてのセーブポイントだ」
英斗の目線の先には1階でも見た柱が立っていた。
その赤い石に触れると石から光が溢れ出す。触れた掌に紋章のような物が刻まれていた。その紋章はすぐに消えたが、それと同時に柱からアナウンスが流れる。
『6階を記憶しました。ワープ機能を解放します。ご利用先を選択してください』
その言葉と同時に空中に、1階、6階という文字が浮かび上がる。
「久しぶりだな、これも。ここは5階おきにあるとは親切だねえ」
柱の横にはタワーの外にあった自販機もあった。ここでもどうやら買えるようである。英斗の所持DCは421DC。大した物は買えなかった。
6階は当たり前だが、人気がないのか人が少ない。ダンジョンという場所はワープポイント付近のほうがすぐに逃げれるため人気が高いはずなのだが、人は目に見えるところには数パーティ程である。
「さっさと行こ」
『賛成ー。毛並みが汚れちゃうよ』
ナナは溜息を吐きながら言う。どうやらお気に召さないようである。だが、沼地というのはナナとの相性が悪かった。足をとられていつもの速度が出ないのだ。なんと7階への階段を見つけることができずに深夜になってしまった。
英斗は、沼地のど真ん中にログハウスを生み出し、中に入る。ここは魔物の庭と言っていい。今も柱の部分が謎の魚に噛まれているのを感じる。
窓には全長50cmを越える蛙が貼りついている。英斗は無言で窓を埋めた。
「沼地仕様にした方が良いな……。これじゃ落ち着いて寝れん」
英斗はログハウス全体を鉄で埋める。ドア部分も全て鉄製に変える。さながら簡易要塞である。
「見た所ここらへんはオーク以下の魔物が殆どだ。壊される心配もないだろう」
英斗達は沼地で眠りについた。魔物が闊歩する沼地のど真ん中に家を建て眠る姿はもはや魔女に近いものであった。
「う~ん、天気は……当たり前だが悪いなぁ」
英斗はそう言って、溜息を吐く。
『さっさと出よう』
ナナは沼地が嫌なのか、いつもより速く走る。途中で襲い来る魚を全て凍り漬けにしながら。
7階への階段を見つけ、すぐさま上がる英斗達。
だが、沼地を抜けることはできなかったようだ。同じような景色が広がっていた。
『うええ』
ナナは低く唸る。
「早く行こうか」
そう言うも、前には巨大な蛙がこちらを見ながら鳴いていた。赤色という毒々しい見た目と、大きい目玉がチャーミングな魔物である。
『スワンプフロッグ D級
全長1.5mを越える巨大蛙。長く伸びる舌からは消化液が出ており、その舌に捕まった二人は、骨も残らない』
「oh……。最悪だな」
鑑定結果を見た英斗は溜息を吐くと、稲妻を放つ。動きを止めたスワンプフロッグをナナが氷漬けにすると、英斗が蹴りで氷を砕いた。
すると、ダンジョンコインが音と共にドロップする。
「小銭よのお」
拾ったコインの10の表示を見て英斗は言う。
周りにも人は全く居ない。過疎地帯を抜けようと英斗達は再び動き出す。8階への階段を見つけた頃には夜になっていたため、そのまま眠りに着いた。
翌日、8階に上がった英斗達は再び沼地を探索する。
ぬかるんだ沼を歩いて進んでいると、前方で剣戟音が聞こえる。興味を持った英斗達はそちらの方向へ進む。
その先には、10匹程のリザードマンの群れに囲まれていた5人パーティであった。どうやらぬかるみの中での戦闘にも慣れていないのか動きが遅い。
1人が剣を弾かれ、そのまま一太刀浴びせられ真っ赤な鮮血が沼を染める。
「あああ!」
肩を押さえ、蹲る男。
「まずいな、助けるか」
英斗が動こうとすると、別方向からある男が信じられない速度で颯爽と現れる。





