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雷神

「こんにちは」


 英斗が声をかけると、男が顔を上げる。


「ん? 誰だい?」


「月城英斗と言います。これからダンジョンタワーに向かおうと思ってるんですが、簡単な情報を仕入れておきたくて。貴方が詳しいと聞いたの出来ました」


「月城……? いや、何でもない。確かに随分と強そうだ。あらかじめ情報を集めようという考え方も好感が持てる。何でも聞いてくれたまえ。僕は、(わく)健人(けんと)という。まあ博士と呼ばれているから、そう呼んでくれ」


 その言葉を聞いた男は、英斗をしばらく見つめ驚いた顔をした後、にっこりと笑った。


「博士、よろしくお願いします」


「けど、もうすぐ昼だろう。話は昼食を食べながらにしようじゃないか」


「ですが、来たばかりでDCが無くて……」


「なに、僕が奢ろう。君ならすぐに何倍にもして返してくれそうだからね!」


 そう言った博士に連れられ、すぐ近くの店に向かう。

 元々店だったところを使っているようだ。店は賑わっており、崩壊前を彷彿させた。香ばしい醤油とバターの匂いが香っており食欲をそそる。


「まるで昔のような景色だろ? あの自販機から、火炎石という火を出す石が取れる上に、バターや醤油もDCで買える訳だよ。もう2度と食べれないと思っていた日本の味さ。ここに来てる人の半分の目的はご飯とも言われているくらいさ」


 博士は笑顔で言いながら、席に座る。


「確かに、今じゃ貴重な品ですからね」


 英斗が頷く。


「じゃあ、豚の醤油バター焼き定食、3人前頼むよ!」


 と店員に博士が注文する。


「ここはこれが絶品なんだ」


 そう言って博士は笑う。


「楽しみです」


『楽しみー!』


 ナナが少し目立っているものの、注意は受けない。冒険者が多いため、寛容なのだろう。


「月城君はなぜダンジョンタワーに上りたいんだい?」


 博士は尋ねる。


「タワー由来のスタンピードを止めるためです。今ようやく皆穏やかになってきたところです。皆の平和の邪魔はさせません。まあ、個人的な理由もあるんですけどね」


 そう言って、英斗は笑う。それを聞いた博士はにこりと微笑んだ。


「なるほどね。それで、ダンジョンタワーに対して聞きたいんだって? 僕もまだ3週間程しか調べられてないから、全てを知っている訳じゃないんだ。そこは許してくれ」


「いえいえ、そんな。まず聞きたいんですが、今トップ層は何階くらいまで行ってるんですか?」


「トップ層が今いるのが26階前後だね……」


 3週間ちょっとで、26階。早いのかいまいち分からなかった。世田谷ダンジョンと同レベルなら既にS級溢れる状況ではある。


「もうS級の魔物が出るレベルですか?」


 英斗のその問と同時に、店員が豚の醤油バター焼き定食を持ってきた。焼きたての香ばしい匂いが香る。


「来た来た!」


 博士は笑顔で受け取ると、箸を持ち食べ始める。幸せそうな顔で肉を口に入れる。


「25階のボスモンスターはS級だったね。26階以降の情報はまだ分かっていない。そこまで行ったのはまだ1つのトップパーティーだけだからね」


 英斗も久しぶりのプロの作った料理に頬が緩む。口に醬油バター焼きを入れる。一嚙みするごとに肉汁が口の中に溢れる。バターの甘味と、醤油の塩辛さが絶妙にマッチしており、綺麗に肉に絡み合っている。


「美味しいな~!」


 英斗は思わず声に出てしまった。やはり食は人生においては無くてはならないのだと、再認識した。


『美味しいー!』


「そうだろう、そうだろう! 豚と書いてあるが、これはダンジョンで獲れたレッドオークという固有種なんだ。普通のオークより豚に近い。これを食べにダンジョンタワーまで来てもいいくらいさ」


 そう言いながら、博士はどんどん肉を口に放り込む。そしてたれの付いた肉をご飯に乗せ、ご飯ごと頂いた。


「米も君、久しぶりじゃないかい? これも自販機のおかげさ。ダンジョンタワーの被害は酷い物だが、悪い事ばかりじゃあないってことさ」


「ちゃんとした米は久しぶりです。そういえば、ダンジョンタワーの近くには魔物は生まれないらしいですね?」


「ああ。だいたいなんだがダンジョンタワーを中心に半径3km、10kmの円を描くだろう。そこに一定間隔で柱が立っている。半径50kmなどにもあるかもしれんが。その柱から魔物は生まれている。1つの柱から、何百という魔物が現れるのだから凄いものだ」


「魔物を生みだすマーカーみたいなものですかねえ。それにしても、25階でS級が出るってことは、そこまで高くはない気がしますね」


 英斗の言葉に、博士が反応する。


「ほう。なぜそう思うんだい?」


「それ以上強い魔物なんてそうはいないでしょう。更に上の階に何を生み出すのかって話ですよ」


「良い視点だ。僕もそう思っている。少ないと40階、高くても60階程度だと推測してる」


 2人で話していると、店に2人組が入ってきた。有名な者達なのか視線が彼等に集中する。


「おお。噂をすればなんとやらだ。彼らが今26階を探索しているトップパーティ『雷神』だよ。おーい、エクセリア君!」


 博士は立って、雷神のパーティーを呼ぶ。

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