秘密のヒーロー
「風花、そっちはなんとかなりそうか？」
警察官の剣士、大和は双剣使いの女子高生、風花に尋ねる。
「無理よ、雄二も逃げたし。あのガキ……！ 私達も早く逃げようよ……」
「お前はもう逃げろ！ 俺はもう少し時間を稼ぐ」
「大和さんももう限界じゃ……」
大和は背中に大きな傷を負っており、既に限界は近かった。
すると警察署内に一人の男が飛来してくる。
「だ、誰……？」
風花は反射的に双剣を構える。大和も警戒を緩めない。
英斗は答えずに、ただ上のワイバーンを指さす。
ワイバーンは本能的に英斗を敵と見定めたのか、空中から急降下で英斗を狙う。
英斗は再び手に鉄球を生み出し、そこから鉄の棘を無数に生み出す。無数の鉄の棘はワイバーンの体中を貫く。
「ギャオオオオオ！」
ワイバーンはそのまま墜落し、絶命する。
「えっ!? ワイバーンが一撃で!?」
風花は驚きを隠せないようであった。
オーガはその一撃を見て、勝てないことを察したのか逃亡を開始する。
英斗はそれを追い、瞬く間に追いつくと地面から鉄の棘を生み出し、オーガを貫く。
オーガも一撃で地面に倒れこむ。
「助太刀感謝する。おかげで命を救われた。あなたはいったい……？」
大和は英斗の傍まで走って、頭を下げる。
「ただの通りすがりです」
英斗はそう言った。
「とても助かりました、もうだめかと……」
風花は安心したのか、泣き出してしまった。ただの女子高生に命がけの戦闘は負担だったのだろう。
「なんで顔を……いや深くは聞くまい。助けてくれてありがとう」
大和は深く聞くのを止めた。英斗があまり聞かれたくないのを察したのだ。
「いえいえ。ですが、もうここはダメそうですね」
「ああ、もともと最近は食料も満足になく戦える者はここを離れていたのもあってな。残っている者は戦えない者が殆どだったんだ」
大和は辛そうな顔で言う。
「なるほど、警察官として皆を助けるのは立派ですが、多くの人を養うのは今じゃ難しいでしょうね」
「ああ、若い者の多くが『なんで俺達ばかりが』といって去っていってしまったよ。それでも何もしない者は動かないんだ……ここともお別れするよ……。署長も逃げてしまったしね」
どうやらトップは逃げていたらしい。会ったこともないが英斗はなんとも言えない気持ちになった。
「ようやくここを諦めてくれたんですね、大和さん！」
風花は涙を拭き、喜んでいる。どうやら風花もここを早く離れたかったらしい。文明が滅びても警察官をするというのはもしかすると呪いなのかもしれない。
英斗が二人と話していると、半壊した警察署から人が少しずつ出てくる。どうやら隠れていたらしい。
「ちょっと大和さん！ あんたちゃんとしてよ！ おかげで死にかけたじゃない！ あんたのせいで警察署壊れちゃったじゃない、これからどうすんのよ！ 最近配給も少ないし！」
出てきたおばさんは大和に怒鳴りつける。そうじゃそうじゃ！と周りの老人達も同調して怒鳴りつける。
「何よその態度！ それが命がけで戦った人への態度なの！」
風花はその態度が気に入らなかったようで、激昂する。
「お前こそなんだその口の利き方は！」
老人が風花に怒鳴る。英斗が口を出そうと動き出すと、その前に大和が前に出た。
「貴方こそ、なんだその態度は！ 自分は何もしないのに、不平不満ばかり。もう国が守ってくれる時代は終わったのだ！ この時代に適応するか！死ぬか、しかないのだ。貴方達のお守はもう今日までで辞めさせてもらう！ 風花行くぞ！」
大和がはっきりと言い放つ。いつも甘い大和のその言葉に老人達は言葉を失う。
大和はそのまま老人達に背を向け歩き出した。
「うん！」
風花はその後をついて走っていく。
「俺も帰ろ」
英斗も寄生される前にその場から退散する。老人達はただその場に立ち尽くしていた。
警察署を出ると、ナナが迎えに来る。
「ワウ！」
「よしよし、待たせたな。何も得るものはなかったが、お人よしを救えたからよしとしようかね」
英斗は、ナナを連れて家に帰った。英斗は自分の選べなかった道を選んだ大和を尊敬していたのだ。その日英斗はよく眠れた。
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