いざ、ダンジョンタワーへ
英斗達は杉並区に戻ると、ギルドに結果を報告に向かう。
「やはり、ダンジョンタワーの踏破なくして根本的な解決はできなさそうですね……」
事務長花田は英斗の話を聞き、そう結論付ける。
「すまない。必ず俺がダンジョンタワーを踏破してこのスタンピード、災害を止めて見せる。だから、なんとか耐えしのいでくれ」
英斗は花田の目を見ながらはっきりと口にする。
「青犬も英斗さんもいないとなると厳しそうですねえ」
「信じてますよ、アニキ。アニキが居ない間は、俺が守って見せるんで安心して行ってください」
弦一が言う。弦一とクラン『極真会』のマスター、結花もこの場に集まってもらっていた。
「誰かが、ダンジョンタワーには向かわなければならないからな……。こちらはできる限り守護をしよう」
結花も胸を張ってそう言った。
「今回は規模が未知数だから、酷そうだったら中野区や台東区に合流してくれ。既にマスターに話はつけてある」
「「了解!」」
英斗はギルドに報告した後、朝からナナとダンジョンタワーに向かった。
『前回の所よりは近そうだねえ』
「前回は他県だったからなあ。今回は東京だから多分昼には着くよ」
『はーい! 飛ばすねー!』
ナナの風の如き速度のお陰で、昼前にはダンジョンタワー付近に到着した。何と言っても光の柱が分かりやすいため迷う事がない。
近くまで行くとまずダンジョンタワーの大きさに驚いた。その太さは半径100m程ありそうな巨大な建造物である。そして高さは雲にもたどり着くくらい高い。最上階が見えないのである。
ダンジョンタワー付近はとても栄えていた。屋台も多く出ており、付近にはダンジョンタワーから獲れたであろうアイテムが露店で並んでいる。
ダンジョンタワー付近の建物はタワーが生まれた際に更地になったのか、綺麗になっている。そこに人が集まっているのだ。
人の数も多く数千人は居そうだ。関東や中部からも集まっていることが分かる。
「まるで祭りだな……。比類なき力と秘宝ってのは中々人の心を惹き付けるらしいな」
英斗は笑いながら屋台に向かう。屋台のおっちゃんが、おそらくオークの肉をたれで味付けしたものを串焼きにしているようだ。
「美味しそうですね、串焼き2本貰えますか?」
「はいはい、6DCだよ!」
おっちゃんは威勢よく言う。
「DC?」
英斗は聞いたことの無い単位に驚く。貨幣が意味をなさなくなったため、いろんなところで新しい単位が生まれているようだ。
「なんだ、兄ちゃん。来たばっかりか? DCってのはダンジョンコインさ。なぜかダンジョンタワーの魔物は倒すとコインを落とすのさ。そのコインはあそこにある機械で色んな物と交換してもらえる。あの機械でしか手に入らない物もあるから、ここではそれが通貨になったのさ」
とおっちゃんがDPの説明をしてくれる。
「丁寧にありがとうございます。持ってないので、今回は……」
「あいよ! また来てくれ!」
英斗は教えて貰った機械へ向かう。見た目は巨大な自動販売機である。自販機は電気も通っていないのに、タッチパネル式である。英斗が触れると、交換できる商品一覧が表示される。
「おおー、必要コイン順に分けられてるな。一番高いの見よ」
英斗が操作すると、高い順に表示される。
「一番高いのは、10万DCか」
画面に10万DCのアイテムが並んでいる。
『天羽々斬 (あめのはばきり) スサノオが出雲国のヤマタノオロチを退治した時に用いたと言われている神剣。折れない限りあらゆる傷は再生する。
魔法のランプ 擦ると魔人が呼び出せる。あらゆる願い事を叶えてくれるという噂。
神の翼 この腕輪を付けていると、魔力で翼を生み出せる。
神樹の雫 死んでいない限りあらゆる怪我を完治させる。
ハルモニアのネックレス 身に着けた者に神の如き美しさを与える。』
等々。他にも沢山のアイテムが並んでいた。
「おおー、中々凄いな。神の翼は要らないけど。だけど10万DCがどれくらいかさっぱり分からん」
そう言いながら、画面をスクロールする。
「ポーションや、食べ物、日用品もあるのか。通販サイトみたいだな……。酒まであるじゃねえか」
おそらくスキルを与えたアナウンス主が用意したのだろうが、中々の充実っぷりである。日用品は安く、電池や懐中電灯、ナイフやフライパンなどなんでも揃っていた。
『なんでもあるねえ』
ナナも覗きながら、言う。
「天羽々斬は俺でも聞いたことのある神剣だから、凄そうだな。ぜひ欲しい」
と呑気に言う。ダンジョン踏破しようとすれば、いつか自然と手に入るだろう。
「もう潜った方が良いのか。まだ情報を集めた方が良いのか、悩むな」
そう考えながら周りを見渡すとなぜか少年、少女も多い事に気が付く。どうやら彼等は新しく来た者に情報を教えて物を貰っているらしい。中々たくましい。
英斗は1人の少年に声をかける。
「ダンジョンタワーについて何か教えてくれないか?」
「いいよー。けど専門的なことなら、博士に聞いた方が良いぜ?」
少年は笑顔で言う。
「博士? そんな人が居るの?」
英斗が尋ねると、少年は手を出す。
「オーク肉でいい?」
「1kgなら」
その言葉を聞き、英斗は袋に入れた1kg分オーク肉を、マジックバッグから手渡す。
「おおー。あそこの天幕に博士が居るよ。専門でダンジョンタワーを調べてる人で、丸眼鏡をかけてて白衣を纏ってるからすぐわかると思う」
肉を貰い、笑顔で教えてくれる。
「じゃあね! こんな情報に1kgも与えていたら、カモだと思われちゃうから気を付けてな!」
と肉を持って走り去っていった。
「やっぱりぼったくりだったか……」
英斗は施しの気持ちがあったため気にしないが、相場くらいは理解した方が良いな、と感じた。
英斗は少年に教えられた天幕に向かうと丸眼鏡をかけた男性が、紙を片手にうんうん唸っている。整えていないのだろう、癖毛が跳ねてアフロのようになっている。