最悪の予言
「本当ですか! なら、教えてください! なぜ俺達がこんな目に合わなきゃならないのか! 多くの人の命が今まで犠牲になったんだ……俺達は知る権利くらいあるはずだ!」
英斗は大声で言う。
「教えても良いですよ? ですが、一つ頼み事を聞いていただけませんか?」
「頼み事?」
英斗はセレナーデの頼み事が想像もつかなかった。
「はい。もうすぐ……再び何か災害が起こります。おそらく今から数か月もしないうちに。再び世に混乱が訪れるかもしれません。予想でしかないんですけどね。それを貴方に止めていただきたい。それができたならば……すべてをお教えしましょう」
「何か……? また起こるって言うんですか!? まだ皆落ち着いてきたところですよ! 何度もあんな事があったら誰も生き延びる事なんて……」
英斗は叫ぶ。そんな予言など聞きたくなかった。人類は強いと、英斗は思っている。だが、再びあの大災害があった場合、どれほどの人が亡くなるか想像に難くない。
「あくまで予想ですが……可能性は高いのです。貴方は人ではありますが……鍛錬されております。人ではトップクラスに強いでしょう。そんな貴方に任せたいのです」
「それはそうかもしれませんが……。貴方はおそらくですが、俺より強いでしょう。貴方が救ってはくれないのですか?」
英斗はセレナーデの強さを肌で感じていた。おそらく英斗より相当強い。
「私が動いては意味がないのです……」
そう呟くセレナーデ。再び災害が起こるという最悪の情報だけが手に入ってしまった。
「聞きたくなかった情報ではありますが……。対応策などは教えて貰えないのですか?」
「それが、何が起こるかまでは分からないのです。あくまで起こる可能性が高いということしか。曖昧な情報で申し訳ありませんが」
英斗にはそんな不確かな情報だけなぜ入るのか分からなかったが、おそらくセレナーデだけが持っている情報がそうさせているのだろう。
「何をしたらいいか分かりませんが、できる限り頑張ります。もし何も起こらなかったらその時も、教えてくれますか?」
「そうですね……その時は勿論お伝えしましょう。私もその方が良いですから」
「では、失礼します」
英斗はセレナーデの前から去る。歩いている途中、巫女の少女が横から顔を出す。
「セレナーデ様が、人に何か頼むのは初めて見ました。私にはわかりませんが、きっと貴方はお強いんでしょうね」
「そうですね……人並み以上には」
「強者の台詞ですねえ。神龍様のいう事は外れたことがありません。きっと何か起こるんでしょうが……」
少女は不安そうに言う。
「何が起こるは分かりませんが、できる限りは尽くしますよ」
『なにがおこるんだろうね? またあぶなくなっちゃうのかな?』
「大丈夫だ。俺達ならな」
英斗はそう言って、ナナを撫でる。その後英斗達は神社を去った。できる限りの対策をするために。
杉並区に戻ると、早速ギルドに向かう。
「今回は戻るの速かったですね。何か分かりましたか?」
花田が英斗の姿を見て尋ねる。
「悪いニュースと、とても悪いニュースどちらを聞きたい?」
英斗のその言葉を聞き、顔を歪めるも乗ってくれる。
「じゃあ、悪いニュースで……」
「悪いニュースは、何も分からなかったことだな」
「じゃあ、とても悪いニュースは……?」
眉を顰めながら尋ねる。
「これから近いうち、再び災害が起こる可能性が高いらしい。しかも何が起こるかまでは分からないらしい。おかしい話だ」
英斗は吐き捨てるように言う。
「再びって……。あの大地震が再びということですか……?」
「大地震とは限らないが……何かが起こるっていう予言だ。かなり信憑性は高い気がする」
「宍戸さんに聞きましたが、龍に会いにいったみたいですね。本当にあてになるんでしょうか? 魔物ですよね?」
花田は少しセレナーデの予言に懐疑的なようだ。確かに龍、ドラゴンはどこかの区を半壊させたこともあり、敵としての認識が強い。英斗もあの神々しい姿を見ていなかったら、疑っていた可能性がある。
「実物を見ないと伝わらないかもしれませんが、あれは人間に仇なすような魔物には見えませんでした。ナナのような、人と共存できる生き物だと、そう感じたんです」
英斗ははっきりと言う。
「英斗さんがそう言うのなら……信じてみましょう。近いうちに、再び何かある前提で備蓄や防御を固めてみます」
英斗の真剣な顔を見て信じることを決めたようだ。問題はいつ起こるか、であるが分からない以上日々気を付けるしかできないのが歯がゆかった。
宍戸にも同じことを話し、新聞を使い災害に備えるように伝えた。
「じゃあ、まだ情報は分からず終いですねえ。知りたかったんですが、月城さんなら必ずや災害を治めて情報を得てくれるはずなので、それを待っています。それにしても、そういう事情からうちの者もまだ誰も情報を得ることができていなかったんですねえ」
宍戸は溜息を吐くも、新聞で警戒することを約束してくれた。宍戸曰く、まだ記者は神龍に会えてもいないらしい。何か邪心があったのかもしれない。
信憑性が低いため一面ではなかったが、神龍のお告げという見出しとともに近いうちに災害が起こる可能性がある事が広められた。