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セレナーデ

 英斗は翌日の早朝からナナと山梨県にある神社に向かうことにした。おそらくそこに噂の龍が居るはずである。


『つぎはとおいのー?』


「中々遠いなぁ。多分ナナの足でも、1日以上かかると思う。ゆっくり行こうか」


『はーい』


 英斗はナナに乗り神社へ向かった。もう昔と違い、魔物に怯えてどこにも行けない英斗達ではない。その足を使い、我が物顔で道を行く。


 高速道路を走りながら向かうが、崩壊した世界のつけはここにもあった。そこかしこにぶつかり合って破損した車が転がっており、道が崩れて通れない事もしばしばである。


『またこわれてるねえ』


 ナナは、崩れた中央自動車道の橋から、下を見つめながら言う。


「手入れもされていなければ、巨大樹に破壊された橋も多い。突然の大地震でパニックになって、側面に激突したであろう車も見えるなあ」


『もうやまみちはいる?』


「しばらくは高速道路を使おう。崩れているところは俺が翼で飛ぶよ」


 英斗はナナを持ち上げ、橋の向こう側へ渡る。その後も少しずつ英斗達は進んで行った。






 出発から二日ほど経ち、ようやく英斗達は目的の神社に着いた。元は観光地であったのであろう付近には土産物店があったが、どこも食べ物は無くなり、地面には壊れたキーホルダーが散らばっていた。神社へは大きな反りを持つ太鼓橋が架かっており、その前を石造りの灯篭が左右に置かれている。


 大きく神社の名前を刻まれた石碑はこの崩壊後の世界にも堂々と聳え立っていた。


『りっぱだねえー』


「ここは山梨でも有名な神社らしいな。観光に来たわけじゃ無いがわくわくするな」


 そう言って、太鼓橋を渡ろうとすると怒った5人組の男達が向こう岸からやってきた。


「全然通れねえじゃねえか! ドラゴンを殺して名を上げれると思ったのによ!」


「畜生! 本当に居るのかも怪しいもんだぜ! 変な結界さえなけりゃあよ」


 男達は文句を言いながら、消えていった。


「結界……? もしかして中に入れないのか?」


 英斗は男達の言葉に不安を覚える。ここまで来て会うことさえできなければ無駄骨もいいところである。

 英斗が橋を渡ると、そのすぐ先に透明な膜が張られている。おそらく彼等はこの膜に止められたのだろう。英斗がその膜に触れようと手を伸ばすと、手は膜を抜けそのまま中にすり抜けていった。


「うお! 普通に入れるな。何だったんだ……」


『わたしもはいれるー』


 ナナも膜を何事も無いようにすり抜ける。膜を抜けると、すぐに立派な鳥居が見えた。鳥居を越えると石造りの道が広がっている。

 そこにはまだ若い少女が巫女姿で箒を掃いている。


「あれ。ここを越えられる方は珍しいですね。セレナーデ様に御用ですか?」


 英斗の姿を見て、不思議そうに言う。


「セレナーデ様?」


「神龍様のお名前です」


「なるほど。セレナーデ様にお会いしたくて参りました。ご案内お願いできますでしょうか?」


「構いませんよ。こちらです」


 そう言って、少女は歩いていく。英斗達はその後をついていきながら尋ねる。


「先ほどセレナーデ様を狙う男達を見ましたが、簡単に案内して大丈夫なんですか?」


「結界を通れたのであれば、問題ありませんよ。あの結界は悪意ある者は通れませんので」


 その言葉を聞いて、合点がいった。英斗も戦う気で来ていたらあの結界は通れないのだろう。

 しばらく境内を歩くと、少し空気が変わったような感覚を感じる。まるで現実世界とは別の世界に迷い込んでしまったような。だが、その理由はすぐに分かった。


「セレナーデ様、すみません。セレナーデ様にお会いしたいという者がおりましたので連れて参りました。よろしかったでしょうか?」


「別に構わないよ」


 まるで鈴の音のように綺麗な声が響く。神龍の纏う雰囲気が英斗にそう感じさせたのだ。全身真っ白な神龍がそこには居た。大きさは全長10m以上はあるだろう、寝転んではいるものの、その大きさは隠しようもない。

 目の前の龍は魔物という括りにしてまとめてはいけないような神々しい生き物であった。少女が龍を見て神龍と崇めるのも分かるような美しさ、気高さを感じる。


「初めまして。月城英斗と申します。本日はお会いできて光栄です」


 英斗はいつのまにか跪いて頭を下げていた。


「頭を上げて。私は彼女には神龍と言われていますが、別に神ではありません」


 セレナーデの言葉を聞き、英斗は頭を上げる。


「ですが、貴方からも他の魔物のような人を害するような気配を感じません。高い知性を感じます。いったい貴方は……」


 英斗はセレナーデが何者なのか想像もつかない。


「少し人よりも長く生きていますから……そのせいかもしれませんね。貴方のお友達であるフェンリルも高い知性は持っているでしょう?」


セレナーデの言葉を聞き、ナナの方を見る英斗。


「ナナは……フェンリルだったのか……」


 鑑定官の指輪でも鑑定できないため、未だに分からなかった種族がこんな形で明らかになった。


『わたし、ふぇんりるっていうの?』


「それはあくまで種族名ですから、貴方はナナちゃんで大丈夫ですよ」


「ナナはナナだ。何も変わらないよ」


『はーい』


「ここまで来たという事は、私に何か聞きたいことでもあったのですか?」


 とセレナーデが英斗に尋ねる。


「はい。世界がどうしてこうなってしまったのか、伺いたくて参りました」


「なるほど……。多くの人が私にそれを尋ねました……。そして私はそれを知っています」


 神龍セレナーデは唄うように、そう言った。

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― 新着の感想 ―
[一言] うん?結局、翌日からは出発しなかったんですね。休養は大事ですね!
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