そんな馬鹿こそ救われるべき
謎の大地震で文明が滅び半年が過ぎた。英斗とナナは日々魔物と戦い腕を磨いていた。英斗はここ半年で更にレベルを上げ既に32まで成長していた。
今では様々な物を大量に創造できるようになっていた。
ここ半年の検証でスキル『万物創造』について様々なことが分かった。
自然にあるものは比較的少ない魔力で創造が可能である。
人間が作った物は複雑な物ほど、より多くの魔力が必要である。
一度作った物は簡単に創造できる。
初めて作るものは実物を見た事があり、知識が多い方が創造しやすい。
生み出せるのは、英斗の体、または英斗が触れている創造物から半径50cm以内に限られる。
最後は、英斗が触れてさえいれば生み出した鉄の棘の先から、水を生み出すといった事も可能という事でもある。だが、英斗の生み出した自動人形から木や水を自由に生み出す事は出来ない。
またナナは半年ですっかり巨大になって今では全長2mを超える大きさになっており、綺麗な銀毛を靡かせる銀狼となっていた。
英斗達は近くで住みやすく、壊れていない安全性の高い建物に引っ越しをしており、悠々自適な生活を送っている。今では大金持ちの住んでいたであろうタワーマンションの一室に移動していた。
「最近は落ち着いてきたなぁ、この辺だと俺達に敵う敵が居なくなったし」
そう言って、捕まえてきた鶏が産んだ卵をフライパンで焼き、塩コショウをかけて食べる。
「ワウッ」
「世田谷の巨大建造物、ダンジョンだったらしいし一度向かってもいいかもなあ」
ご飯後、だらだらとナナと戯れていると焦った顔をして全速力で走る人々が窓の外から見えた。
「弱そうだな……おそらく警察署の人間か」
どうする?
といった顔でナナがこちらを見つめている。
「うーん、助けても養えないしねえ。自分の身は自分で守ってもらおう。さすがに目の前で襲われたりしたら助けるけどさ」
そう言って、英斗は静観を決める。
だが警察署に何があったのか気になった英斗は、警察署に向かい確認することにした。警察署はあんな経営状況にも関わらずここ半年なんとか持っていたのだ。英斗からすれば驚きしかないが、おそらく若者達が頑張っていたのだろう。
警察署に向かう途中、中年達がこちらに向かって逃げている姿を発見する。後ろには、オークやゴブリンたちが迫っている。
「助けてくれぇ!」
中年達は皆魔力をほとんど感じず、レベルも初期のまま変わらないようにしか見えなかった。
「うーん、助けて寄生されても面倒だ」
そういうと、英斗達は跳躍で二階に隠れそこからスキルを発動する。手から小さな鉄球を生み出すと、鉄球から高速で鉄の棘が伸び魔物たちに襲い掛かる。魔物達に合わせて鉄の棘は無数に枝分かれしオークとゴブリンをすべて貫いた。
「えっ、誰が助けてくれたんだ!?」
中年達は驚きつつ、周囲を見渡している。
「まあ、今助けたところですぐに死ぬんだろうけどなあ。偽善にすぎんな」
英斗は彼らにばれないように、建物の上を移動する。レベル30を超えたことでもはや完全に人間を超えた身体能力を得た英斗にはたやすいことであった。
「で……、警察署はどうなってるのかな?」
建物の上から警察署を見る。
「やはり陥落したか……」
警察署は半壊しており、そこら中から煙が上がっている。おそらく主犯はワイバーンとオーガのようであった。
ワイバーンが人間の死体を啄んでいる。
「うーん、まだ生きている人いるのかな?」
よく見るとワイバーンと戦っている警察官が居る。おそらくあの人が大和であろう。
そして、オーガと斬りあってる女子高生がB隊のリーダーであろう。
オーガは鍛えあげられた筋肉を持つ赤鬼の様な魔物で、その強さは折り紙付きである。
だが、二人ともどうも時間稼ぎにしかなっていなく勝てそうになかった。
「ナナは目立ちすぎるからここで待っててくれ、俺は魔物退治としゃれこむからさ」
そういうと、英斗は仮面を作り、顔にかぶせる。昔あったゲームの怪盗を思わせる仮面である。
「ワウッ」
ナナの返事を聞き、英斗は警察署に向かう。
「戦えない人のために命を懸けて時間を稼ぐなんて馬鹿だなあ……。けどそんな馬鹿こそ救われるべきなんだよ」
英斗は呟く。英斗は二人を救うため立ち上がった。