世界の秘密
「龍……? ダンジョンにですか?」
ドラゴンを狩って来いということだろうか。
「実は、隣の山梨県に龍が現れたらしいの。その龍は高度な知性を有しただの魔物と違うみたいでね。人とコミュニケーションを取り、人を傷つける事はしないらしいわ」
高ランクの魔物は知能も高く、リヴィスもコミュニケーションを取れていた。おかしな話ではないだろう。
「まあ、会って来いと言うのは分かりましたがなぜですか?」
宍戸は英斗の耳元まで口を近づけると、口に手をあて囁くように言う。
「なぜ世界がこうなったのか、大きな情報を持っている可能性が高いの」
英斗はその言葉に大きな衝撃を受ける。なぜ世界が突然崩壊したのか、魔物が溢れ出したのか、スキルなんてものが与えられたのか、未だに謎だらけであったからだ。
「本当ですか!? その龍はなぜこんな魔物だらけになったかを……知ってるんですか?」
英斗は食い気味に言う。
「その龍を崇める人たちの話では、龍はなぜ世界がこうなったのか知っていると言う話なのよ。そしてそれを知るべき人が来るのを待っているらしいとも言ってるの」
「なるほど。それは非常に興味があります。けどなぜ俺を? 貴方達は行かないんですか?」
彼女達の組織がこんな大きな情報源を見逃すわけはない。必ずその龍の元に向かっているはずだ。
「既にうちの記者が向かってるのよねえ。最近東京以外にも情報網を広げてるところなんだけど、他の者にその役目取られちゃって……」
「横取りはご法度ってことですね」
「そういうこと。けど、他の者が行った聞いた情報を聞く分には問題ないでしょ? 何か大きな情報が分かれば、新聞で大々的に言うつもりだから、待ってても多分情報はいつか入るかもしれないけど……誰よりも早く知りたい、それがジャーナリストってもんでしょ?」
と宍戸は笑う。この顔は英斗を使って情報を得ようという顔である。
「宍戸さんにはお世話になってますし……なにより俺が知りたいです」
英斗は少年のような顔で笑う。
「そう言ってくれると思ってた。良い情報を期待してるわ」
「精一杯頑張りますよ。地図とかありますか?」
「はい、今では貴重な紙の地図です。電子機器はもうほとんど駄目ですからねえ」
そう言って宍戸は地図を広げて目的地を指さす。
「この神社に住んでいるようです。地図必要ですか? 後で必ず返してもらいますが……」
宍戸が指差した神社は、山梨では有名な神社であった。
「いや、もう大丈夫」
英斗はそう言うと、その地図と同じ物を手に生み出した。
「コピーできるスキルとは、便利ですねえ。では良い情報期待してますよ……!」
「花田さん、ちょっとまた明日から出かけてきます!」
「えっ、またですか!? 帰ってきたばかりじゃないですか!」
花田はその言葉を聞き、驚いている。
「最近はそこまでここら辺荒れてないだろ?」
「まあ、マスターが居ないと危ないってほどではないですが……」
「人の好奇心とは、誰にも止められないものなのですよ」
「なに格好つけてるんですか!」
「前回みたいに気持ちよく見送ってくれ! ではさらば! 大物は弦一に任せるといい」
英斗は手を振って、颯爽とギルドを出ていった。本当にその龍が文明が崩壊した理由を知っているとは限らない。だが、何かあるならそれに賭けたかった。