エピローグ
闘技場の跡地に向かっていると、ナナが尻尾を振って現れる。
『えいとーー! よかった!』
そう言って、英斗に飛び掛かる。英斗はふらついておりそのまま倒れ込んだ。
「いてて。ちゃんと勝ったよ、ナナ。きつい一撃もくらわしておいた」
『こんかいのてきはつよかったからしんぱいだったんだから……』
「心配かけたな。もう大丈夫だ」
そう言って、ナナの頭を撫でる。ナナは気持ちよさそうな顔をして尻尾を振っている。
『そういえば、きめらあやつっているおとこもたおしたよ。こおりづけにしといた!』
「ナイス!」
英斗は、ナナが倒したのはおそらく桐喰だろうと考えていた。トップ2を沈めたことで本格的に鬼神会は壊滅したと言えるだろう。
無事に出てきた英斗を見て、渋谷区民は皆驚くとすぐさま英斗から逃げていった。
「呉羽は……?」
英斗はナナと共に呉羽が居ない事に不安を覚え尋ねる。
『だいじょうぶだよ! いもうとみつかったから、つれてにげていった!』
「そっか、良かった……!」
英斗は安堵の溜息をもらす。正直、呉羽が勝てるかどうかはかなり賭けであった。
『まだちかくにいるみたいだけどどうする?』
「一度会いに行こう。今後も心配だし」
英斗達は、ナナの鼻を頼りに呉羽を探す。渋谷区を出てしばらくしたところで、呉羽と柚羽を見つける。
「呉羽ー!」
英斗が手を振り、ナナから降りる。
「英斗さん、勝ったんですね! 良かったです……!」
英斗の無事を知り、涙ぐむ呉羽。
「呉羽こそ、無事でよかったよ」
「英斗さんのお陰でなんとか助けられました。本当にありがとうございました!」
そう言って呉羽は深々と頭を下げる。それを見て、柚羽も一緒に頭を下げた。
「何言ってるんだ、呉羽お前が頑張ったから、助けられたんだ。よくキメラを止めてくれた。呉羽のお陰で俺こそ勝つことができた。ありがとうな」
英斗も頭を下げる。
「そんな……世話にしかなっていませんよ!」
「正直かなり無理を言った。本当に大変だっただろう。妹のために……俺は貴方を尊敬するよ。いい顔になった」
英斗のその言葉を聞き、呉羽の目から涙が溢れる。
「あ……ありがとうございます」
呉羽は涙を拭き、英斗の目を見る。
「僕達も杉並区に連れて行ってくれませんか? 精一杯頑張ります! だから……」
呉羽が再度頭を下げる。
「頭を上げな。行こう。呉羽達なら大歓迎だ」
そう言って英斗は笑う。
「は……はい!」
呉羽が弾けるような笑顔を見せる。
「良かったね! お兄ちゃん! またお母さんとも会えるよね?」
柚羽が呉羽に抱き着く。
「ああ、母さんも待ってる! 行こう」
『いこー!』
英斗は柚羽達を連れて、杉並区に戻る。
英斗は閉じ込めておいたヒーラー達の手枷、足枷を解除する。これで彼等も動けるようになるだろう。今後渋谷区がどうなっていくのかは英斗にも分からない。鬼神会が復活するのか、それとも新たな勢力が台頭するのか。
「さよなら、鬼神」
英斗はそう呟くと、渋谷区を去っていった。
英斗達が渋谷区を出てすぐの頃、闘技場付近で一人の大男が大剣を振るっていた。その大剣は全長2mを超えており、おおよそ普通の人間が振れるとは思えないものであった。分厚く禍々しい大剣は多くのものを斬ったのだろう、血がこびりついていたがその切れ味は微塵も損なっていない。
その大男の一振りで、幾多のキメラの命が絶たれていた。
「大将、終わりましたか?」
キメラ達が全滅したことを確認してから、その大男に話しかける男が居た。年は三十くらいだろうか、とても戦えそうには見えない細い男だった。
「ああ、終わったぜ! だが、桐喰って奴のキメラは大層強いって聞いてたのに、雑魚ばっかじゃねえか。それにしても化物を放って終わりたあ中々ひでえ話だ」
そう答えた大男は顎に手をあてて答える。全長は百九十を優に越えており、肩幅も広く全身は鋼鉄のような筋肉に覆われていた。短い黒髪を上げており、口元には髭が蓄えられている。年は同じく三十ほどに見えた。
「大将、残念でしたねえ。せっかく鬼神とやりにきたってのに……」
「俺がやれなかったのは残念だが……来てよかった! おかげで良いもんが見れた。あれほどの男は初めてだ……! お前にもあの戦いを見せてやりたかったぜ! 是非ともお手合わせ願いてえ」
大男は歯を大きく見せて笑う。
「俺は殺し合いに興味ないんでいいです。けど、どこのどいつか分からないんじゃしょうがないですよ」
「なに……あれほどの男だ。必ずどこかでまた出会うさ。必ずな」
「じゃあ、それまでは人助けを続けましょうか」
そういって、男はメモ帳を開く。
「次は、荒川区の野盗共の討伐です。50人程で群れており、女などを攫って好き勝手やってるようです。ギルドから依頼がありました」
「ほう……。じゃあそこに行こうか。いい時代だ……。今なら人助けという理由で殺しさえ正当化される」
大男は獰猛な笑みを浮かべながら、大剣を担ぐと歩き出す。
「大将、そう言えば米谷が鬼神会にやられた他クランの者に囲まれてるらしいですね。どうしますか?」
「放っとけ。助ける義理なんてねえ。次の野盗達に少しでも俺を満足させてくれる奴がいりゃあいいんだが……」
「そりゃあ、無理でしょう。大将を満足させるような奴、今やそういませんよ」
「もうこんな世界になってからだいぶん経つんだ。近いうち、また大きな何かがあるかもしれねえ。俺は、それを待つとしようかね」
と大男は荒川区へ向かうため去っていった。新たな敵を求めて。
これで6章は終了です。ここまで見て下さった方全てに感謝を。本当にありがとうございます! 日々皆様の応援によって、執筆する力が湧いております。本来応援が無くても書けよ、って感じなんですが作者は本来怠け者なので助かっております。
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