野暮だろう?
その一撃の威力は凄まじく、米谷を貫いた後も、地下の壁に何mもめり込みようやく止まった。米谷は腹部に大きな穴が空き、口から大量の血を吐き後ろ向けに倒れ込んだ。
英斗は静かに米谷の元へ向かう。
「こんな奥の手があったなんて……面白い……ねぇ」
米谷は敗北を悟ったのか、穏やかに笑う。
「本当の俺の実力じゃここまで凄いものは生み出せないんだがな」
英斗はリヴィス討伐で手に入れたリヴィスの首飾りの能力を使用したのだ。1日一度だけ、自分の全魔力を使用することで本来のスキルレベルでは到底生み出せないものが生み出せるという反則級の能力であった。英斗の実験では、おそらく20程度上のレベルでしか生み出せないものが生み出せるようであった。
「おい。ナナに謝罪させるために、ここまで来たんだ。謝ってもらうぞ」
その言葉を聞き、米谷が笑う。
「ふふっ、冗談じゃない……。何も謝るような事はしてないさ……そのせいで死んだとしてもな」
米谷ははっきりとそう言った。
「そうか……」
「どちらにしても鬼神会は終わりだろうねえ……今まで不満を持っていた者もいただろうからねぇ。やってくれるねえ、月城君」
「お前……俺の名前を憶えていたのか!?」
「そりゃあそうさ……。珍しく逃がした奴だったからね……。杉並ギルドのマスターになってたとは驚いたけどねぇ」
「そこまで知ってて……なぜ誰にも言わなかったんだ?」
「言ったら……余計な邪魔が入るだろ……? 久しぶりの血肉湧き踊る戦いだった。これに……邪魔など野暮……だろ……」
すまないな桐喰……と最後に呟き、米谷は気を失った。死んでいるように見えるが、まだぎりぎり生きているようだ。
どうするか悩んでいると、謎の男達がその場に現れる。まだ残党が居たのか!?と英斗はとっさに構える。
「俺達はそいつを貰いに来ただけだ! あんたと敵対したいわけじゃ無い。その証拠と言う訳じゃないが、この勝負に邪魔ははいらなかっただろう? 俺達が他の鬼神会の下っ端を止めていたからなんだ」
代表が両手を上げて、口を開く。
「誰だ、お前ら?」
「俺達は、鬼神会に追いやられて消滅したクラン『蛇蝎』の生き残りだ。ここまで鬼神会が揺らいだことはかつてなかった。今しかないと思って同志を集めてきたのだ」
男達が演技なのかどうか区別がつかなかった。だが、英斗にはもう魔力は何も残ってはいない。このチャンスに乗じて動き出した、という理由に納得はいくが……。
「俺の気は済んだ……。後は好きにするといい」
「……本当にいいのか? こいつを殺すために、わざわざ他から来たんじゃ?」
代表の男は、あっさりと米谷を譲った事に驚いているようだ。
英斗は何も言わずにその場を去る。後始末を他人に任せるようで悪いが、渋谷区の癌は、渋谷区の者によって取り除かれるべきと思ったのも確かであった。
英斗と米谷が闘技場から飛び出した後少しして、桐喰はナナ達が戦っていた地下の一室にたどり着いていた。
そして扉を開けた時、その光景に桐喰は驚愕した。
「まさか……あいつらがやられるとはな」
桐喰は自分のキメラが2体ともやられているとは夢にも思わなかった。英斗の連れているナナの強さを完全に見誤っていたといえるだろう。
『どいて?』
ナナは歩を進めながら、静かに言う。その迫力に桐喰は僅かに後退する。だが、そこで引くような男ではない。
「舐めるな! お前もボロボロだろう。まだうちのキメラは山ほどいるんだよ! コール!」
桐喰の叫び声と共に、他の地下室に管理されていたキメラが全てこの一室を目掛けて動き始める。
『そう』
ナナはそう一言だけ呟くと、一瞬で距離を詰め桐喰を氷漬けにする。
『はやくえいとのもとにいきたいんだけど……なかなかめんどうだなあ』
ナナの耳はこちらに迫りくるキメラの足音を捕らえていた。ナナは1体ずつキメラを葬りながら英斗の元へ急いだ。