大物
その後、英斗は積極的に魔物を狩っていたが、最近さらに人が減っている気がした。
「毎日オーク肉は飽きたな……、農業した方がいいのかね。こうなったら田舎に行った方がいい気がしてきた」
最近食料のほとんどがオーク肉になっている英斗は、野菜を求めて遠出することにした。レベルは上がったがまだ野菜は生み出すことはできなかった。
「よしっ、ナナ! 野菜を探すぞ!」
「ワフ!」
家から西側に歩いていると、ビルの建物の間にオークの群れを発見した。
「またオークかよ。狩るか」
英斗は斧を構える。すると、一匹だけ明らかに体格が違うオークが居た。筋肉も通常のオークよりはるかに鍛え上げられており1.5mを超える大剣を腰に携えていた。
他のオークより頭2つ分は大きく、おそらく知能も高いのであろう、他のオークに指示を出している。
「あれはオークの上位種か? やっぱりオークも進化するんだなぁ。ハイオークってとこか」
英斗は、群れの数を数える。全部で10匹程である。英斗は今の自分なら勝てるか、考える。
「ナナ、野菜探しは少し休みだな、次の獲物はあいつらだ。近くにあんな群れが居たら休まらん」
「ワフッ!」
「次の獲物はハイオークだ」
英斗は、戻って戦闘のための準備を進める。2日間色々と道具をそろえた。正直勝てるかどうかは分からない。見張っていて戦闘姿を見たが、人間をはるかに超えた筋力で放たれる大剣の一撃は凄まじくまともに食らえば一撃で英斗は真っ二つであろう。
だが英斗は、人間である。人が動物より優れているのは知能であり、ましてや英斗は『万物創造』を持っているのだ、工夫次第で勝てると考えていた。
「行くぞ、ナナ!」
「ワフー」
英斗達はあらかじめハイオークの住処を調べていた。オーク達は廃ビルの1階を根城にしているようだ。
ハイオークの群れが住処から抜け出したのを確認するとその住処に灯油を撒く。灯油は2日かけて英斗が自ら生み出した物だ。
「いやーこれ絶対主人公がしちゃだめなやつだよなあ……」
英斗は苦笑いしつつも灯油を撒く。タイマンでも勝てるか分からないのだ、絶対にハイオークと群れだけでも分断するつもりである。
灯油を撒いた後は2階でひたすらオークたちが戻ってくるのを待つ。
二時間後オーク達が戻ってきた。オーク達は匂いが変なことに気づき、周りを見渡している。
暫くしてオーク達は建物内に入ったが、ハイオークはまだ警戒しているのか入ろうとしない。
知能の差か?と英斗は思いつつもこれで分断の目途が立った。英斗は地面に飛び降り建物内に火の玉を投げる。火の玉によって、灯油が燃え盛りオーク達から混乱の悲鳴があがる。
「グアッ!?」
すぐさま英斗は地面に手を付き、建物内の出口に鉄の壁を生み出し建物内にオーク達を閉じ込める。
「よしこれで時間を稼げるはず――!?」
ハイオークは部下の混乱にも動じず、冷静に英斗へ向けて大剣を振るっていた。
「まずっ……!」
その時ナナが二階からハイオークの顔めがけて飛び降り、爪で一撃を加える。その一撃でハイオークの大剣の軌道が少しずれる。
大剣は英斗に触れることは無く、空を切り裂くのみとなった。
ナナは地面に綺麗に着地すると、英斗めがけて激励の一吠えをする。
「ワフッ!」
「ありがとう、ナナ。油断してたな。俺は強くもないのになぁ、ほんと馬鹿だ」
「オオオオオオオオオオオオ!」
ハイオークは先ほどの一撃で片が付くと思っていたのか不機嫌そうに咆哮を上げ、英斗へ向けて襲い掛かる。
英斗は目の前に大きな土の壁を生み出す。ハイオークは驚きつつも、その巨体でぶち当たる。その衝撃に耐えきれず、土壁に少しひびが入る。
英斗はすぐさま再び土で壁を作り、ハイオークの四方を囲む。ハイオークは焦りつつ、大剣で土の壁を切りつけるも壁に閉じ込められているため十分な勢いを付けた一撃が出せず、壁を破壊できなかった。
「黒髭危機一髪といこうか」
英斗は土壁に手を付き全力で、四方の壁から鉄の棘を生み出す。
「グオオオ!!!!!!」
ハイオークの絶叫が響く。
「悪いね、流石にお前と肉弾戦する気はないよ」
勝負は決まったかと思われたが、手負いの獣ほど強いものは無かった。
ハイオークは渾身の力で壁に拳を放つ。その力は凄まじく土壁はその一撃で半壊した。だが、英斗も魔力を使い疲弊していたため反応が遅れてしまった。
ハイオークはその隙を見逃さず壁にもう一撃加える。英斗とハイオークを阻む壁は全て砕かれてしまったのだ。
ハイオークはそのまま拳を英斗の腹部に叩き込んだ。
英斗は直前で腹部に鉄の膜を作ることで致命傷は避けたものの鈍い音と共に、数m吹き飛ばされた。
「グッ……」
英斗は倒れ込みながら血を吐く。
ハイオークがこちらに走っている。英斗は立ち上がるとハイオークを直前までおびき寄せ再び土壁を作る。それと同時に自分の足下の地面にも盛り土を作り高度を上げる。
土壁は罅が入り砕け散るが、ハイオークの勢いが止まる。
ハイオークが咆哮を上げた瞬間、英斗は自らの右腕を鉄で包みハイオークの口に突っ込む。
ハイオークに噛みつかれ英斗の顔が僅かに歪む。
「い、痛え……けど入ったぜ」
英斗は残りの魔力を全て込め、鉄の腕から鉄の棘を生み出し、ハイオークの内部を貫いた。
「グウウ……!」
ハイオークは小さな悲鳴を上げつつ地面に倒れこんだ。
英斗は体が熱くなる感覚を覚える。レベルアップだ。だが今回は2回連続で体が熱くなった。どうやら2上がったらしい。
「流石に大物だったからなあ」
英斗は倒れ込んだ。だが、まだオーク達が残っているので無理やり体を動かす。ハイオークの死体を確認すると既に死体は無く代わりに宝箱が残っていた。
「えっ、まさかのドロップアイテムかよ。初めて見たよ」
そういって、英斗は宝箱を開ける。
すると中にはハイオークの使っていた大剣と同じような剣と鞘が入っていた。だが人間が使うサイズになっており、なかなかの切れ味が期待できそうである。
「既に得物はあるんだが、メイン武器としてもっとくか」
英斗は、剣と魔石を持って立ち上がる。
「ワフー!」
ナナは尻尾をふって勝利を喜んでいる。
「今回は助かったよ、ナナ」
英斗はナナを抱きしめる。
「野菜探しはまた今度だな、帰ろうか」
そして英斗達は家に戻った。
英斗達はこれからどんどん頭角を現すことになる。
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