再戦
数分程歩くと、大きな鉄の扉があった。そこからはもう呉羽でも分かるくらい、血の臭いが漏れている。鍵がないため、ナナがその爪に魔力を纏わせ振るう。
鉄が歪む轟音と共に、扉が吹き飛んだ。そこには、2匹のキメラが鎮座している。口元からは人間の血が滴っている。
1体目は下半身は女王白脚蜘蛛、上半身は四本腕のミノタウロスといった風貌である。四本の斧を持ちつつも、口からは糸を吐いている。その獰猛そうな血走った眼は、呉羽に恐怖を与えるには、十分であった。
2体目は、象の頭部に竜の翼、蛇の尾を持つ怪物である。頭部以外から、コカトリスに象の魔物を組み合わせたようだ。人の血を覚えて、濁った眼はナナと呉羽を獲物と認識しているみたいである。
『いっぴきはこかとりすっていうまものにちかいから、せきかさせてくるかも?』
とナナが言う。
「コ、コカトリスってあのS級魔物の……。そんな化物を配合させていたのか……」
『もうくる……』
2体は体を起こし、臨戦態勢に入る。その言葉を聞き、呉羽も武器を持つ。そして、2体のキメラとの決戦が始まる。
英斗はその頃、闘技場にたどり着いていた。既に観客の興奮は最高潮のようで、怒声や歓声が響き渡っている。
英斗は落ち着きつつも、どこから襲われてもいいように警戒を怠っていなかった。まだ米谷は来ていないようだ。
しばらくすると、英斗の前方の扉が開く。その姿を見た瞬間先ほどまで叫んでいた観客たちの声が止む。
米谷は、静かに歩を進めてこちらにやって来る。
「ようやく俺のラブコールが届いたようだな?」
英斗が静かに言う。
「君も中々しつこいねぇ。それにしても罠だとは思わなかったのかい? 命知らずだねぇ」
とニヤニヤ笑う。
「そちらの扉の更に奥に待機しているであろうあの2匹の化物の事か? 俺には頼れる仲間が居る。そいつらに任せるさ。後の周りの雑魚は俺達の戦いに割って入れる奴はもうほとんどいないだろう?」
そう言って、VIP席で見ている桐喰を見る。他邪魔になりそうなのは、奴くらいである。
「あのワンちゃんのことかい? あの可愛らしいワンちゃんがあの2匹に勝てるかな? 今頃、食い殺されてるかもしれないよ?」
「うちの子は強いから、あんな化物に殺されたりしないさ。それに、ナナだけじゃないさ」
その言葉を聞き、観客席から蛇男こと曽根崎が身を乗り出す。首には包帯を巻かれており、怪我をしている。
「まさか、呉羽か!?」
曽根崎は今までの情報から、呉羽が英斗と共にいると推測した。そして、すぐに馬鹿にするような笑い声をあげる。
「はっはっは! あんな弱い臆病者、一瞬でキメラに食われてしまいよ! 仲間だって? あんな足手纏いを本当に連れているとは!」
英斗は銃を生み出し、曽根崎に撃ち込む。銃弾は、曽根崎の顔にかする。
「次呉羽を笑ったら、殺す」
英斗が怒気を込め言うと、曽根崎は怯えて口に手をあてる。
「はやく、バリアを張らんか!」
曽根崎が部下に怒鳴ると、部下がバリアをドーム状に戦闘エリアに貼る。それにより、観客が声を上げる。
「さっさとやれー!」
「早く殺せーー!」
英斗は観客も気にせずに、張られたバリアに触れ確認している。
その声を聞き、審判が声を上げる。
「それでは、本日のメインマッチ、米谷賢VS銀狼使いを始めたいと思います! 武器、スキルの使用、すべて認められます。勝利条件は相手を死亡、または戦闘不能にさせることです。それでは……始めェ!」
審判の声が響き渡った。