血の臭い
鬼神会のアジトの1室では、桐喰が部下と話している。どうやら米谷はその部屋に居ないようだ。
「本当によろしいので? 人質を盾に、無理やり殺した方が良いのでは? こちらは1人も殺されてない事からかなり甘い人物ですし、それだけで倒せる気がしますが?」
部下が桐喰に尋ねる。
「俺もそう思うさ……。だが、米谷が奴と殺りたがってるんだ。米谷の願いを無下にはできんだろ」
そう言いつつも、米谷が負けるとは微塵も思っていない口調である。
「相変わらず、米谷さんに甘いですね」
「ふふ。そうかもしれんな。だが、米谷が負ける訳ない以上別にこれくらいの我儘は聞いてやってもいいだろう」
「大変失礼な質問ですが……もし米谷さんが追い詰められることがあった場合は?」
部下のその言葉を聞き、桐喰は部下に冷たい視線を送る。だが、すぐにいつもの顔に戻り、言う。
「そうだな……まあありえない話だが……もしそうなったら躊躇なくキメラを放つ。人質を盾にしてな」
「安心しました」
「ふん。米谷には言うなよ。気付いてるかもしれんが……久しぶりに楽しそうなんだ、あまり邪魔をしたくない」
「はっ」
そう言って、部下は去っていく。桐喰は1人になった部屋で、明日について思いを馳せる。
決戦の日、渋谷区は決戦の話でもちきりである。当然の様に賭けが行われており、皆各自の勝敗を予想している。
「賭けは銀狼使いが4.2倍だぁー! 米谷さんは1.2倍! やはり鬼神の勝利が固いかー?」
と胴元は自由気ままに煽っている。
「う~ん、4.2倍か……。相当強いらしいし、賭けるべきか?」
「そもそも、あのマスターがあの銀狼使いを逃すとは思えんぞ」
「確かになぁ。やっぱり米谷さんに賭けるか」
「今日の闘技場チケットは売り切れらしいな。鬼神の処刑を見たかったぜ」
と盛り上がっている。
「俺の話題で持ち切りだな」
と英斗が呉羽に話しかける。話しかけられた呉羽は真っ青な顔で振り向く。
「えっ!? 何ですか?」
どうやら緊張でそれどころではないらしい。
「落ち着け。今日の手筈は覚えてるな?」
と英斗は優しく尋ねる。
「え? はい! 覚えてます……。僕達はこの間英斗さんが作ったあの階段部分から、地下のキメラがいるであろう控室に向かうんですよね?」
キメラが居る控室は、男達が捕らわれていた所から向かえるようだが、英斗が最近ロケットランチャーで埋めてしまった。そのため地下から逃げる時英斗が生み出した階段から向かうこととなった。昨日、しっかり道も確認している。
「そうだ。おそらくそこに、桐喰の虎の子である2匹が居るはずだ。いざとなったら、俺を殺すためにな。控室の近くに、人質が居る可能性は高い。米谷の次に強いのはおそらくあの2匹だからな。そこが一番安全とも言える」
『わたしたちにまかせて、えいとはあんしんしてあのおとことたたかって』
とナナは自信満々に言う。
「僕も全力を尽くします。柚羽は僕が、救わないと」
まだ、顔は少し青いものの覚悟は決まったようだ。
「呉羽……そっちは任せたぞ」
そう言って、英斗は背中を、軽く叩いて笑う。
「ナナも頼んだ……。じゃあ、行こうか」
英斗と、呉羽達は別れる。英斗は、そのまま闘技場に向かった。
呉羽達は、英斗の作った階段から地下へ向かう。英斗の作った階段前に、数人の警備をしている者がいた。
だが、ナナにより一瞬で凍らされ、呉羽達は地下へ潜る。
「えーっと、どっちだったかな?」
呉羽が思い出しながら進む。
『たぶんこっち』
ナナが先頭を進む。
「あれ、ナナさん分かるんですか?」
『うん。こっちからまがまがしいけはいと、ちのにおいがする』
「……。行きましょう」
呉羽は顔を歪めつつも、そちらへ向かう。