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柚羽

 半日中武器を振り回し、疲れ切っていた呉羽は夜アジトに戻ると、ふらふらと何処かへ消えていった。

 1人の時間も必要だろうと、自由にさせていたが、中々帰ってこない。心配になった英斗とナナが捜しに向かうと、アジトのすぐ近くに座っていた。

 呉羽は不安に押しつぶされつつも、この場に残っていた。それは無論柚羽のためである。自分が動くことで1%でも可能性が上がるのであれば逃げる訳にはいかなかった。

 体は震えている。呉羽は大きく息を吐き、立ち上がると英斗達と目が合う。


「これは……中々恥ずかしいところを見られましたね」


 と恥ずかしそうに言う。


「無理を言って済まないな。本当に無理そうなら別に手を――」


「甘やかさないで大丈夫です。柚羽は僕の妹です。大事な事は全てを他人に委ねない方が良い、ですよね。柚羽は……僕が救います」


 呉羽は手で英斗を遮りそう言った。その言葉の最後は震えてきたが、覚悟は感じられた。


「……そうか。じゃあこれ以上は何も言わないよ」




「うちの家族のことでこれ以上迷惑はかけれないですから。柚羽は昔からとっても優しい子でした……。うちの母は体が弱かったんです。柚羽も戦闘用スキルでは無く、文明崩壊後から常に空腹でした。僕も弱かったので、いつも少ししか食べ物は取れませんでした。柚羽は自分も空腹なのに、お腹いっぱいだからって、僕や母に食べ物を渡すんです。いつも陰で腹を鳴らしていました」


「それは……いい子だな」


「税金のせいで、更に貧しくなっても文句ひとつ言わずに、少しでも食べ物を、と朝から晩まで色々なお手伝いをしてました……。こんな不甲斐ない兄なのに、お兄ちゃんは凄いよ! ってもいつも……」


 呉羽は、柚羽の事を思い出し自分の不甲斐なさに震えていた。


「そうか。お兄ちゃんとして、呉羽が守ってやらないとな」


「きっと僕を待ってると思います。柚羽の前ではいい恰好ばっかりしてましたから、柚羽は僕のことを強いお兄ちゃんだと思ってるんです」


「なに、嘘じゃないさ。呉羽はきっといざとなれば、きっと強い」


「ありがとうございます。僕の話ばかりしてすみません。英斗さんのご家族は?」


「いや、もう居ないよ。これはナナにも話したこと無かったな」


『きいたことない』


「そうですか……変な事聞いてすみません」


「別にいいよ。あの日に死んだわけじゃ無いからな。うちの両親は研究者として働いていたんだが……俺が小学生の時に2人とも死んでしまってな。それからは親戚の家にお世話になったけど、不自由なく育てて貰えたよ」


 と英斗は昔を懐かしみながら言う。


「良い人達だったんですねえ」


「ああ。良い人達だった。両親が大好きだったから子供の頃は親が死んだことを受け入れられなくてな。親を何とか生き返らせようと、色々調べたよ。けど、結局分かった事は無理だってことだけだ」


『えいと、おかあさんとおとうさんのためにがんばったんだねえ』


 ナナがそう言って、英斗の顔を舐める。


「ありがとな、ナナ。だが、馬鹿な俺は諦めなかった。人工知能でなら、と考えてな。俺は情報学を学ぶために大学へ行った。だが、どれほどのスパコンを使っても、人間を再現するなんて不可能だ。当たり前だがな。結局俺は最後、足掻くこともやめた。まあ、その時の知識で就職できたんだから悪い事ばかりじゃないんだが」


「その努力は絶対に無駄になっていませんよ。今の英斗さんもその努力があってこそだと思います」


「段々余裕ができてきて、最近思うんだ。俺のこの力は、あの頃の親を生み出したいという強い欲望から生まれたんじゃないか……ってな。勿論、人を生み出すなんて禁忌ができる訳ない。だが、その強き欲望の行きつく先はどこなんだろうな」


『どこでもついていくからだいじょうぶだよ?』


 ナナは優しく言う。英斗はその頭を撫でる。


「強いスキルを持つ者には、やはり理由があるのかもしれません……」


「少し語りすぎたな。行こうか。美味しいご飯でも食べよう」


 そう言って、英斗は立ち上がる。長らく望んでいた再戦が叶う。だが、英斗はナナと呉羽が心配であった。だが、もう引けないところまで来ている。せめて勝利を、と心の中で祈った。

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[良い点] 某マンガの傍に立つモノとか念じて実現する能力とか、 なろう出身の書籍化・アニメ化VRMMOものの各プレイヤーごとに唯一無二な能力を発揮するタマゴだとか、 能力に、パーソナリティやそれまで…
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