この震えは、武者震い
「いやいやいや! 無理ですよ! 絶対無理! 僕なんてオークが限界ですよ! オーガすら倒せたことなんてありません! 冗談は止めてください!」
呉羽は動揺を隠せず早口で言う。
「冗談でも何でもない。俺は米谷に掛かり切りになる。それは呉羽も分かっているだろう? 俺もできる限り協力はする。お前がキメラを倒して、妹を救ってやれ」
英斗は真剣な顔で言う。
「そんな……無理ですよ。急にS級の魔物を倒せなんて……。僕の力はそもそも攻撃能力すらないんです。そりゃあ英斗さんになんでも頼むのは申し訳ないとは思ってますよ……けど。助けて下さいよ! 英斗さんはヒーローなんですから」
と泣きそうな顔で言う。
「ヒーローなんかじゃない。呉羽、お前が妹のヒーローになるんだ」
「そんな無理ですよ……」
怖いのも当然だろう。英斗のレベルでもS級と戦うのは躊躇するのだ。それを呉羽に戦わせるというのは無謀に近い。
「いくら俺でもS級2体と米谷は無理だ。分かってるだろう?」
「分かってますけど……」
「当日までに、できる限り装備を揃え、作戦も練る。それに呉羽1人に任せる訳じゃない。ナナも一緒だ」
『わたしもがんばる!』
ナナは明るくそう言う。覚悟が決まっているのだろう。ナナは鑑定で測定不能と出た。潜在能力ではS級を超えているのでは、と英斗は考えている。ナナはまだ若く、英斗とともに過ごすことで大人しく育っているが本来の力はもっと上だと考えていた。
「ナナ、呉羽を引っ張ってやってくれ。本当はあんな化物と戦わせたくないんだが……ナナも呉羽も勝てそうになかったら何も考えず逃げてもいい。だから……頼んだよ」
『まかせて!』
「……分かりました。できるだけやってみます」
呉羽は絶望的な顔でそう言った。本来は臆病で戦いなど性分ではない男である。だが、時代が、状況がそれを許さなかった。
「心配するな。呉羽のスキルは使い方次第でいくらでも強くなれる。武器も、装備も整えて戦と行こう」
英斗は優しく呉羽の肩を叩く。
その夜、英斗は鬼神会からのお誘いの返事をするため、町の中心街に向かう。既に辺りは真っ暗で人っ子一人いない。英斗はポスターに大きく、赤いペンキで、
『 com'on!』
と描く。ポスター全てを塗りつぶすようにである。
「この震えは、武者震いだよな?」
と英斗は自らに問う。勿論返事はない。苦笑しながらもそのままアジトへ帰った。
翌日から呉羽に装備を渡す。ダンジョン製の装備である。レアリティはSRと、Eという英斗が使っている装備と遜色のない名品である。
「これは、ダンジョン製ですか?」
と全身フル装備でかためた呉羽は驚きつつも言う。
「ああ。武器は、刀も渡すが接近戦は厳しいだろう。銃や、ロケットランチャーなどをメインに覚えな」
そう言って、デザートイーグルやロケットランチャーを手渡す。
「……武器商人みたいですね、英斗さん」
「手榴弾も大量に渡す。全て当日までにある程度使用できるようになれ」
「はい」
英斗達は、渋谷区から離れた場所に移動する。そしてデザートイーグルや、ロケットランチャーに慣れるため魔物を狩る。最初は当たらなかったが、少しずつ当たるようになる。とはいえ至近距離で撃った場合のみであるが。
「距離が空くと全く当たりませんね。」
「狙撃手じゃないんだから、数mの距離で当てられるようになればいい」
呉羽は武器一式の使い方を学ぶ。これからの一戦のために。