出し物
だが、それ以降ナナに乗って移動していると区民からの目線が明らかに変わっていた。
「あいつだ!」
「あいつのせいで、税金も上がったらしいぞ!」
悪口を言われるだけならまだましで、石すら投げられる。
『こおらせる?』
「う~ん、もっと酷くなったらそうしようか」
英斗達は無視することにした。そうなると、力量の差が分かっていない区民が、英斗が自らを恐れていると勘違いして絡んでくるようになった。
「おい、最近のお尋ね者だろ、お前。お前を殺したら鬼神会で幹部階級になれるって専らの噂だぜ」
と腕自慢のオヤジが絡んできた。
「あっそう。あそこもうすぐ潰れるんで、なっても仕方ないぞ」
「良いスキル持ちかもしれねえが、首を斬れば誰だって死ぬんだぜ!」
そう言って、口から刃物となった舌で英斗の首を狙う。英斗はその舌を、盾を生み出し受け止める。
「大道芸の方が向いてるぞおっさん。それにあんたに言われなくてもそれくらい知ってるさ」
英斗は、オヤジの右足に蹴りを入れる。骨が折れる鈍い音がした。
「ガアッ!」
そしてバランスを崩したオヤジの左頬に右ストレートを決める。オヤジはそのまま一回転して地面に豪快に叩き付けられる。周囲で物珍しそうに見ていた一般人も改めて英斗の強さを目の当たりにして言葉を失う。
「はあ……思ったより、皆が敵なのは鬱陶しいな」
溜息を吐きながら、英斗はその場を去った。英斗はこれこそが桐喰達の策だと思っていた。だが、これはほんの一部分に過ぎなかった。
翌日、町の中心街に大きなポスターが張りつけられていた。歩く区民達は皆その内容に驚き足を止める。その内容は姿を変え歩き回っている英斗達の目にも入る。そこには大きな文字でこう書かれていた。
『鬼神VS銀狼使い!』
時刻は3日後の正午。逃げた場合は、捕まえた奴隷を一斉に処刑すると下に書かれている。鬼神とは、勿論米谷賢である。
「遂に、引っ張り出せたか……」
と英斗は口角を上げる。場所は英斗が破壊した闘技場のようだ。今急ピッチで改修工事をしているみたいだ。
区民達も最近渋谷区を騒がせている男と、鬼神会のトップのビッグマッチに興味があるのか、盛り上がっていた。
「最近、鬼神会の奴ら、見なくなったもんなあ。殆どやられたんじゃない。遂にあの人まで動くなんて」
「いや、米谷さんには敵わんだろう……。あの人まじで強いよ! 人間とは思えないくらい……」
「処刑が始まるな! 銀狼使いがぼろぼろにやられるの見に行こうかね」
「鬼神会遂に滅びるときなのかね。元々俺が税金制度なんて反対だったんだよ!」
「お前、聞こえたらどうなるか分からんぞ!」
と好き勝手聞こえてくる。米谷の勝ちを疑わない者や鬼神会の終わりを感じる者など様々だ。英斗達は、アジトに戻り今後の対応について考える。
「英斗さん、これは間違いなく罠ですよ。闘技場は入場口以外に扉があります。あそこから桐喰の最強と言われうキメラ2体で襲うつもりです」
と呉羽が言う。
「……まあ、罠だろうな。普通に米谷が勝ちそうなら出してこないかもしないが、こちらが有利になった場合、キメラが出てくる可能性は高い」
英斗も馬鹿正直に一対一になれるとは思っていない。
「どうするつもりですか?」
呉羽は不安そうに尋ねる。
「勿論行く。なにより行かないと、人質が皆殺されてしまうからな」
その言葉を聞き、胸をなでおろす呉羽。人質の中には、妹の柚羽もいるため当然の反応だろう。
「ですが……1人でも勝てるか分からないのに、大丈夫ですか?」
「……だから呉羽、キメラの1匹はお前に任せたい」
英斗は、呉羽の両肩を掴みそう言った。