精鋭達
「春海を倒すとは……やっぱり強いなあ、あんた」
と若い男が、英斗を見つめて言う。春海とは、先ほどの砂スキルの男だろうか、と首をかしげる。
「正義の味方面して奴隷たちを解放したらしいな。まだ残ってる人が居るが、そいつらがどうなってもいいのか?」
プロレスラーのような筋骨隆々なモヒカン男が言う。柚羽達の事を言われ、英斗は動揺を顔に出さないよう気を付ける。
「確かに、俺は困っている人はできるだけ助けたいが、あくまでできるだけだ。人質を取られた状態で勝てるとは思っていない。人質を殺されたら、そうだな……彼らの墓前をお前たちの骸で埋めて供養するよ」
英斗は冷たい目でそう言う。実際半分くらいは本気で思っている。もし柚羽を盾に取られたとしても、刃を振るう気である。だが、本当に振るえるのだろうか、と不安な自分もいた。
「あくまでその掌で守れる分だけ……ってわけか。その潔さは嫌いじゃない。だが、暴れすぎだ。悪いが、全員でかからせてもらう」
と若い男が言う。
「別に構わないが……5人でいけると思われているなら心外だな」
その言葉と同時に全員が臨戦態勢をとる。英斗はナナから降り、魔力を両手に込めると地面につける。
「千蛇鎖」
英斗の言葉と共に、地面から千の鎖が生み出され蛇のように襲い掛かる。
「おいおい、まじかよ」
5人はそれぞれ対応するが、あまりにも膨大な量である。モヒカン男はゴリラのような獣人に変化し、逃げながら鎖を引き千切る。若い男は、剣を使い鎖を一閃している。
若い女は、火の玉を出し、応戦している。もう一人のやせ型の男は、鎖を謎の力で止めていた。
皆実力者であり、鎖に捕らわれる事は無かった。だが、自由な動きは明らかに阻害されていた。すると英斗は、魔力で出来た玉を上に投げる。
その玉は上空30m程の位置で爆発する。
「流星雨」
玉が爆発した場所から、無数の直径30cm程の隕石が降り注ぐ。鎖で動きを阻害されていた者達はその隕石の雨に打たれる。
その隕石の雨により2人は既に戦闘不能になり倒れ込んでいた。だが、まだ3人残っている。
若い剣を使う男は、血だらけになりつつもその闘志は消えることなく、英斗に向かってくる。
「ふう……見事」
英斗はそう言うと、男の渾身の一撃を刀で受け止める。レベルは英斗の方が高くとも、剣関係のスキルを持つ男の一撃は重い。だが、先ほどの雨で腕を痛めたのか、英斗でも止めることができた。
「ガアアア!」
だが、ゴリラ化した男に横から思い切り殴られる。英斗はそのまま吹き飛ばされた。
「こ……このまま一気に攻めろォ!」
ゴリラ化した男が叫ぶ。
「極大炎天・炎虎砲!」
炎スキルの女が、直径8mを超える火の玉を英斗のもとに放つ。その火の玉はぶつかり、爆発を起こす。
だが、3人とも油断はしていなかった。英斗は、爆風の中から無傷で現れると、若い男に横薙ぎを食らわせる。男は剣で受け止めた。
すると英斗は2つの剣を両手に生み出すと、若い男の両足に突き刺す。
「グゥッ!?」
痛みで若い男の剣を持つ手の力が緩む。その隙に、脇腹を斬り裂いた。
「なんで……効いて……!?」
女は再度魔力をためるも、その隙を待つ訳も無い。魔力を纏わせた黒き斬撃を飛ばし、女を切り倒した。
「ふう……そっちは終わったようだな」
英斗が振り向くと、ナナがゴリラ化した男を倒し終えていた。
『かれらもつよかったねえ』
返り血を付けたナナが言う。
「強かったなあ。一気に攻めて良かったな。長引くと……また来たか。逃げるぞ!」
『はーい』
騒ぎを聞きつけて、鬼神会の者が集まり始める。魔力を消費した英斗はナナに跨るとそのまま逃亡した。
「かなり人数削ったはずだが……どんな手を打ってくるかな?」
英斗は逃げながら、そう呟いた。