計画
英斗達は、敵の姿が見えないくらい距離を取った後、ゆっくりと呉羽と居たアジトに戻る。
「呉羽、無事に母と妹を連れて逃げられたかねぇ」
と呟く。時間との戦いであったため、扉を壊した後はすぐに去ったため、結果が分かっていない。
『ぶじだといいねえ』
とナナも言う。アジトに戻るとバッグの数は減っており、皆ここを旅立ったようだ。まだ、救出した人と行動させている自動人形は1体も破壊されていない。場所を感じ取ると、順調に逃げているようだ。
英斗は先ほどまでの命がけのやり取りに疲れ、地面に倒れ込む。
「流石に渋谷のトップクラン、人材が豊富だったな……。S級を倒せるような奴らが何人もいるとは」
『けど、ひかないんでしょ?』
「ああ、勿論だ。俺達なら倒せるさ」
「よゆうー」
とナナも地面に寝転がり、英斗に引っ付いた。しばらく休憩していると、下の階から人が走って来る音がする。英斗は起き上がり、少し警戒する。
アジトの部屋への扉が開かれる。そこには、汗だくで少し顔の青い呉羽の姿があった。
「い、妹が……柚羽が……!」
呉羽は震えた声で、そう叫んだ。
英斗はその様子から、すぐに事態の深刻さを悟った。
「呉羽、落ち着け。妹がどうしたんだ?」
「す、すみません……。実は、救出に行った部屋に柚羽は居なかったんです……。どうやら、次の興行に出す者を早めに連れて行ったようで。母は居たのですが」
「既に動かれていたのか……」
「母と他の女性達を渋谷区が出るまで送った後、すぐに戻って参りました」
「すぐに妹を探したかっただろうに、ありがとな」
と英斗が言う。
「母も居ましたし、任されましたから……」
そう言うも、顔は青い。妹が心配なのだろう。
「他の人から、何か情報は聞けなかったのか?」
「いつもは直前に呼ばれるはずなのに、今回だけ早めに連れていかれたようです。人数は、女性側は3人です」
「俺が呉羽を助けたから、同様に助けると思われてたみたいだな。見張りも多かったし、対応も早かった。妹が、呉羽との関係を考えた上で連れていかれたのか。ただ次選ばれる予定だったのか、気になるな」
もし呉羽の妹を助ける予定でこちらが動いていると知られているなら、人質として利用される可能性がある。あくまで、助けたい大勢の1人だと認識されているならばそこまで危険性はないはずだ、と英斗は思考する。
「とりあえず、俺の目的は米谷という事は伝えてある。明日からはゲリラ的に鬼神会を襲い、米谷とのタイマンまでなんとか持っていくつもりだが……」
こうなってくると、中々柚羽を助けるのは難しい。
「……大変なのは分かっています。柚羽を助けるため、僕も動きます」
呉羽は何か決意した顔をしている。
「そう無理はするなよ。俺もできる限り動くつもりだ」
「ありがとうございます……」
英斗は、呉羽と明日以降の予定を考える。柚羽を助け、米谷を倒すために。
英斗達は生み出した布団から出た後、今日の予定を確認する。
「俺は、まず鬼神会の回復役を捕らえる。俺はできる限り殺すつもりは無いので、そこを止めないと永遠に襲い続けることになるからな。呉羽はどうする?」
「僕もついて行っていいですか? 僕もメンバーに聞きたい事があるので」
「いいぞ。行こうか」
「はい」
そう言って、英斗は呉羽と共に鬼神会のメンバーを探す。外を隠れながら移動すると、至る所で鬼神会の連中が英斗を探していた。
「白い狼を連れている男だ、見なかったか?」
と鬼神会のメンバー5人組が、住民に尋ねている。
「丁度良い。あいつらに聞こう」