前哨戦
「ん……君、俺と会った事あるのかな?」
と顎に手をあてながら考えているようなそぶりを見せる。そして、ナナを見てようやく思い出したようである。
「あ~、世田谷ダンジョンの! せっかく命拾いしたのに、また来たんだねぇ」
とニタニタと笑う。
英斗は、地面から大量の魔鉄製の鎖を生み出し、米谷に襲い掛かる。
「おお~、これは多い。前より出力上がったのかな?」
そう言って、紐を千切るかのように鎖を引き千切る。だが、次の瞬間、米谷の地面を影に変え沈める。そして木の根を周囲に生み出し拘束にかかる。
だが、米谷は木の根を拳一撃で消し飛ばすと、そのまま英斗に向かって走る。
米谷が拳を振るう前に、壁を生み出す。
「この程度で止められるかな?」
米谷はそう言って、魔力を纏わせた拳を壁に向けて放つ。轟音と共に、魔力が弾ける音がする。だが、今度は砕けなかった。
「お前のための特別製だ」
英斗は、超硬合金で生み出された壁を生み出した。超硬合金の硬度は鉄を遥かに超える。鉄より魔力を多く消費するものの、米谷用に開発していた。
米谷は少し不快そうに、顔を歪めた。
そして、その隙に、米谷の左腕を超硬合金製の鎖で拘束する。そして止まった瞬間に英斗は渾身の魔力を込めた白鬼刀を振りぬく。
すると米谷も腰から、真っ黒な刃の小型ナイフを抜き、受け止めた。
強者の渾身の一撃がぶつかり合い、魔力が爆ぜる。ビルは大きく揺れ、残っていたガラスが全てその衝撃で粉々に砕け散る。
そして、両者は同時に弾き飛ばされた。英斗が、地面に手をつき立ち上がると、既に周囲は鬼神会に包囲されていた。
その中に1人禍々しい殺気を放つ男が居る。桐喰である。その端正な顔を怒気で歪ませ、ドスが利いた声で言う。
「お前……人のシマで何してる?」
「ちょっとあんた達が世紀末の悪党みたいなことしてるからさ、ヒーローごっこさ」
と英斗が笑う。
「自分が死地に居る自覚あるのか?」
と冷たく言う。英斗の周囲には多くの鬼神会のメンバーが居るが、米谷、桐喰以外にも強い奴がいるようだ。5人組のパーティーだろうか、全員中々の手練れで、鬼神会のトップパーティだろう。5人でなら、S級も狩れそうなほどであった。
だが、そいつらより厄介そうなのが、2体居る。桐喰の後ろに居る2体のキメラである。その禍々しい見た目と魔力はおそらく2体がS級並の化物である事を表していた。
だが、英斗は圧倒的な死地でこそ笑った。
「死地? 笑わせるな。この程度、俺にとっては日常のワンシーンさ」
その言葉を聞いた米谷も笑う。
「半年くらい前は必死で逃げていただけの男が……抜かすじゃないか」
「そのために鍛えたんだよ、おっさん」
英斗は話しつつも、冷静に現状を分析していた。米谷1人で手一杯であるのに、S級の敵は何人もいる状況は流石に厳しいとは感じていた。
「今日は人を助けて、お前らに嫌がらせもできたしこれくらいにしてやるよ。だが米谷、お前は必ず仕留めるぞ。ナナ!」
英斗がナナを呼ぶと、ナナが英斗の元へ走る。
「お前、この人数から逃げられると思っているのか?」
桐喰がそう言うと、一斉に襲い掛かって来る。
「逃げるのは得意でな。じゃあな」
そう言うと、大量の煙幕を発生させ、ナナと英斗に似た自動人形を複数生み出し、四方に走らせる。
それにより敵を分散させつつ、桐喰にロケットランチャーを撃ち込む。キメラが間に入って防ぐ。米谷は自動人形に釣られず、一直線にこちらに走ってきているようだ。
超硬合金の壁を生み出し、全力で疾走する。そして壁の先は、沼に変えておく。上に飛び、壁を乗り越えた米谷が沼に嵌る。
すぐさま、沼から出るも数秒のロスが生まれた。その時間があれば、ナナは遥か先まで歩を進めている事は言うまでもない。
煙が晴れると、そこには先ほどやられた大量の鬼神会メンバーだけが倒れていた。