突入
柱に隠れながら、呉羽が曽根崎の幻影を移動させる。曽根崎の姿を見た階段前の見張りが驚きつつ、声をかける。
「曽根崎さん、お疲れ様です! どうかなさったんですか?」
その声を聞き、上の階から階段を見張っている者も、挨拶をする。曽根崎の幻影は、ただ手で5人を呼ぶ。5人とも不思議に思いつつも近くまでやってくる。すると、曽根崎の幻覚がある方向を指さす。
そちらを見ると、謎の人物が隠れていた。中身は英斗の自動人形であるが。
「誰だあいつ! 今すぐ追うぞ! お前だけ残っていろ!」
そう言って、1人を残し、他4人が自動人形を追う。
「意外に行けるもんだなあ。1人くらいなら……」
英斗はそう言うと、木の根を地面から生み出し残った見張りに絡みつかせる。根は体に絡みつくと、口を押さえにいく。
「なんっ!? むぐぅ……!」
口と猿轡のように塞がれ、そのまま見張りは締め付けられ気絶する。
「僕の力なくても、いけたのでは?」
「安全策だ」
そう言って、すぐさま地下への階段を下る。地下はどうやら資料等を置く場所だったらしく、多くの部屋があり、鍵がかかっている。
時間も無い英斗達は、ドアを蹴破りながら女性達を探す。だが、どれも埃っぽい資料室ばかりである。
「どこだ……?」
そういって、奥へ進んでいくと、3つ後から付けただろう鉄製の扉があった。
「ここか」
そう言うと英斗は鉄の巨大な腕を地面から生み出し、そのままそのうちの1つに振りぬいた。扉が轟音と共に、外れる。煙が舞い、女性の悲鳴が聞こえる。
「や、やりすぎですよ、英斗さん」
と隠れながら、呉羽が言う。
「時間が無いんだ」
そう言って、室内に入る。中には幼い女の子から、妙齢の婦人まで、6人程の女性が怯えながら壁に張り付いている。
「すみません、驚かせてしまいましたね。助けに来ました」
英斗は、穏やかな声で笑いながらそう言った。
「えっ、助けに……?」
婦人が疑わしそうに尋ねる。どうやら、警戒しているようだ。
「はい、ここに居ても長くはないです。残りたい人をむりやり引っ張り出す気はないのでご安心ください」
呉羽も室内に入ると、大声で家族を探す。
「母さん! 柚羽!」
英斗は探している呉羽に声をかける。
「呉羽、俺は残りの扉を破壊する。説明しておいてくれ」
「はい!」
英斗は残り2つの扉も破壊する。同じように、皆驚きと不安な顔をしている。同様に軽く説明する。
「これから、渋谷区を出ます。その後は好きな所に逃げてください。1週間分の食料もお渡しします。行く場所がなければ、杉並区へ。時間はあまりありません、ご決断を」
英斗の真剣な声色から、事実だと感じた女性達はすぐさま立ち上がる。閉じ込められているせいか、少し顔色が悪い。
「呉羽! 俺は先陣をきって人目を惹き付ける。自動人形を2体残しておく。軽い戦闘ならできるから、そのまま皆を連れて、逃げてくれ!」
2体の自動人形を生み出す。
「は……はい!」
動こうとする英斗の袖を、婦人が掴む。
「す、すみません……。夫がまだ、捕まって……」
申し訳なさそうに、夫の事を告げる。
「今から、男性陣も助けに行きます。だが、必ず助けられるとは言いません。できる限り行います、としか言えません」
「いえ、十分です……」
英斗の言葉を聞き安心したのか、婦人はそのまま立ち上がり他の者と共に動き始める。英斗はすぐさま、階段を駆け上がり、地下闘技場を目指す。まだ、見張りは帰ってこないらしい。
だが、ビルを出た瞬間、鬼神会のメンバーと鉢合わせする。
「誰だおま……ウブッ!」
蹴りを腹に放ち、倒れ込んだ所を鉄で縛り上げる。だが、他の見張りも帰ってきたようだ。
「出たぞーーー! こいつだーー!」
大声をあげる見張り。英斗は、自分に敵を集中させるため、派手に暴れる事を決めた。
「来いよ、雑魚共」
火の玉を10以上生み出し、四方八方に放つ。
「ぎゃああ!」
体を焼かれた見張りが叫ぶ。
ナナも、氷の槍を生み出し、鬼神会のメンバーに放つ。多くのメンバーが貫かれた。
「ナナ、派手に行こうか! もう隠密行動は終わりだ」
『おっけー!』