救出作戦
「やっぱり見張りが居るか……」
地下へと続く階段の前には、2人の男達が立っていた。だが、良く見渡すと、上の階からも見張りが立っている。他にも探すと合計10人以上の見張りが居た。昨日の件があったせいか、警戒心が高い。
「おいおい、多すぎだろ……。無理やり突破自体は余裕だが……」
全てを逃がさずに突破はこの人数だと厳しそうであった。ここで失敗すると、救助の難易度が跳ね上がる。
「どうしますか……?」
呉羽が不安そうに聞く。
「とりあえずは監視を続ける。まだ少しだけ時間はある。人が減る時間帯を調べよう」
「はい」
それから、英斗達は1日中人の流れを監視し、最も少なくなる時間帯を調べ上げる。その結果、昼頃が最も人が少なく、5人まで減っていた。
英斗達は、根城にしているビルに戻り、明日の計画を話す。
「明日の12時に、突入する。助けた後は、1週間40人分の食事をこのバッグに入れてある。各自逃げるよう呉羽が指示してくれ。行き先が無い者は杉並ギルドを頼ると良い」
英斗は40人分のバッグを生み出し、その中に1週間分の非常食も入れた。
「よくこんなに用意できましたね……。分かりました、皆にそう伝えておきます」
と呉羽が驚きつつ言う。
「当日は、女性達を助けたら、男性達の救出に向かう。呉羽は母と妹を救ったら、そのまま逃げろ。何かあったら、ここに戻って来い」
「はい……すみません。本当にありがとうございます。私が捕まっていたところに男性陣は皆居るはずです。階段を下りて、闘技場へ向かう途中の扉の先に、檻があります」
と頭を下げる。
「別に構わないさ。これも全て米谷に繋がるからな」
「あの人の強さは尋常ではありません。お気をつけて」
「ああ……知ってるさ」
英斗達は少し緊張していた。もう米谷の近くまで来ている、その事実に体が強張っていた。
次の日、12時前に英斗達は、北斎商事のビル内の地下へ階段近くに待機していた。12時で食事に行くのか、多くの鬼神会のメンバーが見張りから離れ、5人まで減った。
「どうしようかね……。オークに似た自動人形でも作るか?」
と英斗が思考していると、呉羽が言う。
「一時的にならどかせます。その隙に地下へ行きましょう。手伝ってください。」
呉羽はそう言うと、昨日闘技場に居た蛇男こと曽根崎の幻覚を生み出す。顔のみ蛇になっており、太った体も完全に再現されている。そして今後の段取りを説明する。
「おお~! あのおっさんそっくりだな」
「あくまで幻覚ですから話せないんですよね。英斗さんの姿をあの蛇男にすることもできますが、声真似できます?」
「無理に決まってるだろ……。そんな特技ないわ」
「ですよね……。こんな感じで変われます」
呉羽がそう言うと、呉羽が誰もが見惚れる程の、金髪美人に変わる。目視だけだと、本物にしか見えない。これが幻覚とは誰も思わないだろう。
「えっ!?」
英斗は思わず声が漏れる。
「中身は僕ですよ」
美人の口から、呉羽の男声が発される。
「うおっ! これは確かにばれるか……。だが、呉羽のスキルこれは本当に凄いな……」
「照れますね……」
可愛く美人が照れているが、これは男である。
「誰にでも幻術をかけれるのか?」
「幻術は私の半径20mの範囲内なら自由に生み出せます。けど人を別の姿に変えるには、一度直接触れないとできないんです。だから、あの見張りの片割れを別人に見せることは現時点じゃできません。一度触れると、1時間その姿を変えられますし、触れて姿を変えたものは範囲が半径5㎞の間効果が持続します」
「なるほど……。だが、20m以内なら自由に幻覚を生み出せるのは強いな」
「自由に動かす事も可能ですよ。見ててください」
そう言うと、さっき生み出した曽根崎がタップダンスを踊る。
「SNSのある世界なら恐ろしく悪用できそうな世界だ……」
英斗が呟く。
「確かにそうですね。それじゃあ行きますよ」