お前だったのか
そして、事務を扱っている元宮は粉々になったブロック塀を見ながら途方に暮れていた。
「これは中々ひどい有様ですねえ」
と英斗が声をかける。
「遂に、太刀川君が爆発しちゃったみたいで。このままじゃ同じギルド内で殺し合いですよ……。バリケードも壊れちゃったし。月城さん、スキルでなんとかしてくれませんか?」
と元宮が手を合わせ、頭を下げる。
「まあ、これくらいなら」
そう言って、英斗は鉄の壁を生み出す。これで前よりも頑丈だろう。
「ありがとう! 助かります! 最近物資も減り気味でバリケード1つ探すのも大変なんですよ」
と笑顔で何度も頭を下げている。
「構いませんよ」
英斗はそう言って、周囲に何かないか探る。辺りにあるのは血溜まりや、戦闘痕である。当たり前だが、収穫はなかった。英斗が帰ろうか考えていると、前の方から血の匂いをさせた龍人、太刀川が現れる。五郎に斬られたのか、右腹部の部分の服が切れて地肌から鱗が見えていた。そして右頬は殴られたのか、真っ赤になっていた。
「あんたレオさんとやり合ったんだって? あの人強いだろ。俺はいつかあのおっさんを倒してぇんだよ」
と笑顔で話しかけてくる。
「ああ、強かったよ」
「いやー、確かにあんちゃんは強そうだが、レオさんとのタイマンして生き残りそうにも見えねえが……」
と品定めをするように見る。
「スキルってのがある以上分かんねえわな。殺人犯って疑われてるようだけどよ、梓を救ってくれたのはあんたらしいな。ありがとよ」
と言って直ったバリケードを見てそのまま去っていく。別に英斗に用があったわけではないらしい。
「なんだったんだ……」
裏表のなさそうな男だな、と思うもその血だらけの服を見て考えを改める。あの牙はいったい誰に向けられるのだろうか、と英斗は思いつつその場を去った。
その夜、梓は英斗に尋ねる。
「もう1週間無いけど大丈夫なの?」
「う~ん。どうだろう。犯行現場についてまとめてはいるんだが。やっぱりあの2人じゃないのかねえ。今からでも糸を使うスキル持ちを外のクランで探そうかな」
と悩み始める英斗。
『えいとのめのまえでころされたときって、いとでころされたんだよね?』
まとめている英斗にナナが尋ねる。
「おそらくだけどな」
『そのときってはんにんはちかくにいたのかな?』
「そりゃあ居たんじゃないか? もし凄い遠隔で殺せるのなら、刃物使って殺したりしないだろうしなあ」
『そっかあ』
「俺やレオを見ていたのかもしれないな……」
英斗はそう呟いた後、何かについて考え始める。
「分かったかもしれない……ような」
「えっ!? 誰なの?」
「まだ確証なんてなにも無いんだが……少し調べてみようかね」
英斗はあたりを付けたようであった。果たして……。
それから英斗は毎日ある人物を監視していた。だが、特にその人物に怪しい動きは無い。ただ時間だけがいたずらに過ぎていった。英斗は自分の選択は間違っていたのだろうか……と不安に駆られながらも必死で耐え抜いた。
だが、遂に動きがあった。それは約束から13日後のことであった。夜も監視していると、その人物は屋根の上に飛び乗ると、両の手をまるで舞のように優雅に動かした。そして英斗から見て前の道から獣人が歩いてきたのである。
英斗は何も見逃すまいと目を凝らしていると、この暗闇に僅かに糸の反射が見えた。
まずい、と感じると同時に白鬼刀を振りぬき、斬撃を飛ばす。その斬撃は、獣人を切り裂こうと放たれた糸を斬り裂く。
「えっ!? な、なにが! 例の殺人犯か!?」
英斗の助けた斬撃を自分を狙った攻撃に見えたのだ。
「おい! 逃げろ、速く!」
英斗は獣人に叫ぶ。
「え、お前がやったんじゃ……」
男は動揺しつつも、英斗の気迫に押され走り始める。屋根の上で獣人を狙っていた人物は静かに英斗を見つめている。
「やっぱりあんただったのか」
英斗はその人物を見つめ、そう言った。