暴発
捜査開始から1週間程経った夜、英斗はクラン『獣人の宴』のエリアの屋根を移動しながら、怪しい人物を探していた。
しばらく移動していると、闇夜の中屋根の上で僅かに揺れる何かを感じた。はっきりと視覚できたわけではない。感覚的なものである。英斗は動きを止め、その空間を眺める。
するとその何かは動き始める。だが、相手も隠れる英斗に気付いた。
「誰だ、お前」
と静かに呟く。その声の主は先日エリア外で出会った五郎であった。
「こっちの台詞だ。ここは獣人の宴のエリアだろう。勝手に侵入なんて、喧嘩を売っていると勘違いされるぞ?」
英斗も腰を上げ、問い返す。
「ふん、よそ者のお前さんに言われたくはねえな。それに喧嘩を売りに来た、と言ったらどうする?」
「前回よりもずいぶん好戦的だな。正直に答えてくれ、あんたが連続殺人犯か?」
そう言って、刀に手を伸ばす。
「お前さんこそ、ここでは連続殺人犯なんて言われてるらしいじゃないか。自分の罪を俺に擦り付けるのは、やめてほしいもんだ。俺は、俺の命を狙っているあの龍もどきを殺しに来ただけだ」
と煽るように言う。この口調から、太刀川と五郎の仲は既に修正は不可能そうなほど壊れているらしい。
「……それは答えになってないぜ、五郎さん」
「太刀川を殺したら連続殺人犯ってか。答えはこれだ!」
そう言うと、五郎は小さな鎌を2つ生み出し投擲する。英斗もナイフを生み出し投擲し鎌にぶつける。金属音が鳴り響いたと思ったと同時に、英斗の首元に鎖鎌が迫っていた。
「あっぶな!」
英斗は間一髪しゃがみこみ躱すと、既に前方に五郎の姿はない。その代わりに、英斗は鎖鎌の鎖に囲まれていた。英斗は、自分の周りから鉄の棘を大量に生み出しすべての鎖を切断する。
「やっぱり強いなあ、お前さん。人も集まってきそうだし、今回はこれくらいで退散しようかね」
と五郎は言うと、屋根を伝ってするすると逃げていった。英斗は追うか迷ったが、今回のやりとりでは犯人か分からない。素直に刀を納めると溜息をついた。
だが、英斗が思っていたより、外部クランとクラン『獣人の宴』の仲は良くなかったらしい。次の日遂に小さな争いが起こってしまったのである。
英斗が空き家で朝食を食べ終わり、今日はどうしたらいいだろうか、と考えていると扉を開ける音と共に、山田の大声が響く。
「月城さん、五郎さんと、太刀川さんがぶつかりました! 周りも巻き込んで50人を超える争いになっています」
「……遂にか」
英斗はそこまで驚かなかった。時間の問題だと思っていたからだ。
「死人は出てないのが救いですが、重傷者が多数出ています」
「もう収まったんですか?」
「はい。レオさんが太刀川さんと五郎さん両方に攻撃を加え強制的に止めた形です」
「……oh」
ワイルドすぎる解決方法であった。
「月城さん、何か犯人に関する情報は見つかりましたか?」
「……」
「なるほど。犯人は今までの犯行全て夜に行っているみたいです。もう夜に張り込むしかないですね」
やってるんだよなあ、という言葉を飲み込み、英斗はただ返事をする。
「頑張ります」
英斗は話し終わった後、せめて何かヒントがないか、争いの跡に向かう。獣人の宴エリアはその場所が様々なバリケードで囲われているが、付近で揉めたせいかバリケードとなっていたブロック塀は粉々になっている。
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