さよなら平和な世界
初めは小さな異変だった。
地震を思わせる大きな揺れが起こる。
「おお、地震か?」
そう言って、月城英斗はテレビの電源を入れた。
月城は東京都杉並区在住24歳のプログラマーである。黒髪で前髪を左から右に流しており、顔は一般的に見て整っている。体格は中肉中背で身長は170㎝程である。
今日は久しぶりの日曜の休日をマンションの一室で満喫していた。 テレビには震度5と表示されていた。
「結構大きいな、大丈夫か?」
月城はそうのんびり構えていた。ごろごろとベッドの上でスマホを触っていると、轟音と共に再びとてつもない揺れが起こる。
その轟音と同時にテレビの電源、そして室内の電気が全て消灯する。
「おお、まじか! こりゃ結構やばいんじゃ?」
そう言って、カーテンを開け外を見る。
そこには英斗の想像を超えた景色が広がっていた。地面が二つに大きく裂けていたのだ。その割れは深くここからでは底が確認できない程だ。
「キャーーー!」
女性の悲鳴が遠くから聞こえる。車のクラクションがそこら中から鳴り響く。色々な所から煙が上がっていた。そして、様々な建物が巨大な樹木に貫かれている。まるでむりやり急成長させられたかのように。
その状況を見て、英斗は背中に冷たい汗をかいた。
現在の状況を集めようと、SNSのTmitterを開く。
そこのトレンドには地震、停電等が上がっていた。だがそのトレンドの中に一つ異彩を放つ文字があった。
ゴブリン
である。
なぜかゴブリンがトレンドに上がっていた。確認すると
『家の前になんか緑の化物いた! やばくね⁉︎』
という投稿と共に、素人が作ったとは思えないゴブリンの写った画像が貼られてあった。
コメント欄には『不謹慎!』『こんな時に変な画像を作って遊ぶな!』
とコメントが殺到しており投稿者が炎上していた。
だが、その後も多数のゴブリンの目撃情報が Tmitterに次々と上がっていた。
他にも鬼のような化物に襲われた。化物に襲われて死んでいる人を発見した、等様々な情報が錯綜していた。
「いったいどうなってるんだ……? ゴブリンは本物なのか? あっ!? ネットが繋がらなくなった!」
英斗のスマホに突如圏外の文字が表示される。どうやら、携帯も繋がらなくなったようだ。
英斗はパニックに陥った。ネットで他との連絡がつく、という事実にどこか安心していたのだ。
するといきなり英斗の脳内に機械音のアナウンスが流れる。
『あなたのスキルは万物創造です。自らのスキル名は忘れないようにしてください、万物創造です。では良い人生を』
脳内に突如流れ出す機械音のようなアナウンス。そして脳内に大きく表示される『万物創造』の文字。その文字は1分ほど脳内から離れなかった。
この一文以外になんの説明もなく、その後脳内にアナウンスが流れることはなかった。
立て続けに起こる不思議な現象に英斗はまったくついていけなかった。
だが、アナウンスにあったように自分のスキル名『万物創造』だけはしっかり頭に焼き付けた。
英斗は驚きつつも、謎の力にわくわくを隠せなかった。もしかしたらこれは世界を救えと神が自分に与えたものなのでは?とまで考えた。
「スキル……ってなんだ? なにかできるようになるのか? 説明はなにもないのか?」
英斗はその名前から何かを生み出す能力とあたりをつけ、リモコンに手をかざす。
「出ろ! リモコン!」
何の反応もなかった。悲しく声だけが響き渡った。手から生み出すものなのか、力を込めるが全くリモコンが出る気配はない。
脳内で、銃をイメージするも、銃が出る気配も全くない。
「こ、これは外れスキルか……? いや、まだ複雑な物は難しいのかもしれない」
そう思い、人の手によって作られたものでなく自然にあるものを探した。
氷である。
電源の切れた冷蔵庫に残っていた氷を見ながら、手から氷を生み出すよう力を込める。
しばらくすると、手から小さな氷が生まれたのである。
「おおおおおおおお!」
英斗は驚きとともに喜びを隠せなかった。集中すると、手から氷がまた一つ生まれる。
氷が生み出されるとともに体力の消費を感じる、おそらくこれは無尽蔵に生み出されるものではないらしい。
「だが、これじゃゴブリンすら倒すのは難しいな。いや、まだゴブリンが敵対してるとは限らないんだが……」
英斗は冷蔵庫の中身を確認するも、後数日分すら残っていなかった。
「やっぱりか……普段そんな料理するわけでもないからな」
英斗は食料を外に取りにいくか、考えていた。このままじゃ数日で切れる。だが、外の情報もなく、おそらく外にはゴブリンなど化物がいる可能性がある。
だが、食べ物はまだみんながパニックになっている間に回収しないと無くなる可能性もある。
「……行くか」
英斗は大きなリュックと財布を持ち、近くのスーパーに行くことを決めた。常温で保存できるものを買い込む予定である。
悩みつつも英斗は包丁を手に取った。
英斗がマンションのドアを開けて、階段に向かうとゴブリンと目が合った。
「いっ!?」
英斗は即座にドアを閉め鍵をかけた。外からゴブリンの走ってくる音が聞こえる。そしてドアがゴブリンに叩かれ始めた。
「本物だ……、本物がいるのだろうと思っていたけどもうこの世界は……」
終わりだ、という言葉を英斗は飲み込んだ。
英斗は包丁を握り、ドアを開ける。ドアに吹き飛ばされたゴブリンに包丁を突き刺した。ゴブリンは小さな悲鳴を上げたあと、英斗を殴り飛ばした。
「痛え!」
だが、力は成人男性より少し弱く、何とかなると感じた英斗はもう一度頭部に包丁を突き刺した。
「グギイ」
ゴブリンの絶命の声を聞き、安心すると、その場に座り込む。
すると突然体が熱くなり、全身に力が漲る感覚に襲われる。
「なんだこの感覚は!? レベルアップか?」
英斗は笑いながら言ったが、その可能性もあるなと考え始めた。 再度氷を生み出すと、今までより氷が大きくなっていた。
「RPGみたいにモンスターを狩れってことか」
頭部を刺した際に、違和感を覚えた英斗がゴブリンの死体を観察すると、赤い小さな宝石のような物『魔石』を見つける。
「ドロップアイテムってとこか」
英斗はバッグに小石を入れると、近くのスーパーへ向かった。
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