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魂国伝説  作者: 霧島 隆
平和区編
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004話 突撃

 伝令はざわつく戦線へと走り、すぐさま隊を2つに分けるように誘導した。

 作戦を聞いた戦士達は一見すると無茶な戦術に不安を隠しきれなかったものの、他に方法が思いつかなかったことから納得し、200ずつ、総勢400からなる2つの小隊は突撃準備を整え始めた。

 その一方でレンは翼を開いて上空へと雲を切り、空中遊撃部隊の対処に専念することにした。もちろん、全体を見渡すことができる敵がいるのといないのとでは愕然の違いが生まれるからであり、戦士達の士気を上げると同時に上空の憂いを取り除くためである。

 カイに比べると火力で劣るレンは少数でも援護を要請したかったのだが、他に空中戦ができそうな者が見当たらなかったことから諦めて多対一の腹をくくった。


 また、ヴァルツは各隊の隊長を任命すると、

 ーーこの防衛戦に本陣は必要ない。本陣防衛になど兵をさく余裕はない。この混戦になりやすい戦場ならば現場で指揮したほうが都合がよい。

 と、本陣を作らず代わりに前線に防衛兵に30人を編入した。


 こうしてレン考案の作戦が実行されたのである。


 後にこれより続く一連の戦いを『窮転の役』と呼ぶことになるのだが、そんなことを知るものはほとんどとしているはずもなく、 そう名付けられるのも、もう少し先のことである。


「全隊、出撃準備整いました」


 2隊を回ってきた伝令が本陣を解体して前線まで到着したヴァルツに向かって膝をつく。その報を受けてヴァルツはレンを信じる覚悟を決めると、深くうなずいた。


「作戦は伝えてあるな。……『響域魔法』を展開してくれ」

「はっ」


 響域魔法。それは術の届く範囲におけるありとあらゆる事象を指定して共鳴させ、増幅させるという魔術界の常識を覆した画期的な魔法を指す。これにより、微弱な士気の火を大地を揺るがす大炎へと昇華させ、貧弱な攻撃を強力な1撃へと転ぜさせることすら容易になった。しかしこの魔法は単調な怒りを大きな憎悪へと変換させ、その力まで強大にしてしまうため、人を操る犯罪まで簡単にたどり着けるようになってしまったのだ。そのため、犯罪暴走を危惧した魂国魔法連盟は『響域魔法』の許可のない使用を禁じた。

 この魔法を発明したのは今は亡き人族の天才魔術師『マリアネット・エルフュール』で、彼女はモンスターと戦う軍にのみ特許として魂国全土にその魔法を開示し、モンスターとの戦闘に命を賭けている男達に生き残る希望を与えた。そのまやかしの士気で戦い、そして魂を散らせていった者たちが大勢いるなか、逆にその士気によって死すべき定めを覆した者たちが数多に上ることもまた、事実なのだ。


 そして今、ヴァルツはその魔法を使用しようとしていた。演説を全体に届け、その士気を引き上げるためである。

 戦前の演説。それは戦いの士気に直接繋がっているため、失敗は許されないことであった。だから彼は心を鎮めるとそこに一つの火種をおいた。

 するとその心の火種は響域魔法の影響を受けてパチパチと青色の花を咲かせて火に変わる。


「全員!!聞け!!」


 ヴァルツの型位の良い体から発せられた野太い声が兵達の鼓膜を揺らした。その声を受けた全員の視線がヴァルツに集まり、彼の目に映る美しい火花を見る。勝利への道を捉えるそのまっすぐな瞳は見ている者の心を直接揺らすようであった。


「今、この市場は未曾有の危機に瀕している!!

 お前達も分かっているだろうが、我々が抜かれれば西門一帯が占領されることは目に見えている!!」


 的確な話題の提示に兵達にどよめきが走る。だが、本当に彼らが防衛をしきれなければ市場全体が危険にさらされることは明白であった。

 それと同時に、市場が占領されればかつてない悲劇が生じることもまた、確かだった。


「だがしかし!!」


 だからこそ、


「我々が敗北することは絶対にない!!」


 だからこそ負けるわけにも奪われるわけにもいかなかった。


「我らが市場には、守るべきものがある!!故に、あのモンスターなど恐るるに足らず!!」


 自分のためでなく、この市場のため。自らの魂を捧げてまで守りたい大切な何かのため。それを持つが故に彼らは戦うことができる。

 もしかしたらその戦意の熱に溢れた空気に酔いしれていただけかもしれない。実際に響域魔法でまやかしの士気を上げられているのは事実だ。

 だが、命を賭してまで絶たれた望みを見出そうとすること、わずかな勝機を掴みとろうとすること。

 その戦士としての一心は決して変わらなかった。

 なかには敵に気圧されていた者もいただろう。恐れ慄き、震える者もいただろう。だが、その戦場に背を向けるものは誰一人としているはずもない。

 戦士としての誇りから目を背けることできなかったのだ。

 瞳が燃えていた。握りしめる拳が音をたてていた。

 彼らを見て誰が笑っただろうか。

 いや、その光景は見る者全てを圧倒し、感動に至らしめたに違いない。

 

「奴らに我々の底力を見せつけてやれ!!」


 命をかけて市場を守ろうとする彼らを英雄と呼ばずしてなんとする。

 彼らの辿る道を伝説と呼ばずしてなんとするのか。


「戦え!!戦え!!猛者たちよ!!」


 その名のもとに、戦士たちは無限の力を発揮する。

 それこそが戦う者の本領。

 戦士としての歩む道。


「皆のもの!!今こそ!!英雄になろうぞぉおおおおお!!!!」

「「おおぉぉぉおおおおおお!!!!」」

 

 雪のない雪原に響いたのは、大地を火の海に変える防衛軍の雄叫びだった。

 モンスターをひるませるほどの士気と戦意による熱。


 ヴァルツの演説は成功に終わったのである。


「全軍!!突撃ぃいいい!!!」


 ヴァルツの大声の指令が飛んだ。それを受けた防衛軍は弾けさせられた熱を帯びたままに2手に分かれて走り出す。


 目の前のモンスター軍に対して左右から回り込み、一番奥に隠れる掃討舞台に狙いを定めて全力で突撃するという単純かつ明快なこの作戦は、規律の固まっていない非正規軍にとって効率のいいものであった。数百人単位での複雑な指令は普段5・6人でパーティーを組む旅人や冒険者にとって理解し難く、連携が取りづらいのである。故にレンは、場合に応じて勢いにまかせ、押し込む事のできるこの戦術を選んで作戦を立てた。

 戦士たちが余計なことに気を取られることもなく全力で突撃することができたのも、レンの読みの通りだったのだ。


 左右に分かれた2つの隊は雪が溶けて泥のようになった平原を雄叫びを上げながら全速力で駆け抜け、砂煙をあとに引いた。

 武具を手に鬼神の如く迫ってくる彼らを正面から構えれば、さぞかしたぎる津波のように見え、腰を抜かしておののいたであろう。

 たった200人とはいえ、一人ひとりが威風をまとえば少数なりの点として砕けぬ巌と化すのだ。

 また、少数の隊は機動力が高く、足止め程度であればたとえ400人であっても事足りた。

 つまり、このような乱戦に陥りがちな戦場では将の視野の広さと判断力の高さが物を言うのである。


 そのためヴァルツは、危機が連発する可能性の高い左から回り込む隊に加わり、門へ向かうモンスターたちの陽動作戦の指揮をとっていた。

 然る間の後、第一関門である左奥の部隊に差し掛かると、隊は足を動かすなかでギリギリを攻めて近づき、かすめるようにモンスターたちの横をすり抜けた。当然モンスターたちは戦士たちを絡め取ろうと一心不乱に手を伸ばし、進行方向をゆっくりと変える。しかし彼らはしっかりと統率が取れていないのか、互いが干渉しあってうまく戦士たちを追うことができていなかった。

 足止めに成功したのである。


「見ろ!奴ら混乱してやがる!」


 誰かがそう叫んだのも無理はない。

 足止めには成功した。西門へ向かうモンスターたちの気を引くことができたし、その横を無傷で通り抜けることができた。

 だが、ここでヴァルツにとっても予想外のことが起こった。


「奴らものすごい速度で追いついてきます!」


 彼らは郡としての動きに鈍りが出たことを本能的に理解すると、一斉にバラけて単体として猛追を始めたのである。

 そもそもモンスターはあまり群れを作る種族が多いわけではない。門を破るための大型の種族ならなおさらである。故に彼らはまとまりを意識せず、一番近いものから、足の速いものから我こそはと走りだしたのだ。

 これにはヴァルツたちも戦慄せずにはいられなかった。人間やエルフ、ドワーフの足がモンスターに及ぶはずもない。もはや全力で走っても逃げ切れないのは明白であった。

 かといって防衛陣をしいて構えることもできなかった。1000を超える郡に対し、200などたかが知れていたからである。

 策をうって逃げようにもそれぞれ単体になったモンスターには無意味であり、足止めを図ろうにも敵は広がり過ぎていた。


 ヴァルツは焦った。

 打つ手がなかった。


『まずい』


 最悪の自体が脳裏をよぎり、気持ちの悪い汗が体中から染み出してくる。窮屈な心臓が早鐘を打っていた。


 本来であればもっとモンスターから離れて誘うべきであったのだ。ギリギリまで近づいたことで確かにモンスターの混乱を招くことができたものの、結果としてモンスターの追いつけないという危機感を煽ってしまったのである。距離を保っていれば程よいハンデでモンスターが集団を崩して速度を上げることもなかった。


 初手でのしくじりは敗北に直結する、そのことを身にしみて理解していたからこそ、ヴァルツの思考は鈍ってしまった。


 この時、一つだけ危機を回避する方法があったのだが、その妙案がヴァルツの頭に浮かぶことはなかった。

 それは、『囮』を作ること。

 数十名の戦士を切り離して防衛線をはり、彼らが全滅する間に敵を引き離すという戦術である。この際敵を足止め出来れさえすればいいのだが、囮役の生存率はほぼゼロに等しかった。だが戦場ではこのような犠牲を払わなければ勝つことができない場合などは数多に及ぶものだ。

 そしてそれを思いついたのは、いや、思いついてしまったのは一つの冒険者パーティーだった。


「俺たちが囮になる」


 必死の逃走のなかで放たれたその言葉の主にその場の全員が注視した。

 ヴァルツも我に帰って困惑の目を浮かべるが、そのパーティーはすでに心を決めているようだった。


「そんな作戦が許可できるか!死ぬぞ!!」


 そのパーティーは先程モンスターに開けられた穴の前で奮戦していた手練の冒険者たちだった。それを見ていたヴァルツも彼らの力を頼りにしていたはずだった。

 だが、こんな形で頼りにしようとしていたわけではない。

 優秀な彼らだけでなく他の者達もむざむざ死に向かうような作戦に送り込むわけにはいかない。そのヴァルツの甘さが作戦の承諾を許さなかった。

 これしか方法はなかった。だが、それを許可できなかった。

 策を実行しなければ全滅する。だが、策を実行すれば自らの手で優秀な冒険者たちを殺すことになる。

 合理的に考えれば被害の少ない後者を選ぶべきだろう。

 もっと時間があれば、もっと落ち着ければ、他の案が浮かんだかもしれない。だが今はもう、時間がなかった。

 そのパーティーのリーダーと思しき人物がヴァルツを断固たる意思を宿した目で見据えていた。

 だからヴァルツは選んだ。彼らを犠牲にする道を。

 

「誉れ高く生きろ…!死ぬな…!」


 生きろなどとは、聞こえのいいただの言い訳であった。決して生き残ることは出来ないと知っていた。その証拠に、ヴァルツはその冒険者たちに目を合わせることが出来なかった。だが、ヴァルツが見ていない中でそのパーティーのメンバーは笑っていた。

 彼らは彼ら自身の人生を歩んでいたはずだった。もっと沢山やりたいことがあったはずだった。未練がないわけがなかった。

 だが、それでも彼らは市場のために死ぬことを選んだ。仲間のために死ぬことは必ずしも誇れることとは限らないのにも関わらず。


「では、ご武運を」


 どうしてパーティーメンバーの全員が死ぬ覚悟が出来よう。彼らの中には未だ死へ向かう心の準備ができていない者がいたはずである。しかしこの高揚した雰囲気が響域魔法で彼らを突き動かしていた。

 実質的に響域魔法は皮肉にもこのパーティーを意図して犠牲にし、代わりに隊を救うことになるのだ。それは実に虚しく、あまりにも残酷な不条理であった。

 そしてそれを招いたのは、紛れもなくヴァルツだったのである。


「っしゃぁ!やるぞお前ら!!」


 特攻を決めたパーティーリーダーはそう言うと、メンバーを引き連れてすぐさま隊を離脱した。このままあと少しでも隊にとどまってしまえば、己の決意を崩して死から逃げてしまいそうな気がしたからである。彼にとっても怖かったのだ。自殺するという、勇気と称賛して良いかすらわからない決断が。


『怖い』


 彼の頭の中では、この言葉が全ての感情を飲み干していた。だが不思議と、恐怖の奥底に後悔と、謝罪と、怒りと、そんな言葉(心)が芽生え始めていた。死に際でありながら少しずつ冷静を取り戻していたのだった。


「お前ら、すまん……」


 後悔の渦のなかでリーダーが振り返るとメンバーの顔には意外な表情が浮かんでいた。

 泣いていたのだ。笑いながら。それは諦めた笑みでも、怒りに狂った苦笑でもなかった。どうしてか幸せそうな、満たされた微笑みだった。

 

「水臭えぞ。リーダー。俺らぁ、あんたについて行くって決めてんだよ。バァカ」

「そうだよ、なんたってあたしらは最高のチームだからな」

「一生離れないのです!」

「何も心配いりません。私達はあなたの一番の仲間ですからね…?」


 リーダーの目からも、思わず涙が溢れた。彼の恐怖が温かい微笑みにじわじわと溶かされてゆくようだった。

 

「すまねぇ……。いや、こんな言葉じゃないよな…」


 彼は前を見据え、モンスターたちに相対した。

 もう仲間がどんな顔を浮かべているかなど、見なくても手に取るようにわかったからだ。


「ありがとう」


 彼はもう振り返らなかった。ただ剣を振りかざし、モンスターたちに立ち向かった。それはもはや、恐怖ではなく、満たされた喜びに近かったかもしれない。


 そして、彼らは決死で敵郡へと突入し、手負いの獅子のように暴れまわった。

 四方八方から襲いかかってくるモンスターたちに対し、一糸乱れぬ流麗な連携で一匹ずつ確実に殺していった。

 時折放たれる魔術師の魔法がモンスターを吹き飛ばしており、さらに多くのモンスターの注意を引いて隊の逃げる時間を稼ごうとしていたのが、目に見えて理解出来た。

 しかし戦闘開始後、1分もせずに物量に押され始め、次第にその勢いは衰えてゆく。それでも諦めない彼らは何度も何度もその息を吹き返し、体に鞭打って立ち上がった。どれほど傷つき、披露がたまろうとも、その手が止まることはなかった。

 だが、それも長くは続くはずがない。

 始めに一人の魔法使いが胴を槍で貫かれ、その場でふらりと地に伏した。そしてそこへ必死に手を伸ばした大盾使いがその空きを突かれて、供に殺された。

 二人の離脱によってほころびが生じた陣形に、きり無く集まってくるモンスターたちが呪術師をめった刺しにし、その遺体をなんとしてもと守ろうとした重戦士がなぶり殺しにあった。

 最後に残ったリーダーは死の間際まで剣を振り続けた。足をなくし、肩を削られても戦い続けた。彼は、モンスターの山に飲み込まれる直前、よく見なければ気づかないのど小さく、頬を上げて笑っていた。


 そうして、その勇敢なるパーティーは、奮闘のすえ絆とともに魂を燃やし、壮絶な死とともに命を散らした。それと同時に同時に彼らが稼いだ僅かな時は、約190名の隊の生きる糧となり、多くの望みをつなげたのである。


 それを遠く走り抜けた先から見つめていたヴァルツは、彼らが来世を謳歌できるようにと誰よりも切に願っていた。

 

 パーティーの断末魔を背に受けていた隊は、勇猛なる熱を冷ややかな怒りの氷柱へと変え、さらに足を速めて戦場を駆け抜けていった。


 一連の悲劇を小型の飛竜と戦いながら見つめていたレンは、あらかた予想の範疇を出なかったことに複雑な思いを絡ませ、作戦の成功を祈るとともに目の前の敵に目標を入れ替えた。それと同時にカイも悲鳴を耳に入れており、何が起こったのか大体の検討をつけていた。カイは苦しい顔を浮かべるとその報復とでも言うように目の前の甲羅をまとった中型のモンスターを甲羅ごと槍で貫き、回転させながら引き抜いて絶命させる。だが、滾るその槍に纏わせていた火はカイからの魔力供給が不安定になったためか、その勢いがかすかに揺らいでいた。


 この時点ですでに、戦場へ憎悪の雪崩が覆いかぶさろうとしていたのである。



ーーー



 嵐のような危機を脱した左翼の隊への追撃は、かなり引き離したためか止んでいた。だがそれはヴァルツからすれば戦術的なものに思われた。実はつい先程、レンと交戦中だった小型飛竜の一頭が追撃を続けようとするモンスター軍の上空を旋回し、咆哮を上げていたのだ。おそらくその行動が指令となり、モンスターたちに向けて追撃の停止を命令したのだろう。それと同時にその一頭はモンスターたちを先導するためか西門の方角へゆっくりと飛び始め、進路を修整しようとしていた。郡ではなく軍として、あまりにもまとまりのあるモンスターたちの行動形態に、ヴァルツはもちろんレンでさえも海のように深い猜疑心に苛まれていた。だが不安が募る中でもヴァルツは隊の足を止めさせようとはしなかった。もちろんもう一隊も同様に走れ続けているためであり、同時に最奥の敵部隊に突入しなければ先に衝突した隊がものの一瞬で敵に飲み込まれてしまうためである。


「目標接近!!距離200!!30秒後に衝突です!!」

「よし、進路そのまま!盾持ち前衛、遠距離攻撃班後衛、他は隊の脇を固めろ!全体密集!!!突撃隊形!!!!」


 副官の呼称を受けてヴァルツが指示を放った。兵はもともと聞かされていた作戦どうりに楔型の突撃陣形を敷き、衝突の覚悟を決める。そしてすぐにその時は訪れた。


「喰い破れ!!!!」


 ヴァルツの怒声がモンスターたちを圧するとともに互いの勢力が激しくぶつかり、騒がしく武具が擦れ肉が裂ける音が弾けた。モンスターと兵たちの血が周囲に飛び散り、地面がぬるぬると赤い沼と化す。防衛側の2隊は互いにモンスターの断末魔を向かい側から耳に入れると、挟撃に成功したことを全員が悟り、それぞれの隊の突破力は急激に増した。彼らがとっていた楔形陣形は戦術上最も突撃に適した陣形だと言われており、まるで放たれた鏃のようにモンスターの郡を切り裂いていた。この楔形陣形の特徴は、従来の一斉一面突撃と違って点から衝突し、そこに続く2面が圧力を左右斜め前にかけることで敵軍に矯正的に道を開かせるというもので、敵の奥深くまで攻め込むことに非常に適した陣形であった。本来は力ある武将などが先陣を切って後続を率いる時に用いられる兵法であったが、少人数かつ短期戦が望ましいこの状況では切り結ぶ時間を短縮出来るこの突撃方法が最適だったのだ。その点において、ヴァルツは抜かりない男であった。


「このまま突き進んで向こうの隊と合流だ!!」

「「オオォォォ!!!」」


 二本の氷柱と火柱はモンスターを左右から串刺しにして快進撃を続けた。結果として防衛軍は倍以上の敵に対し、奥深くまで牙をくい込こませてかき乱すことに成功したのである。レンの作戦が見事に功を奏したのだった。

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