災いを引き起こす目
《前回のあらすじ》
窮地から、自身の能力によって一気に逆転し、レクスを下したエミール。少女も無事に救出し、町に戻って彼女の両親に無事に引き渡したのだった。
ふう……あのゲテモノ料理、味はそれほど悪くなかったぜ……。しっかし、人間もよくあんな料理を思いつくもんだぜ……。俺には想像もできねえ……。
なんてことを考えながら、俺は床に敷いた寝床でぐっすり寝ようとしていた。外はすっかり夜のとばりが降りているし、アリスは既にベッドの上ですやすやと寝ちまってるみたいだ。
……なんだ? この耳鳴りと言うか、囁きと言うか…………呼んでいる……?
声でもなんでもないが、この音は俺を惹きつけてくる……アリスには全く聞こえてないみたいだし、これは一体……?
その音に惹かれて、気が付けば俺は夜套を身に纏って外に出ていた……音の方角は町の門にあるみたいで、そこには絶対何かが居る予感がしていた……。
夜だから当然、出歩いている者はあまり居ない。巡回している警備の兵士は何人か見受けられるが、一般ピーポーは居ないな……。
半信半疑ではあったが、俺はどうしても音源が気になって歩くことを止めなかった。
街の門が間近に見えるまで近づいたとき、その門に寄りかかるようにして何かを待っている人物の姿が見えた……あのシルエットはどこかで見たような……?
「おお、魔帝様。お待ちしておりました」
「は、ハインケル……!? お前、どうして此処に?」
そう、その人物は魔王の親衛隊の隊長であるハインケルの姿だった。だが、魔界からこの人間界に続く扉は、俺の力じゃないと開けることはできないはずなんだ……どうして奴がここに来ることができたんだ……!?
「はい。実は、あの扉を魔帝様が開けた後、閉まることが無くなってしまいまして、向こうから自由にこちらに来ることができるようになってしまったんです……」
な、なんだと……!? そんなことが……いや、これは一大事だぜ! もし、魔王が俺を探そうと魔族を派遣するようなことが起きれば、下手すれば魔族が人間と戦うハメになるかもしれねえ……!
「魔帝様が無事に人間界で過ごされていると知って一安心できたのですが、念のためにお伝えしておきます。身を隠された方がよろしいかと……」
そんなことは分かっている……だが、俺の今の状況下でそんな易々と身を隠すことができるか……? いや、できない。アリスやディードはどうなる? アイツらを放っておけることはできねえ……!
「……魔王は既に扉の存在に気付いているのか?」
「いえ……今のところ知っているのは私だけです。ですが、遠からず存在に気付くことでしょう……あまり猶予は有りません……」
そうか……クソ! 俺が一番嫌いなのは、誰かの恨みを買うことだぜ……俺のせいで何か問題が起きるんなら、その根源を断ちてえ……。
「そろそろ戻らなくては……魔帝様、お姿は大分変ってしまったようですが、この私の発した音に反応するということは、魔族であることは確かなようですね。本当に、無事で何よりです」
へっ、優しいやつだな、こいつは……唯一信頼できる魔族だぜ。
互いに別れを告げると、ハインケルは背から翼を広げて星が輝く空へ飛び立っていった。
さて、俺も寝床に戻るとするか……
***翌朝***
「……エ……ル! ……エミール!」
この声はアリスか……やけに急いでるみたいだが、いったい何の用だ……?
目を開けると、楽しそうな表情で俺を起こそうと試みていた彼女の姿が目に映った……。
「やっと起きた! ねえ、外で私たちのことをスカウトしたいって人が来てるよ!」
はあ? スカウトだって……? 脳を起動する間もなく、着替えた俺はアリスに手を引かれて階段を下りてリビングに直行する……。
「おお、君がエミール・ヴィンテルか! 噂に聞く通り、本当に黒い目を持っているんだな! 会えて嬉しい!」
テーブルで待っていたのは、俺と大体同じ年くらいの金髪の陽気そうな兄ちゃんだった。その隣には、目を輝かせているディードの姿もある……一体何が起きているんだ……?
「先に二人にも話したが、俺の名前はグレイ・レイセオン。今回、此処に来た理由は、君たちを我がギルドにスカウトしたいのさ。どうかな?」
……ゲームとか漫画とかでよく出てくるが、そもそもギルドっつうのはどういう集まりなんだ? 入ると何か、特典とかがありそうな雰囲気ではあるが……。
「ああ、ギルドって言っても商人や鍛冶屋とか、いくつかのジャンルがあるんすけど、その中でもこの人のところは魔物の討伐や輸送の護衛、盗賊とかの悪党を鎮圧する戦闘専門なんすよ、師匠」
「そうそう、ディード君の言うとおり、ウチは戦闘が主目的なクエストが大半だね」
ふーん、要は自由な軍隊みてえなもんか……ただ、そんな大手戦闘狂集団にどうして俺たちを誘ったんだ? 俺は争い事自体はあんま好きじゃないんだが……。
「君たちは先日、あの強力な吸血鬼が潜む森の中に入って、元老院議員の孫娘を救ったそうじゃないか。だから、君たちの実力を俺たちのギルドに欲しいと思ってね」
なんだ、昨日のことがもう噂になってんのか……って、あの少女、そんな重役の娘だったのかよ!?
……でも、イマイチ入る気にはなれねえぜ。何か、入ることでメリットがあるんなら、考えてやってもいいけどよ……。
「もし入ってくれるなら、我々から住む場所を譲渡するよ。もちろん、ローンとかは関係なく。それに、クエストを受けても他の人たちと組んで出撃してもいいし、ギルド内でレクリレーションとかもするから、是非とも入ってほしいのだけど……」
まるで、クラブ活動みたいだな……だが、悪い話じゃない。俺たちは人様の家に泊まらせてもらってるし、俺たちの住居が貰えるんなら考えてもいい……けど、それでいいのか……? 俺は魔界からの追手が来ることを知っているし、そんな呑気していていいのか? かといって、人間的にアリスたちをほっとくこともできないだろうし……。
「ね、私たちの家が貰えるなら入ったほうがいいよ! そうすれば、お母さんたちに迷惑が掛からなくて済むし……」
「別にアタシ的には面倒でもないんだけどね……」
ディードの母は心が広いな……だが、どっちにしてもだ……。
「……エミール、どうしてそんな思いつめた顔をしてるの?」
え? ああ、いや、そうだな! こりゃあ、入っといたほうがいいな! そうしよう! この話、乗ったぜ!
「おお! よかったよかった! 我々は君たちを歓迎するよ! 住居は明日用意できるだろうから、それまで待っていてくれ!」
あ……つい、アリスに乗せられて加入しちまった……畜生! 迷った時に片方を勢いで選んだ後って大抵、今の俺みたいに後悔するもんだぜ……! 何やってんだ俺……!
「いやー、本当にありがとう! そして、これからメンバーとしてよろしく! 三人とも!」
くぁー! なんでこんなことに……! なんで俺は、自分から逃げ道を断つような真似をしちまったんだ! ハインケルが聞いたら絶対困惑するぜ……アイツだって、危険を冒して俺に会いに来たってのに、こんなことは……。
「……ねえ、聞いてた? 次は夕食の材料を買いに行くんだよ?」
「え、ああ……そうだな……」
「……エミール、何かあったでしょ? 変な夢でも見たの?」
やべ、感付かれちまったか……どうやって誤魔化そうか……いや、そんなことするより、とっととバラしちまった方が良いのか……?
「……実はな……いや、言わない方が良いかもしれない」
「何よ! 今更、水臭いこと言わないでよ。ほら、全部言ってみて。全部、私が聞いてあげるから!」
「あ、ああ、分かった……実は、近いうちに俺の追手が来る。俺の元いた世界からな」
「追手……? それって、エミールにとっての敵なの?」
敵……そうだ、俺は魔王が怖かった。もし、またアイツらの元に戻れば、また地獄のスパルタ教育を受ける羽目になる……そいつは御免だぜ……。
「……敵だ。捕まるわけにはいかない」
「なら、戦おうよ!」
え……!? まったく、どこまでも命知らずなことを言うやつだぜ……!
だが、本当はアリスの言うとおりなのかもしれない……戦うために、逃げずに剣を取ることは……!
第十五話、レクスの意味深な発言、それはどういうことなのか…?
読んでいただきありがとうございます!
次回もお楽しみに!