訓練
《前回のあらすじ》
青い髪の少年、ディードの計らいで彼の家に泊めてもらえることになったエミールとアリス。しかし、安心もつかの間、ディードから魔法の師匠になってほしいとせがまれたエミールは、苦悩しつつもこれを了承する。そして、昼食を終えてから早速、師匠エミールから、弟子ディードへの特訓が始まった。
さて……勢いで町の外まで来ちまったが、どうやって教えたもんかなぁ……全然教えられるビジョンが浮かんでこねえぜ……。
「師匠、まずは何をすればいいっすか?」
「そうだなぁ……お前、魔法を使うのは初めてなんだよな?」
「はい、一ミリも知りません」
だよなぁ……俺も感覚でやってきたし、《《コツ》》とかなんとかが必要なんだろうか……まあ、まずは基本形を何とかしてみるか。
「ディード、手の中に強く念じてみろ。こう……ググッって感じにだ」
例として、いつも通り手先に強く念じると、魔力が集まってボォウっと魔弾が作り上げられた。ディードのやつは目を輝かせながら、意気揚々と俺の真似を始める……。
「はぁぁぁッ……!」
……
……
……?
……長くないか? 気合は十分だと思うんだけど、何かが足りていないのか……? やべえな、原因が分かんねえ……だって、ディードがやってることは俺とほとんど変わんねえはずだぜ……?
「ねえ、もしかして、私の茨みたいに《《イメージ》》することが大事なんじゃないかな?」
アリスはそう言って、手からあの青い茨を数本出してシュルシュル動かしている……。イメージかぁ……ああ、確かに、最初に指鉄砲を撃ったときはイメージしてたっけな。指先に魔力を圧縮して放つってな。
「い、イメージですか……えっと……指先に魔力を……」
……何も変化はないが……まだ……まだ分からないぜ……
「はあぁッ!!!」
……
……
……なにも出ねえな……俺みたいに魔弾が発射されるわけでもなく、アリスの青い茨みたいな物体が具現化するわけでもなし……これでもないってことか……?
だとしたらマジで《《詰んでる》》なぁ。俺からの恩返しとして、ディードにはできるようになってもらいたいんだが……。
「キャアアアッ!……」
ん? 何の声だ?
一つの悲鳴が、その場の空気を切り裂く……声のする方を見ると、一人の少女が必死の形相で走って……いや、逃げてきているのが見えた……!
「誰か、誰か助けて!!」
……その少女の後ろには、飛行するデカい鳥のような魔物が見える……!
「アリス、茨であの子を助けてやってくれ! 後ろの奴は何とかする!」
「わかったわ!」
「師匠、あれはコカトリスっす! 俺も協力しますよ!」
「へっ、気遣いはありがたいが、お前は師匠の動きをよく見学しておくんだぜ!」
空飛ぶ魔物のお出ましとはな……猟銃のように、その翼を撃ち抜いて叩き落としてくれるぜ!
ズキュンッ! ズキュンッ! ズキュンッ!
が、素早い! この鳥、俺の魔弾をことごとく躱しやがって……いや、いつも以上に距離が離れているから、俺のAIMでは当てられないのか……?
すると、奴の身体から魔法陣が出てきて口から火炎弾が放たれた!
ッチィ! 咄嗟に指鉄砲で弾を迎え撃ったんだけど、ドクアァンッと爆発して視界が煙で……見えねえ……!
奴は何処に……? 探していると、上空から次々に火炎弾が降り注いでくる……!
「おわあッ! クソ、このままだと、上から一方的に撃ちまくられてジリ貧だぜ……! 何か方法はないか……?」
「だ、ダメね……私の茨も届きそうにないし……」
こっちからの攻撃が通らねえなら、打つ手がねえな……こうなったら、接近を誘って近距離から撃ち合いに持ち込むしかねえか……? 多分、俺たちもタダじゃ済まねえと思うが……!
「師匠! 真上っす!」
なっ! 俺としたことが……やっと、視界が晴れたと思ったらあの鳥、俺の真上にいつの間に……! 奴は速やかに魔法陣を展開し、口に魔力を圧縮し始めている……! ヤバい、距離も近いからシールドも回避も間に合わねえ!
キュオオオオオオンッ!!!
!? 鳥の目ん玉に、いきなり見えない何かがバシィッて命中したぞ!? まるで強力な空気砲みたいな……それを喰らった鳥は大きく怯んでいる!
「はっ、今だ! 喰らえ!」
我に返って、一瞬の隙に空かさず魔弾をズキュンッと叩き込んだ!
ちょっとAIMが狂ったが、魔弾は頭部の下……首元に直撃したぜ……!
キョオオッ……!
喉を傷つけたのか、奴の声は少ししわがれたものになった……。 バシィッ!
間髪入れずに、仰け反った鳥の腹に、再びさっきの空気砲が直撃して奴は数メートルをぶっ飛ばされた!
「や、やっぱりだ……こ、これが俺の……」
振り返ると、指鉄砲を構えて驚いた表情をしているディードの姿があった。
「ディード……さっき、奴の目ん玉に空気をぶち込んだのはお前なのか……!」
「は、はい、師匠がミノタウロスを倒した時のことを思い出して、それで……」
おお……やったぜ! これで、ディードも俺たちと同じ魔法の世界に到達することができたみてえだな! これで恩返しができたし、いやー、よか……
キュオオン!
んあ! そうだった、まだコカトリスの始末ができてねえぜ……!
あの鳥、急に跳び上がったかと思うと急旋回して……
「きゃあああッ!!!」
アリスが守っていた少女の腕を無理やり鷲掴みにして、そのまま元来た方向に飛び立って行きやがった……!
「しまった……アリス、怪我はないか?」
「え、ええ……でも、私が不注意だったからあの子が……助けないと!」
え、あ、お、おい、まてまて、まずは全員の無事を確認して、それから奴が何処に飛び去ってったのかとか、その他諸々をだな……
「師匠、アリスさんの言うとおり、すぐに後を追いましょう! あの傷なら、人一人抱えたままそう遠くへは逃げられませんよ!」
きゅ、休憩も無しかよ……! ええい、あのままあの子が鳥のエサになっちまうとしたら、そりゃあ後味の大変良くない胸糞悪い話だぜ! 追うしかねえ!
「見て、さっきエミールが付けた傷から血が垂れてるみたい。これを追えば、きっと所在が分かるはずよ!」
アリス、それは名案だ! 俺たちは血の跡を追い続けることにする……!
それから数十分……。
血の跡は次第に太陽が隠れるほど暗い森の中に続き、周囲には人気はおろか、人の手の入った痕跡が見られない……。
そうして、俺たちは大きな洋館にたどり着いた……。
「うわあ、でっかいっすね……こんなところに、こんな大きな建物があるなんて……!」
「ああ、これはデカい。タダもんじゃないお屋敷だぜ……」
レンガ造りの古めかしいその外観は、どこか昔ながらの威厳を感じさせてくれる。明らかにかなり昔から存在しているみたいだが、きちんと管理されてるっぽい。でも、近くには舗装された道もなかったし、これは一体……。
「すごい……! こういうところには、立派なお金持ちが住んでるんだろうね……」
って、アリスと一緒に感心している場合じゃない、血の跡は確かにこの鉄柵の中に続いているんだ。ということは、コカトリスはおそらく此処にいるってこと……ここはどういう場所なんだ……?
……これは俺の憶測に過ぎない話だが、誰かが住んでいるとしたら、此処の主があのコカトリスを飼っていて、少女を連れ去るように仕向けたんじゃないか……?
「正門は開かないね……ほかに入り口はない?」
「いや、見つからなかった。どうやら、入り口はそこだけみたいだぜ」
正面にインターホンらしき呼び鈴もないし……そうなれば手段は一つ!
「……二人とも、準備は良いか? これから潜入するぜ!」
「え、潜入!?」 「マジですか? 師匠!」
昔、悪友と小学校でやったとき以来だが、荒っぽい手を使わせてもらうぜ!
アリスに、鉄柵の先っちょにトゲなしの茨をかけてもらい、そこからよじ登って庭に下り立つ……。
さて、これより、俺たちは潜入ミッションを開始するぜ!
第12話、館の主とは一体何者なのか……?
読んでいただきありがとうございます!
次回もお楽しみに!