成り行き
《前回のあらすじ》
王都を目指すアリスとエミール。森を抜けた先で、魔物に襲われる青い髪の少年ディードを助けた。そのお礼として、二人は王都にある彼の家に泊めてもらえることとなった。
「えっと、ありがとうね、二人とも……まったく、あんたはそこらへんの雑魚でも死にかけるわけ!?」
「いてて……ゆ、許してくれよ……不意にミノタウロスが現れたから、驚いてそれどころじゃなかったんだ……」
こ、これがモンスターペアレントか……ディードの額に指を揃えた平手がベシッと命中している……。
「嘘おっしゃい! この辺でそんなモンスターは出ないわ! 冗談も休み休み言いなさい!」
えっ、おいおい、流石に可哀想だぜ。ディードはホントに命を落としかけたんだ。これは事実だぜ……
「あ、あのー、お母さん、ホントにそのミノタウロスとかいうやつがいたんですよ……斧持ったデカくて牛みたいな頭をした……」
「そ、そうそう、アリスの言う通り筋骨隆々で、突っ込んでこられたらヤバそうなやつだったぜ」
「そうなの? ……二人も証人が居るなら事実のようね。けど、父さんがあんたぐらいの歳にはミノタウロスなんて、果物ナイフで滅多刺しにして斧をへし折って許しを請わせたそうよ。もっと精進しなさい!」
「は、はい! 母さん!」
それ事実かよ……? 流石に武勇伝じゃあないかとおもうが、ディードは毎回こんなことを言われてんのか……俺なら逃げ出しちゃうね……。
「さて、息子の命の恩人だからもちろん泊めてあげてもいいけど、まず名前を聞かせてくれないかしら?」
「俺は、エミール・ヴィンテルです……」
「アリス・グロスターです。お世話になります」
「エミールとアリス……ね。私はエリシア・ホーカーよ。空き部屋の用意をしてくるから、その間に二人はシャワーを浴びてくるといいわ。代えの服は、脱衣所にあるのを好きに使って」
こ、これでなんとか寝床を確保することができたか……にしても、俺は苦手だな……あの人は。
「アリス、先に入ってきて良いぜ」
「うん、そうさせてもらうね」
さて、シャワーの番を待ってる間はなにをして暇を潰そうかな……と、考えていると、ディードが興味津々に俺を見ていることに気が付いた。
「……エミールさん……ちょっといいっすか?」
「なんだ?」
「その……良ければ、俺を弟子にしてください!」
……はぁ!? な、なに? 一体どういうことなんだ!?
なんで俺……? そもそも、俺は人にモノを教えられるような奴じゃあ……弟子入りなんてなおさら困……
「厚かましいお願いなのは重々承知してるっす……でも、あのときの指から魔法を撃ちだすやつに、すごく感動したっす! お願いします、俺をどうか弟子に……!」
「ま、まてまて、別に、なにも俺じゃなくたって、魔法を教えられる奴はこの町に居るんじゃないのか? それに、俺は……」
「た、たしかにいます……でも、その人たちから習うのはとても難しいことで……エミールさんなら、分かりやすく教えてくれそうな気がするっす! どうか……」
こんな勢いで、土下座までしてお願いされたら、断るのも忍びないぜ……どうすりゃいい? 俺は人に教えられるような頭のつくりじゃないし、あの魔法だってほとんど勘と経験でやってるものだし……。
「教えてあげてもいいんじゃないの? エミール」
この声は……振り返ると、既に着替え終えていたアリスが戻ってきている……どんだけ早くシャワーを浴びたってんだ……?
「あ、アリス……でもな、俺はそんな柄じゃねえしよ……」
「感覚ぐらいは教えてあげられると思うよ。それに、何事もやってみないと結論なんて出ないってば」
む、むう……尚更、断りにくい状況になっちまったなぁ……。
でも、下手に教えて間違ってたり怪我しちまったらあの怖い人に大目玉を食らいそうだ……。
「わ、わかったぜ……シャワー浴びてくっから、その間に考えさせてほしい……」
その場から逃げるように、俺は身体を洗いに行った……。
温かい水を全身に受けながも、依然として覚悟が決まりそうにないぜ……断るって選択肢があるなら、それを選びたいところなんだが、アリスもディードもすっかりやる気でそんなことを言うわけにもいかねえだろうなぁ……
俯いていると、不意に手から魔力が発せられたのか、静電気が走ったように指がバチッと痺れた……。
そういえば、俺は村人から逃げる時も、テロの時も、ほとんど感覚だけで魔法を操っていたな……しかも、魔力の強さはマチマチだったし……。手加減していたわけではないし、追い詰められていたっていう状況には変わりがないだろう……。
これは俺の下手な推理だが、もしかして俺はまだ魔力を扱い切れていないのか……? なら、ディードに教えると同時に、俺自身も魔力の練習ができる……そうだ、これだ!
覚悟を決めた俺は風呂から出て、脱衣所に用意されていた服を拝借した。
リビングに戻ると、既に合格発表の時の受験生のような眼差しでディードが視線を送ってきた……身に穴が空きそう……!
「……ディード、弟子入りを認めてやるぜ」
「……ほ、ほんとっすか……? 嘘じゃないですよね……? や、やったああぁぁぁ!!! ありがとうございますッ! そして、よろしくお願いしますッ! 師匠ッ!」
「よかったわね! ディード!」
はは、アリスまで、まるで自分の事のように歓喜乱舞しているぜ。
まったく、こんな安請負することになるとは思っちゃいなかったが、此処に泊めてもらえる恩返しだと思えば、少しは気が楽だな。
「だが、お前を弟子にするにあたって少し《《注意点》》を聞いてもらおうか。俺は人に教えることは《《ド下手クソ》》だ。そして、俺自身は魔法っつうのをよく理解しちゃいねえから《《感覚だけで教えることになる》》し、師匠である俺自身が《《新しく学ぶこともある》》。 そのことをよく理解してくれよ?」
「……はい、分かりました師匠! 一生懸命ついていきますッ!」
へっ、度胸のある返事だぜ。これで正式に、俺とディードは師弟ってわけか……今更だけど、ドキドキしてきた……。こんな熱心な奴に教えるとなると、気合入れない訳にはいかねえだろうなぁ……。
「みんな、ご飯ができたわ。まず飯食ってからにしなさい」
キッチンから、食欲をそそる匂いが漂ってきた……この匂いは……シチューだな。間違いない……!
空腹を思い出した俺とアリスは食欲に扇動さるまま、すぐにテーブルへ準備して、食事にありついた。
ん……変わった味だな。色的にはホワイトシチューなんだが、ビーフシチューに似た風味を感じる……これはどんな材料を使ったんだろう?
「どう? 私の作るのは全部オリジナルだから、普通の料理と一味違うでしょう?」
「はい、私も初めて食べるタイプですね……美味しいです! これはオークの肉だったりします?」
まさか……魔物の肉を食べるなんてことは俺がやったゲームにはなかったような気がするぜ……?
「当たり! 実は昨日狩ってきたのよ。あのくらいの強さなら私でも十分倒せるからね」
マジか……流石はディードのお母様だ。口先だけではないってことだな……わざわざ店で買わず、自分から倒しに行くのも拘りを感じるぜ。
「……師匠、早速、特訓をさせてもらえませんか?」
「ん?……そうだな……」
食うのに集中していて、どうやって教えるか、まだ構想すらしてなかったんだよなぁ……どうしようか……
「……ねえ、私もついて行っていいかな? 面白そうだし……」
「え、ああ……でも、誰か家に居たほうが良いんじゃないか……?」
あの人一人でも大丈夫だろうとは思うが、アリスは家に居たほうが良いと思うんだが……特に理由らしい理由じゃないかもしれないけど。
「その必要はないわ。ついてってあげなさい」
ディードの母は自信満々に後押しする……ま、そうだな。もし何かあったら、人数は多いほうが対処しやすいだろうし。
「よ、よし、じゃあ、三人で出かけてくるんで、留守はお願いします」
「任せて。夕食時には帰ってくるのよ」
夕食までか。なっげえな……なんて思いながら、俺たちは玄関を出た。
ふー……さて、やるしかねえよなぁ……。
第11話、ディードは一体どんな魔法を身に付けるんでしょうか……?
読んでいただきありがとうございます!
次回もお楽しみに!