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第1話 悪役令嬢はS級パーティーを追放される

「お前が居ると、その……。パーティーの雰囲気が悪くなるんだよ」


 ダンジョン攻略最前線の街アビス。そこの領主の娘として生まれたわたくしロザリィ・アビスフィールドは、所属していたS級パーティ〈黄金の夜明け団〉を職業が悪役令嬢であることを理由に追放されましたわ。


 職業〈悪役令嬢〉。


 この職業の特徴は、端的にいえば性格が酷く歪んでしまうというものですの。

 傲慢、強欲、強情。他の全てを下に見なければ気が済みませんし、他人の物ほど欲しくなって仕方がありません。そして、全てが自分の思い通りにいかなければ許せない。


「わたくし抜きでダンジョンを攻略すると? あなた方にできるのかしら?」


 冷笑を口元に浮かべ、パーティーの面々に尋ねます。

 彼ら彼女らとは学生時代からの付き合いですが、わたくしが〈悪役令嬢〉になった後に出会い、卒業後もこうしてパーティーを組んで参りました。紆余曲折、様々なことがあった結果として行動を共にしていた。ただ、それだけの関係。


「もうお前の我がままに付き合わされるのは御免被る!」


「そうだぜ! 俺たちはテメェの召使でも奴隷でもねぇ!」


 パーティーのタンク役であるダンケルと、シーフのジョシュアが叫びます。ダンケルにはわたくしが開発した魔法の実験台として、ジョシュアは買い物や探索の際のお供として、まあそれなりに有能ではありました。


「あんたの嫌味にはいい加減飽き飽きだわ。とっとと別のパーティーに行きなさいよね。拾ってくれるところがあればだけど」


 アーチャーのレミナ・アルテミナ。わたくし程とは言いませんが傲慢で自信過剰な一面があり、事あるごとにそれを指摘してきましたが、どうやら嫌味だと受け取られていた様子。まあ、嫌味9割といったところでしたので間違いではありませんけれど。


「ま、待ってよみんな! 確かにロザリィさんは口が悪くて態度も偉そうで物凄く意地悪な人だけど、わたしたちには必要な魔法使いだよ!」


 ヒーラーのアンリエット・レドナだけは、わたくしの追放に反対のようですわね。彼女は一見無害そうな見た目をしていますが、中身は計算高く誰よりも賢い。わたくしが抜けた場合のパーティー構成や戦力低下を懸念しているのでしょう。


「……アンリエット。確かにロザリィは魔法使いとして相当な腕だ。俺たちは彼女の力に何度も救われてきた。……だが、パーティーリーダーとしてこれ以上、パーティーの輪を乱す彼女を置いておくわけにはいかない。魔法使いには他に当てもある。理解してくれ」


 パーティーリーダーのレオン・シュテーゲン。学生の頃から優秀な人間で常に生徒たちの中心にいる、生まれながらのリーダータイプですわ。正義感が強く、自己犠牲の精神にも溢れ、このパーティーのまさに精神的支柱ですわね。


「レオンさん、けど……」


「あんたは優しすぎるのよ、アンリ。大方、ロザリィのことを可哀想なんて思ってるんでしょ?」


「い、いえ、そんなことは……」


 ないでしょうね、本当に。アンリエットが何より優先するのは保身ですもの。わたくしの近くに居ることが何よりも安心だと理解しているのですわ。


「そうだぜ、アンリエット! こんな屑のことは気にすんな! 戦力の低下なら俺たちがカバーしてやるからよ!」


「レオンも代わりの魔法使いに目途をつけていると言っている。ロザリィのせいで俺たちの連携はズタズタだったからな。たとえどんな魔法使いだとしても、今よりは格段に戦いやすくなるだろう」


「それは、そうかもだけど……」


 アンリエットは不安に瞳を揺らしながら、わたくしの方を見てきます。


 へぇ……。


 どうやら、わたくしがこのパーティーでどのように立ち回っていたのかを、彼女は理解していたようですわね。さすが自己保身の鬼、猫かぶり姫、腹黒ヒーラーと、数々の異名をわたくしに生み出させた女だけありますわ。


 わたくしのこのパーティーでの役割は魔法使い。


〈悪役令嬢〉は魔法使いの派生職業の一種と言われていますわ。魔法適性が高く、攻撃から防御、支援までそつなくこなせる魔法万能職。基礎パラメータも高く、成長速度も優秀ですの。


 それだけ聞けば人気な職業ですけれど、職業取得条件が侯爵家以上の家柄に生まれた女であること、性格が酷く歪んでしまうことを理由に、わたくし以外に〈悪役令嬢〉の職業を選んだ者は一人もいませんわ。


だから、〈悪役令嬢〉の持つユニークスキルを誰も知らないのです。


「なるほど、あなた方の考えはわかりましたわ」


 パーティーリーダーであるレオンが判断した以上、異存はありませんわ。〈悪役令嬢〉の職業がわたくしの心にどす黒い感情を溢れさせます。


「せいぜい、わたくしを追放したことを後悔すればいいですわ。……いいえ、必ず後悔させて差し上げます。楽しみにしているといいですわよ」


 ギルド会館の会議スペースの一室から、わたくしは元パーティーメンバーたちに見送られながら退室します。冒険者学校卒業からおよそ二年。〈悪役令嬢〉をパーティーに迎えながら、よくぞここまで耐えたものですわ。


『ロザリィ・アビスフィールド。俺たちのパーティーに入ってくれないか?』

『ロザリィさんと一緒なら、わたしたちきっと凄いパーティーになれるよ!』


 二年半前。在学中に結成された〈黄金の夜明け団〉。誘ってくれたのは、レオンとアンリエットでしたわね。


〈悪役令嬢〉であるわたくしに近づこうとする者は一人もいない。このままソロ冒険者として活動していくしかないと、そう思っていましたのに。この二年半は、存外楽しい日々でした。


〈悪役令嬢〉のユニークスキル〈高き壁〉。


 このスキルは対象と敵対することで、対象の成長効率を飛躍的に向上させますわ。

わたくしはこの二年半、パーティーメンバーである彼らをこのユニークスキルの対象として、同じパーティーでありながら常に敵対的な態度をとってきました。


 そうすることで彼らは冒険の中でより成長し、ダンジョン攻略最前線のこのアビスの街でも有数のS級冒険者にまで成長したのです。


 ……けれど、足りませんわね。


 S級冒険者であっても、これから先のダンジョンを生き抜ける保証は存在しません。わたくしという優秀な魔法使いが抜けたのです。彼らのパーティーが、今まで通りにダンジョンを攻略できるとは思えませんわ。


 ともすれば、次のアタックであえなく全滅することだって。


「ならば、わたくしの取るべき行動は一つですわ」


 こんなわたくしをパーティーに誘ってくれたレオンとアンリエットのため。そして何だかんだと二年半もわたくしを仲間として受け入れてくれていた他のパーティーメンバーのため。


 〈悪役令嬢〉として、あなた方の前に立ちふさがって差し上げますわ。


 せいぜい死にたくなければ、わたくしという壁を越えてみせなさいな。


【御礼】

今回もご拝読賜り誠にありがとうございます。

楽しんでいただけましたでしょうか?


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何卒宜しくお願い致しますm(__)m

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