同盟国編 五話
痛いほどの沈黙が続き、耐えられなくなったのか菊池が前に出た。賑やかな奴にとってこの状況は、訓練よりもキツイものらしい。しかし、今回ばかりは感謝せざるを得ない。彼は、たどたどしく口を開いた。
「せ、せやかて、あんさんの祖先たちも統治者とやらを封じ込めたんやろ?同盟国を庇うつもりはサラサラないけど、そんな血相変えて怒ることかいな?」
「‥‥若者よ、それは決定的に違いますよ。なぜなら、この封じ込めというものは、一定の魔力があるもののみを捕らえるのでございます」
「だから、それ‥‥」
「人の話は最後まで聞くのが礼儀でございますよ?‥‥ご安心ください、まだ続きがあるのです」
「我々の祖先が行った魔法は、もうロストテクノロジーでございますので詳しくは知りませんが、感情増幅の極致にのみ発動出来ると史実で語られています」
「まだ色々と条件はございますが‥‥とにかく言いたいのは、搾取されるような対象を捕らえるようなものではございませんということでございます」
「なるほど、つまりは同盟国がやっていることとは真逆って言いたいんやな?」
「左様でございます、同盟国がどのような方法であれらを作成しているのか定かではありませんが‥‥」
「おっと、取り乱したせいで段取りが‥‥もうこんな時間でございますので、今日は宮殿内宿舎にお泊りください」
落ち着きを取り戻したアレクシエルが何やら呪文らしきものを唱えると、火の玉が数個現れ、俺たちの前で止まり、ゆっくりと後ろを確かめながらそれぞれ別の方向へと進んでいった。どうやら案内をしてくれるらしい。火の玉の案内人までいるとは‥‥そんな関心を持ちながら、今夜の寝床に向かった。
火の玉の後を着いていくと、ある廊下で止まり、それぞれ扉の前に移動し、ランタンを灯した。なるほど、案内だけではなく、使用しているかどうかも彼らが担っているとは、働き者なんだな。そんな関心をしていると、菊池がその神秘的な情景に興奮したのか、一目散に部屋に入っていった。流石にあいつと同部屋じゃ気が休まらないなと感じた俺は、無言で奴が入った向かいの部屋に入る。
豪華な内装に綺麗な景色、聞いたこともない食事メニューの数々がルームサービスとして注文できる‥‥仕事とはいえ、彼女に嫉妬されそうで不安だな。そんな心配をしていると、部屋に2人ほど男が入ってきた。1人は知らないが、もう1人は‥‥三俣さんの弟さんか。弟さんはともかく、物静かなやつとコミュニケーションか‥‥さてどうしたものか。
「えっと‥‥7号さんとは初めましてですよね?八神さん」
「そうだが問題あるか?俺はさっさと寝たいんだが?」
「おいおい、自己紹介くらいやれ。この仕事は長いんだし」
「そうっすね、八神浩介っす。以後お見知りおきを」
「‥‥ふてぶてしさは大目に見るが、俺はP7号。まぁ俺は自己紹介いらないくらい特徴的だが‥‥」
「唯一のロボットっすからね」
「まぁな‥‥それで2人は知り合いなのか?」
「‥‥ただの同期ってだけっすよ。じゃあ自分眠いんで」
けだるげに吐き捨てると、八神はベッドに埋もれていった。選抜だから曲者揃いだと身構えていたが‥‥これは、隊長として威厳ある姿を見せなくてはな‥‥
「すみません‥‥彼は優秀なんですが性格が‥‥」
「‥‥まぁ‥‥俺の若い頃もあんな感じだったからな」
「7号さんの新兵時代ですか?」
「ああ、当時、俺は旧型機兵7番目として作られて、旧機兵たちと訓練していたが‥‥なまじ強かったために相手になるような奴がいなくてな。いわゆる調子を乗っていたんだ」
「それで、君の兄さんと訓練することになってな。まぁボコボコにされて、打ちのめされた訳だ」
「なるほど‥‥つまり、その時に今のような性格に?」
「それはちょっと違うな‥‥そうだ、君は自分に才能がないって言っていたが、三俣さんは‥‥君の兄さんはそう思っていなかったぞ」
「‥‥どういうことでしょうか?」
「宗吾の戦闘における才能は俺以上だ、神器の適性が少し俺より劣っていたのと、先に生まれていたのが無かったら最強の兵士と言われていたのは、宗吾だったって言っていたよ」
「本当ですか?」
「本当だ、俺が彼に好かれていたのも弟によく似ているからって理由だしな」
「そうなんですね‥‥私には信じられない」
「まぁ、三俣家は神器を扱う家系だからな。その適性が低いから、才能がないと周りに言われ続けていたのだろう?」
「そうですね‥‥思えば、兄から直接的に才能がないとは言われてないですね」
「はは、そうだろ?さぁ、そろそろ寝た方がいいぞ」
彼はにこやかに頷き、ベッドに入った。さて、俺もそろそろ‥‥そういえば、博士が取り出した神器の中でなぜラクアの武器が無かった。そうだ、奴の死体も確認されていなかったな。つまり、生きているのか?だが、この手で確実に仕留めたはずだ‥‥疲れているのかもしれないな、休息するか。