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同盟国編 四話

 車に身体を揺さぶられながら景色を見るのも飽きてきた頃、前の座席から顔を覗かせてきた男が、親し気に話してきた。


「あんたが英雄の機兵さんか?ちょっと話しようや!」


「別に構わないが‥‥お前は選抜兵士か?」


「ご名答!わいが菊池翔や!隊長さんよろしゅう!」


「俺は7号だ‥‥言わなくても知っているか‥‥それで要件はなんだ?」


「特にはあらへんけど、まぁ暇つぶしに挨拶を兼ねた世間話でもどうかなと。そうや!最強の兵士の部下やったんやって?どんなに強かったんや?」


「それは、そっちの彼も話に入れるべきじゃないか?」


 俺が向こう岸で窓から景色を眺める男を指さし、そう言った。すると、彼は少しけだるげにこちらに向き、話に加わるためにこちらに身体を寄せる。


「久しぶりですね、兄の葬式以来ですか?」


「ああ、久しぶりだな、それで‥‥」


「兄についてですか?私はあまり知りませんので面白い話は出来ませんよ?」


「えーなんでや!弟くんならよく訓練一緒にしたんちゃうんか?」


「違いますよ‥‥私は才能がないと言われていましたし‥‥一緒に訓練しても何も得るものが無かったのではないでしょうか?」


「そうなんか?でも、選抜兵士に選ばれる位強いんじゃないんか?」


「特段弱いということはありませんが、7号さんのように特筆した強さもありませんよ。平凡な一兵士という感じですね」


「ほな、選抜の基準ってなんやねんやろうな?ワイは自分で言うのもなんやけど強い方って自覚あるんやけど‥‥」


「多分だが‥‥神器適正というやつだろう」


「神器‥‥?7号さんがラクア戦闘時に使ったっていうあれか?」


「そうだ、神器という他の武器性能を大幅に上回るものを扱うにはある種の適性が必要で、それを持っていないと武器を振るうことすら怪しい」


「へぇ‥‥そんなもんが実在するとはなぁ‥‥」


「まぁ、その神器については俺もそのくらいしか知らないんだがな」


 俺がそう言い終えると、車が停車した。ようやく目的地に着いたらしい。


「やっと着いたんか!よし、わいが一番乗りや!」


新天地が待ちきれない子供のように足早に菊池が外へ出た。その様子に少し呆れたが、俺たりも座席から立ち上がり、外へ出た。




 車外に広がっていたのは、堅牢な城壁を支える7つの柱に美しい女神をあしらった巨大な門‥‥どこを見てもその技術力は圧倒的と言わざるを得ない。俺たちが、軽いカルチャーショックを受けていると、小さな老人が喋りかけてきた。


「皆様が皇王からの遠征隊でございますね?わしはこの国の長老をやっているアレクシエルという者です」


「これは挨拶が遅れて申し訳ございません、我々が遠征隊で、私が隊長のP7号です」


「ふぉっふぉっ、構いませんよ。では、行きましょうか」


 老人がよぼよぼの手で杖をかざすと、門は地響きとともにゆっくりと開き始めた。


「なんやねん、これ‥‥魔法かいな‥‥」


「近いものでございますね、正確にはこの杖が門のカギを担っているというべき代物ですから‥‥」


「へぇ‥‥それが神器ちゅうやつってことか?」


「いいえ、これは初代国王が作り出したものでございます‥‥その点で言えば神器と似て非なるような関係でございますな」


「それはどういうことなのでしょうか?」


「‥‥後でお教えしましょう」


 老人が開ききった門を指さしながら言い、杖を頼るようによろよろと歩き始めた。じれったいような気分でその後を着いていった。




 城壁内を無数に飛び交う空飛ぶ絨毯に各所に配置された動く床、それに石で作られた兵士‥‥ゴーレムと言われるものか?まるで、ファンタジーの世界にでも飛び込んだような気分だ‥‥俺たちがカルチャーショックを受けているのを、笑いながら老人は語り掛ける。


「ふぉっふぉっ、ようこそ、魔導国へ!さぁ、空飛ぶ絨毯がもうすぐ到着いたしますので、今しばらく風景をお楽しみください」


「あ、あんなん絵本でしか見たことないわ!」


「左様、魔導国の技術は特殊なものでございますので、外部に持ち込めないのです。まぁ、あれらが流行り出したのも数百年くらい前で、新しい技術でございます。それ以前は、自身の身体を自在に飛ばしていましたので‥‥」


「では、今でも飛ぼうと思ったら飛べるのですか?」


「隊長殿、残念ながら‥‥我々の力は年々衰えていっておりますので、もう魔法を使えるものもわずかなのでございます」


 老人が物悲しそうにそう語っていると大きな絨毯がすごい速さで飛んできた。彼が、その年季の入った手で優しく手招くと、俺たちは恐る恐る絨毯へ乗り込んだ。全員が乗り込むと、ふわふわと浮き上がり、車よりも早い速度で飛び出した。




 落ちるか落ちないかひやひやした空の旅はあっという間に終わり、少し物足りなさを感じながら降りると、アレクシエルはまたも杖をかざし、美しい大理石の扉を開けた。中はがらんどうとしており、奥には美しい女神の像がステンドグラスに照らされて、その神秘的な雰囲気をより一層強めていた。彼女に見とれていると、老人は静かに語り始めた。


「昔‥‥この魔導国建国以前の話でございます。初代国王が、かつてこの地を治めていた者たちの魂を武器に封じ込めたのです‥‥それこそが神器と呼ばれるものでございます」


「つまり、この武器は意思を‥‥生きているということか?」


「左様でございます、隊長殿。あなたはもう神器の力の一部を使用できるようでございますね」


「神器の解放のことか?」


「そうでございます、しかし、神の御業のような力‥‥例えば、街1つ呑み込むような業火を出したりなどは出来ない、そうでございますね?」


「ああ、確かにそんなことは出来ない」


「本来ならば、そう言った力は神器の力として宿っているものです」


「つまり、俺の槍にも?」


「勿論です、あなたのものもそれからそちらのものも」


 彼は俺たちが持ってきた荷物を指さし、そう言った。俺は、その言葉の意味が分からず聞き返そうとすると、博士が割って入り、苦笑交じりに話し出した。


「いや~流石ですね、これに気が付くとは‥‥」


「ふぉっふぉっ、気が付くとも、神器は魔力の塊でございますから‥‥」


 博士が、大きな荷物から何かを取り出した。あれは‥‥帝国席次たちが使用していた武器?!確かに、回収はしていたが‥‥まさか、こんな所で見られるとは思わなかった。次々と神器を取り出していく博士を、アレクシエルは優しい面持ちで見つめていた。だが、博士が最後の1つを取り出した時、その様子は変貌した。


「それは‥‥!どこでそんなものを作り出したのだ!!まさか、貴様らが‥‥!答えよ!!」


「これは、同盟国兵士から奪ったものです!我々は、これについてあなたのお話を‥‥」


 老人は、乾いた喉で小さく呻きながら頭を抱えた。これまで優しい様子だった彼が、ここまで取り乱すようなものなのか?俺たちは固唾を飲み、彼が答えるのを待った。暫しの間、張り詰めた緊張が続いたが、彼がゆっくりと話し出した。


「すまない‥‥取り乱した‥‥」


「いいえ‥‥それで、何故そんなに取り乱したのでしょうか?」


「その手に持っている武器‥‥それからは全く魔力を感じられない‥‥そして、代わりと言わんばかりに怯えた人の声がこだましておる」


「つまり?」


「つまり、それは嫌がる兵士を無理やり詰め込んだ代物ということだ‥‥惨いことをするものだ。尋常じゃない魔力を持つ者以外は、その命は長くて数年‥‥」


 老人が語る壮絶な言葉に俺たちは、ただ立ち尽くすしか出来なかった。


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