同盟国編 三話
連合国からの襲撃から数日後、我が国は危機的状況に陥っていた。アステリア国境付近、元帝国領への同時襲撃は、予想以上に苛烈なもので、平和ボケしていた国民も、一気に戦争へ向かいつつある現状を理解し始めたが、時すでに遅く元帝国領を占拠され、多大なる損失を受けた。このような戦果の大きな要因として挙げられるのは、神器持ち兵士の多さだ。これに対応すべく、唯一の接敵から生き延びた俺に白羽の矢が立ち、俺を中心に緊急会議が開かれた。
「これより対連合国特別対策会議を始めます。進行は、柳総司令、お願いします」
「ああ、分かった。では、早速だが例の兵士たちについてだ」
「彼らは、神器‥‥国宝級の武器を膨大に確保して、襲撃を実行した。だが、この神器だが伝記などによれば7つ、多くても14ほどの数しかない。つまり、彼らが持つ神器は神器では無いと仮定される」
「お待ちください、総司令!私は確かにこの目で見たのです、あれは間違いなく神器でした!」
「落ち着くのだ、7号。何も貴公を疑っているわけではない。だが、これらを解決するためには神器への理解が必要だ。そこで、この方をお呼びした」
総司令が合図をし、ある1人の人物が現れる。彼の登場により、会議場が一気にざわつき始める。無理もない何せ彼は、この国の最高権力者、王だったからだ。
「わざわざご足労ありがとうございます、皇様」
「いや、構わない。それで、例の件だがあちらは了承したみたいだ」
「おお、それは有り難い話でございます‥‥ああ、すまない、説明するとしよう」
「我が国にも帝国にもあった神器だが、その行方、出所はハッキリしている。魔導国アリフィカだ。彼らなら神器が何たるかを知っている、もしくは情報がある可能性が非常に高い。そのため、かつて技術提携を組み、同盟として戦ってきた彼らにまた共に戦うことを持ちかけたのだ。その答えだが‥‥」
「うん?‥‥ああ、彼らは、戦闘には加担することは出来ないが情報や技術を提供することは構わないといったんだ」
「ありがとうございます、皇様‥‥そうでございましたか‥‥やはり、戦闘には関わる余力はもう‥‥」
「ああ、帝国から受けた深刻なダメージは思ったよりも深いらしい」
「ですが、技術提供してくださるのでしたら上々、これもひとえに皇様のお力添えいただいたおかげでございます」
「構わないさ、若輩者の余が、我が民の力になれたのならこれより嬉しいことはない」
「王のお優しい御心に感謝申し上げます。‥‥では、次の議題に入ろう」
「連合国の六魔将と呼ばれる者たちだ。これについては、もうこちらで対応するための兵士を選抜しておいた。その兵士たちと数名の技術者を連れ、魔導国へ派遣する」
「選抜兵士はここにいる7号、三俣宗吾、松井康太、篠田昭光、菊池翔、八神浩介の6名だ。7号以外は生身の人間だが、魔導国がロボットではなく人間と限定したからだ。その意図は聞かされていないがな‥‥」
「選抜隊の出立は明日、指名された者たちは、準備に取り掛かってくれ」
「では、以上だ。他に質問があるものはいるか?‥‥では、解散するとしよう」
会議が終っても、場の雰囲気は戦戦恐恐としていて、緊張感が緩むことはなかった。それも仕方がない。ここにいる者たちは、先の戦争の生き残りがほとんどで、ようやく掴めた平穏がこんなにも早く壊されるとはここにいる誰一人として予想していなかっただろう。そんなことを考え、肩をこわばらせていると、その肩を後ろから誰かに叩かれた。少し怪訝な顔で振り向くとより肩をこわばらせる人物が立っていた。そこには皇様がいた。彼は、少し不安げにこう切り出した。
「君が英雄のP7号君‥‥だよね?」
「はい、私が7号でございます」
「ああ、良かった。大した話ではない、ただ偉大な兵士だと聞いてね、挨拶をしようかと」
「とんでもございません。私は、非凡な兵士でございます。戦争を締結させ、帝国間との関係を円滑にした皇様のお力添え無くしては、あの戦争は終わりませんでした」
「謙虚な姿勢も最強たる所以か‥‥いや、すまない、独り言だ。余はそろそろ帰るとしよう」
「お気を付けて」
最敬礼をする俺に軽く会釈をして彼は帰っていった。張り詰めすぎた糸が少し緩んだ気がした。なにせ皇室と話す機会など俺のような兵士には全くないに等しい。
「多分これが最後だろうな‥‥」
そう呟くと、自室に戻り、出立の準備に取り掛かった。
翌朝、昨夜に準備した荷物を背負い、集合場所へ向かった。そこには、選抜隊の兵士たちの他にこの国随一の技術者の橘博士が編成した技術チームがいた。どうやら俺が最後だったらしい。少し前なら一番早く着いていた自信があったが‥‥気の緩みか?自問自答しながら反省していると、聞き馴染んだ声で我に返る。
「やぁ!一将、今日は遅い到着だね」
「定刻よりも早く着いたんだがな、これも気の緩みかもしれん」
「はは、そうかもしれないけど僕は今の一将の方がいいかな」
「遅刻しても怒らないかもしれないからか?」
「いいや、人間味が増した感じがするからかな?なんとなくだけど」
「機兵が人間味を増したところでデメリットの方が多そうだがな」
「はは‥‥そうかもね。そうだ、選抜兵士に挨拶してきなよ!一緒に戦う仲間なんだし」
「それもそうだな、じゃあまたな、橘博士」
手を振る博士を尻目に兵士たちの元に向かおうと振り向いたその時
「注目!!これより魔導国派遣任務、並びに選抜兵士の大幅強化計画を開始する!!各々荷物を積み、この車両へ乗り込め、皆の成功を心より願う!!」
総司令の号令と共に、一斉にザッという音を立て、敬礼をする。暫しの沈黙の後、皆が一斉に車へと乗りこんだ。この後に待ち受けるのは、我が軍の反撃の一途だと誰しもが感じるような清々しい朝だった。