第九十七話・震天動地は焼け石に水?(恐るべし商人)
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春休みの終わった俺ちゃんだよ〜。
北海道の冬休みは長い。
それは何故か?
学校の暖房費用が高くつくから長めなのさ。
その代わり、夏休みは短いよ?
本州よりも一週間以上も短いよ、ちくせう。
まあ、登校初日は宿題の提出と全校集会しかないから、のんびりとできるよなぁと思ったんだよ。
……
…
「乙葉ぁ、これを見ろ‼︎ 『風よ、我が名に従い旋風となれっっ』」
──バババッ
高速で印を組み、韻を重ねる織田。
すると、奴の目の前に小さな旋風が生まれた。
「……お、おおう。織田、いつのまに魔法を習得した?」
「ふっふーん。この俺を誰だと思っている。冬休みに街中で見かけた露天商が、誰でも魔法使いになれるっていう腕輪を売っていたので購入したんだよ。お年玉10万円全て注ぎ込んだが、ようやく俺もスーパーヒーローの仲間入りだ‼︎」
「おお、すげえ凄え。その腕輪を見せてくれないか?」
「これだぁ‼︎」
腕を捲り上げて俺に見せびらかす織田。
さて、鑑定するか。
『ピッ……魔封じの腕輪。純魔晶石をベースにした封印媒体であり、内部に封じられている妖魔の力を少しだけ引き出すことが出来る。耐久性に乏しく、一定確率で壊れる』
ははぁ、なるほどなぁ。
妖魔の封印されている腕輪かぁ。
俺の後ろで同じように眺めている祐太郎と新山さんは、頭を抱えて困り果てている。
まあ、織田の周りには奴の仲間たちが集まって織田を褒め称えているし、本人が満足ならいいか。
良いわけねーわ。
「って待て待て織田、それを何処で買った、それは危険な代物だ‼︎」
「新札幌だよ。ストリートミュージシャンとか集まっている場所があるだろ、そこのハズレに居たんだよ、怪しいアクセサリーを売っている店が」
それって秘術商人ハズラットなんとかさん?
とにかく不味い、それは危険だ。
封印されている妖魔が何者かわからんけど、封印が解けたら危険だから。
「織田、悪いことは言わんからそれを外せ。それには妖魔が封印されていてな、その妖魔の力をお前は使っているんだ。そして、その腕輪は壊れやすい」
「はぁ? 乙葉ぁ! 自分一人が魔法使いじゃなくなるからってその言い方はなんだ? 俺様に嫉妬か?」
「嫉妬上等‼︎ とっとと外せって。それが壊れたら、中にある妖魔が飛び出すんだぞ?」
「その時は俺が退治する‼︎」
「壊れて使い物にならんわ‼︎ 悪いことは言わんから外せ‼︎」
「断る‼︎」
そんなやりとりをしている時HRが始まる。
こりゃあ、力ずくでも外さないと危険なんだが。
……
…
──ゴウッ‼︎
休み時間になると、織田は教室を飛び出して中庭で魔法の練習をしている。
見せびらかすように派手に旋風を起こしては、女子のスカートを捲り上げていた。
しまいには教師に通報されているのだが、魔法ではなく偶然起きた風だって言い訳して誤魔化しているし。
うむ、ギルティだ。
あんな奴は魔法使いを名乗る資格はない。
世のため人のため、妖魔の野望を打ち砕く大魔術師。このペストマスクの輝きを恐れぬのなら、かかってこいやぁぁぁ。
ちなみに、チラリと昼休みに鑑定したんだが、腕輪の耐久力は残り1。
あと一回の発動で、あれはぶっ壊れますなぁ。
俺と祐太郎、新山さんは急ぎ昼飯を食べ終えると、織田を探す事にした。
どうせ中庭で飯食ってから魔法を見せびらかすんだろうけど、現行犯でとっ捕まえてやるわ。
「乙葉君、腕輪に封印されている妖魔って分かる?」
「中級妖魔・ジン。風の魔神とも呼ばれている奴だよ。あの腕輪には、ジンの魔力を外部出力できるように魔導回路が組み込まれていると思うけど」
「物理攻撃は?」
「無効。闘気は行けるはず……遅かったかぁ」
──キヤァァァァォァォァア
中庭から女子の叫び声が聞こえる。
次々と中庭から校内に逃げる女子と、絶叫している男子の悲鳴が耳に届いた。
「Gogglesゴー。か〜ら〜の、魔導強化外骨格装着‼︎」
「ブライガァァァァア‼︎」
「小春行きます‼︎」
──シャキーン
走りながらの戦闘用装備に切り替え。
ちゃんと全身が輝いてからの換装だから、カッコいいよね。
そして織田トリマキーズが中庭から飛び出してきたんだが、肝心の織田がいない。
「織田はどうした‼︎」
「あ、あいつ、魔法の発動に失敗して、中から出てきた妖魔に喰われた‼︎」
「乙葉、織田を助けてくれ‼︎」
「乙葉の言うことを聞かなかったから、こんな事に」
「織田、お前はいい奴だった……」
うわぉ、言いたい放題だなぁ。
そんなことを聞いていたら、すでに祐太郎が目の前のジンと相対時していた。
「アラジンのジーニーと同じ外見かよ。こりゃあ実写化は無理だな」
「ユータロ、何を叫んでいる」
「いや、これを退治したらニュースでは流せないなぁと思ってさ」
──シャキーン
祐太郎の両腕にブライガーの籠手が装着される。
「乙葉君、脚を止めます‼︎ 光よ、かのものを捕らえる檻となりなさい‼︎ 光の牢獄っ」
──シャキシャキシャキーン‼︎
天空から無数の光の剣が降り注ぎ、格子状に姿を変えてジーニーを閉じ込めた。
「オトヤン、指示を頼む‼︎」
「おう、Gogglesゴー。織田は胴体の中心に取り込まれているわ。胃袋の部分だから、奴の首元にある魔人核を破壊する。祐太郎は、奴の体表面を覆う防護幕を破壊してくれ‼︎」
「よっしゃあ‼︎ 織田ぁ、外したらすまん‼︎ 全集中‼︎ 機甲拳、波紋の呼吸・三の型、闘気疾走!」
──ガッゴォォォォン
祐太郎は光の檻を突破して、右拳に集まった闘気波動をジーニーの首元に叩き込んだ‼︎
「グウォォォォォォォォォ‼︎」
闘気波動はジーニーの防護幕表面を駆け抜けると、一撃で全身に亀裂が走り、胸部下の皮膚が砕け、織田が粘液混じりに転がり落ちた。
「やり過ぎたか? まあ良い……オトヤン、トドメだぁぁぁ」
「行くぞダイナミック・マジックパワー‼︎ 乙葉ダイナミック‼︎」
──ズバァァァァァァ
魔人核をフォトンセイバーで真っ二つに切断する。
これでジーニーは蒸散を始めた。
「オノレ……オノレオノレ……ニンゲンガァァ」
──ブワサッ‼︎
最後の悲鳴。
そして全てが終わると、遠巻きに周りで見ていた奴らが拍手し始めた。
いや、それよりも織田だな。
「織田君、しっかりして‼︎」
「鑑定眼っっっ。あ、あかん、体表面が溶けて深層火傷状態だ……」
急ぎ空間収納から中回復ポーションを取り出そうとしたが、それよりも早く新山さんが織田に両手を翳す。
「強治療‼︎」
──シュゥゥゥゥ
新山さんの両手が緑色に淡く輝く。
それはゆっくりと織田を包み込むと、傷口を活性化し治癒していった。
「……新山さんオッケー。これで織田は回復した」
「お、おい、乙葉、織田の意識が戻らないんだが」
「これはあれか? 人工呼吸が必要なんじゃないか?」
トリマキーズが無責任なことを呟いたのだけど、その瞬間、意識が戻って目を開こうとした織田がもう一度目を閉じたのを俺は見ていたからな。
新山さんの唇を奪おうとは、何というギルティ。
「いや、もう大丈夫だ。俺の忠告を無視した挙句に封印から目覚めた妖魔に取り込まれ、挙句に死にかかったへっぽこ織田なんかあとは放っておいて大丈夫だから」
「誰がへっぽこだぁぁぁぁ」
ほら、挑発したら飛び起きたじゃないか。
「俺のいうことを無視するからだよ。なんで専門家の説明を無視するかなぁ」
「俺は乙葉を越えるんだ。そのために、お前の忠告をいちいち聞いていられるかってぇの。それよりもあの露天商だ、こんな不良品を売りつけやがって」
まあ、怒る気持ちはわかるわ。
でもよ、恐らくだけどその露天商もちゃんと説明してんじゃないか?
「まあ、これでこの件はおしまいだ。そんじゃあな」
「あ……誰も助けてくれって言ってないからな。ありがとうよたすかったぜ」
「どっちだよ‼︎」
そんな俺のツッコミを無視して、織田御一行は着替えるためにロッカー室に向かった。
さて、俺の昼休みを返せ。
………
……
…
やれやれも教室に戻ったら、祐太郎と新山さんがクラスメイトに囲まれていた。
まあ、インターネットで中継されていた時と、いざ目の前で見るのとでは感覚が違うからなぁ。
特に新山さんの治癒魔法は本邦初公開なので、驚きはひとしおでしょう。
それで、俺のところには誰も来ないのね。
まあ、別に良いけどさ。
そんなこんなで休み時間のたびに色々と聞かれていたり、織田トリマキーズは俺や祐太郎の装備を俺たちにも作って欲しいと頼み込んでくるし、大変な一日でしたとさ。
「へぇ。昼休みの騒動って、噂だけは聞いていましたけどやっぱり乙葉君たちでしたか」
「ええ……でも先輩、人前で神聖魔法を使ったのは不味かったのでしょうか?」
「人を助けるのに躊躇しないところが、新山さんの良いところですよ。乙葉君と築地君はいつも通りですし。それよりも、その露天商は危険ですわね」
──ブゥン
すぐさま深淵の書庫を起動して、内部にモニターを展開すると、内部に無数の画面が浮かび上がっていた。
「先輩、完全に深淵の書庫を使いこなしていますね」
「情報関係は、俺やオトヤンは苦手ですからお任せします」
「ええ。それと、次の日曜日には、例の姉小路家洋館の調査のお手伝いができそうですので」
それは助かります。
先輩は高校卒業後は、父親の遺志を継いで会社の役員として就職することが決まっている。
だから、今のように俺たちに付き合って色々と手伝ってくれるのはあと数ヶ月だけ。
「……この人かな? ちょっと映像がぼやけているんですけど、恐らくはこの人が織田君が魔導具を購入した露天商だと思いますわ」
「ありがとう先輩‼︎ それじゃあちょいと行ってきますわ」
速攻で窓から飛び降りると、空中で魔法の箒に飛び乗る。
飛行高度は5m、この前は10m高度を飛ぼうとして電線やらなんやらにぶつかりそうになったんだよ。
だから、思いっきり高く飛ぶか、地面に近い高さを飛んだほうが安全である。
「それいけ、レッツゴー‼︎」
………
……
…
新札幌。
札幌の副都心であり、現在の都心部にあたる。
複合商業施設の前に広がる大きな公園、そこに例の怪しい露天商はのんびりと座っていた。
──シュンッ‼︎
敢えて目の前に着地すると、露天商は目を丸くしてこっちを見ていた。
「……え? 現代の魔術師かよ。やっぱりあんたには俺の露店が認識できるのかよ」
丸メガネの優男風ヒッピーなにーちゃん。
それが露天商の第一イメージ。
顔つきは日本人らしいし、言葉も日本語だから間違いない。
「初めまして、現代の魔術師・甲乙兵だけど。貴方が秘術商人?」
「俺は日本人だからな。日本の女性と付き合いたくて日本語を覚えたんじゃないからな。それと秘術商人じゃない。魔導商人だ」
どっちでもええわと突っ込みたいところだが、今はそんな場合じゃない。
「そっか。それで商人さんよ」
「ジェラールだ。ジェラール・浪川が俺の名前だ」
「あ、申し訳ない。それで浪川さん、貴方の売っている魔導具なんだけど、妖魔の封印媒体をコアに使っているのか?」
「それぐらいは、チベットじゃあ当たり前なんだけどなぁ。封印された妖魔の力を引き出して使うのは普通なんだぜ?」
ギルティ‼︎
「それで。俺のクラスメイトが死にかかったんだけど? どう始末つける?」
「始末って……そもそも、俺は売る時にはちゃんも説明したぜ、あのブレスレットで魔法が発動できるが、その回数は10回までだった。それ以上は魔晶石が崩れる恐れがあるから、それ以上は使うなって」
「あ、そーなの?」
ふむ、織田がギルティだな。
「そもそも、俺の売っている魔導具はな、ちゃんと用法用量を正しく使っていれば問題はないはずなんだ。手書きの取説だってしっかりと付けてある。なにせ、古代遺跡から発掘したものばかりだからな」
「はぁ……それで、なんで日本で商売しているんだ?」
「そりゃあお前、転移門が安定したし、妖魔特区なんてものまで出来たんだ、儲からないはずがないだろう?」
う〜ん。
これって俺の管轄じゃないよなぁ。
どっちかっていうと、第六課の仕事だよな?
そんなことを考えていると、遠くに見覚えのある車が停まった。
「乙葉君‼︎ その男を捕まえて‼︎ 関税法違反の常連なのよ‼︎」
おや、これは井川さんお久しぶり。
そして井川さんの声を聞いた浪川は、慌てて荷物を抱えると素早く走り出した‼︎
「またあのねーちゃんかよ。あーばよ‼︎」
──シュンッ
そう浪川が叫んだ瞬間に、姿が消えた。
それならGogglesゴーだ。
「また逃げられたぁぁぁぁ」
「いや、すぐに捕まえますわ。拘束の矢、ゴーグルと連動してホーミング‼︎」
──スコーン‼︎
ドタドタと走り去ろうとしている浪川の後頭部に拘束の矢が突き刺さる。
すると、その場に崩れ落ちて透明化も解除された。
「おおおのれれれられ、おれになにをひらぁぉぁ」
「拘束の矢って言ってね。相手を麻痺させて動けなくするだけ。それじゃあ、あとは井川さんにお任せしますわ。こいつの売った商品で、俺の友達が妖魔に殺されかかったんだわ」
「要から話は聞いているわよ。それじゃあいきましょうか」
哀れ、ジェラール・浪川は囚われの身となりましたとさ。
だが、これが最後のジェラールとは思えない。
きっと脱走したりなんだかんだで付き纏わられそうな予感がするんだわぁ。
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。
・今回のつっこみたいネタ
宇宙刑事ギャバン‼︎
3○3EYES / 高○裕二 著
銀○旋風ブライガー
ジ○ジ○の奇妙な冒険
無敵鋼人ダ○ターン3
やばお、盛りすぎた。




