第九十六話・十年一昔? 十人十色?
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祐太郎と二人で、新山さんを探して屋敷の中を走り回っていた時。
──バッギィィィン
突然、サーチゴーグルに表示されていた空間結界が砕け散った。
「な、ん、だ、っ、てぇぇぇ‼︎」
「いきなり砕けたか、新山さんが何かしたのか?」
「分からん、先輩、新山さんに変化は?」
『ありませんわね。バイタルは少し興奮気味というところですか。無事のようですわ』
「ありがとうございます‼︎」
そのまま脱兎の如く廊下を駆け抜け階段を一発でジャンプすると、目的地である奥の部屋に向かう。
よし、扉も普通だ問題ないぜと力一杯扉を開くと、ベッドの上に座って涙を流している新山さんを発見‼︎
「新山さん‼︎ いきなり結界が消滅したと思ったら、建物の中の時間が戻ってきたんだ‼︎ それで、その、無事だったカァ」
ああ、俺は何を言っているんだ、もちつけ俺。
「大丈夫だよ。メイドさんと色々とお話ししていただけだから」
少し涙目だけど、兎に角無事でよかった。
「そ、それで、そのメイドさんはどこに行ったんだ?」
「役割を終えて、昇華したみたい。この屋敷をずっと守っていたらしいの」
うんうん。
日記に書かれていた通りか。
ハルナさんというのが、恐らくは新山さんを拉致したメイド妖魔なんだろうなぁ。
だけど、傷ひとつなく無事に戻ってきて安心だわ。
──コンコン
「あのぉ。そこは抱きしめて大丈夫だったか? の方がポイント高いんだが」
『勇気が足りないと言いますか、はぁ……』
「ダメ出しするなや‼︎ そして先輩も一緒に乗らないでください‼︎」
「そそそそそそそうです‼︎」
『まあ、無事でよかったわ。それじゃあ切るわね』
そう告げて瀬川先輩は通話を切った。
しかし、なんで祐太郎は部屋の中に入ってこないんだ? 俺たちに気を遣っているのなら遠慮しなくていいのに。
「申し訳ない。俺が操られてここに入り込まなければ、新山さんを危険な目に遭わせることはなかったのに」
「いいえ、お陰で色々な話を聞かせてもらいましたから。それと築地君、ここを買い取りたいのですけど」
うおっと。
ここに来て新山さんの爆弾宣言だ。
まさかここを買い取るというのか。
「あ、ここで構わないのか?」
「ええ。お父さん達には帰ってから説明するけど、私はここに住むべきな気がするの」
「ほう、何かあったんだな。それじゃあ親父にも話を通しておくから」
「ありがとう。乙葉君もごめんね、心配かけちゃって」
そんなの気にすることはないよ。
新山さんが無事ならそれでいいのさ。
「問題なし!! それじゃあ一度帰りますか」
そのまま帰ろうと思ったんだけどね、まだ錬成魔法陣の中では魔導具がウネウネと融合している最中なのだよ。
あと二時間は、この屋敷から出られないのだよ。
「……orz」
「うん、そうなるよな。そんじゃあ、書斎の本でも調べてみますか。何か色々と便利な代物があるかもしれないからな」
祐太郎の意見に一票。
新山さんは書斎のソファーで少し体を休めたいらしいし、これは都合がいいよね……。
………
……
…
「なんて思っていた、俺が愚かでありました」
書斎に戻ってきたところまではいいんだけど、改めて部屋に入るとそこはボロボロな部屋。
本棚の本も風化し崩れ落ち、机もソファーも朽ちておりました。
「なんだ? まるで止まっていた時間が進み始めた感じだよな」
「っていうか、本来の時間軸に一気に進んだ感じか。妖魔の力で、今までは維持されていたんだろうなぁ」
「でも、廊下や階段、他の部屋の家具はなにも変化ないみたいですよ?」
「「 な、なんだって‼︎ 」」
慌てて手分けして他の部屋も調べたけどさ、書斎の、それも本棚が重点的に朽ちていた。
何だろう、そこにある本やら資料は残したくないっていうのかなぁ。
「そうだ、日記は‼︎」
「ボロボロ……ではないが、表紙がそこそこに風化しているように感じる」
丁度、祐太郎が机を調べていてらしい。
そして日記はというと、流石は魔導具。
魔力を込めてから開くと、しっかりと日記部分も損失なく読める。
これは大切な資料として俺が預かっていいよね?
「ユータロ、これは俺が預かっても?」
「OK。本棚の奴はどうする?」
「そのままにしておいて、後日、瀬川先輩と一緒に来て深淵の書庫で解析してもらうしかないか」
迂闊に触れるとボロボロに崩れる。
それならば、魔法による解析でデータを保存してもらうしかない。
「先輩には俺から連絡入れておくよ。あとは、何か気になったところはないか?」
「姉小路子爵の家系図とか系譜って分かるものがあるかもしれないかしら?」
「それは探さないとわからないなぁ。少なくとも、書斎にあったとしても今は読めないから」
「そっか。それじゃあ別の方法で何か探してみようかな」
ふむ?
新山さん、何故に姉小路子爵家を調べているのかな? 気になるところではあるが、何かあるのなら教えてくれるだろうから今は聞かない。
とまあ、そんな感じで魔導具も完成したので、昨日はここでお開き。
明日はまた宿題を終わらせるべく、我が家に集合である。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
帰宅して、お父さんが帰って来るまで私は姉小路家について調べてみました。
今の日本では、姉小路家は四十人ほどしか居なく、殆どが関西とか九州にお住まいのようでした。
けれど、札幌にも姉小路家はいらっしゃいまして、あすの午後にはそちらに行ってみようかと思っています。
……
…
「よし、完了‼︎」
「俺も宿題おしまい。といっても、見直し確認だけなんだけどね。新山さんは?」
「私も終わりました。午後からは出かける用事があるので、今日はこれで失礼しますね」
「ふぅん。午後からはオトヤンとデートフベシッ‼︎」
──スパァァァァァン
「デデデデートちゃうわ‼︎」
「私は神社に行くだけです‼︎ 乙葉君にはついて来てもらうだけですから」
「あ、ご馳走様。やっぱり二人でフベシッ‼︎」
──スパァァァァァン
「ゴチちゃうからな、普通に遊びに行くだけなんだからな」
「そうです、これも勉強の一環です‼︎」
「はいはい。それじゃあ、俺も誰か誘って遊びに行ってくるか」
そうしてくれ。
毎日、祐太郎と遊んでいるとだね、クラスの女子連から苦情が来るわけなんだよ。
という事で、昼飯は俺が作った特製回鍋肉を食べてから祐太郎は帰宅。
俺は新山さんと一緒にいざ、豊平神社へ。
………
……
…
札幌市豊平区、豊平神社。
主祭神は『 上毛野田道命』。
それに『大山祇神』『倉稲魂命』の二神が合祀して現在に至る。
歴史は古く、明治四年に上毛野田道命を祀る祠が建てられたことが始まりとされており、公認神社となったのは明治22年。
以降、豊平区に住む住民にとっての心の拠り所の一つとされている。
「ほほう。久しぶりに来たけれど、相変わらず静かだなぁ」
国道36号線沿いにあるにもかかわらず、敷地に一歩踏み込むと外の騒がしさが途切れたかのように静かになる。
まるで、結界の中に一歩踏み込んだかのような雰囲気が、神社の境内に漂っていた。
「私は初めてですけど、こんなにちかくにあったのですね?」
「俺の家からなら歩いて二十分ってところかな? 姉小路家洋館からなら十分で来れるから、引っ越したらいつでもお参りに来れるよ」
「そうですね。それじゃあご挨拶して来ます」
「俺も久しぶりに挨拶しておきますか」
初詣は円山の北海道神宮だったからね、こっちにもご挨拶。
お参りをした後は、境内をのんびりと散歩。
生魂の歴史的碑が建てられており、ひとつ一つを回っては眺め、昔は読み込めなかった文字を読んでみる。
歴史的に重要なものではあるが、かと言って今の現状で役立つものではないとは思う。
けれど、新山さんには何か別のものが見えているように感じるのは何でだろう?
……
…
幾つもの石碑。
殆どが何らかの記念碑であるのに対して、ひとつだけ違うものがある。
それが、この神社の始まりである祠を建てた方の碑石。
そして、ハルナさんが手渡してくれた鍵がほんのりと反応する場所が、この石碑の裏側。
「何もないけど……まさか石碑に鍵穴があるなんてことは……無いわよね?」
「この石碑は、今は何が書いてあるのか全く判別がつかなくなっちゃってね。確か阿部仁太郎さんっていう、豊平一円を開拓した人が紫綬褒章を授かったときの記念碑でもあるんだよ」
確か区役所とかにはまだ資料として残っているはずだけど、そんなに重要なものじゃ無いと思うんだけど。
「でも、妖魔とかについての文章はなかったはずだけど?」
「ううん。この場所に意味があるんだと思う。この阿部仁太郎さんが祠を作るのに、どうしてこの場所を選んだのか。何処でもいいからって選ぶ場所じゃ無いと思うのよ」
「神社だからなぁ。それなら、もう少し本気で探してみますか。Gogglesゴー。戦え大戦隊‼︎」
サーチゴーグルをセット。
対象を妖魔・魔族にセットするが、全くと言っていいほど反応がない。
それならば魔力に切り替えると、境内全体が白く輝く。
『ピッ……神威結界。魔の存在全てを排除することができる』
「神威結界? 神威って何?」
『ピッ……神威、神の力、神のまといし力、神の使う魔術『神威魔術』の力の源、神の加護、神の力の原点……』
「はぁ、魔力、闘気、妖気に続く4つ目の力かよ。しかし、神威ねぇ」
「この神社全体が神威とかに囲まれているの?」
「正確には、囲まれているんじゃなくて発生しているっていうのが正しいかな。その力の源が何処なのかはこれからさ」
この場所に神威が溢れてある理由は必ずある。
そう考えて境内を歩いて回るものの、それらしいものは何も無い。
けれど、新山さんは何かを感じたのか、目を閉じて両手を広げていた。
………
……
…
乙葉君の話していた神威。
それが鍵に集まってくる。
これは扉の鍵では無い、鍵の形をした魔導具。
それも、魔導遺物品と呼ばれている、神々の残した遺産。
『鍵を右手に、前に差し出す。そこに鍵穴は生まれる。封印の扉を開く鍵。そこに、神世の剣が納められている……』
声がする。
男性の声。
聞いたこともない声。
けれど、その声の主が誰なのか、私には分かる。
「子爵さま?」
『今はまだ、鍵を開く時ではない。けれど、鍵に神威は宿った。行きなさい、己の信じる道を。さすれば、希望の道は開ける』
声が途切れる。
「ありがとうございます」
鍵を握りしめて頭を下げる。
すると、体の中を神威が駆け抜けたような感じがする。
……
…
綺麗だ。
何かの儀式のやうな光景。
新山さんの周りに神威が集まり、まるで羽衣のように体に纏わりついている。
「天女の羽衣?」
「え? いやだ乙葉君、まさかずっと見ていたの?」
「ずっとというか、あの、新山さんがトランス状態になったので心配で……それで、何か儀式のような感じがしたんだけど、終わったの?」
思わず話を逸らそうとするが、新山さんは恥ずかしそうに膨れている。
「うん。ひとまずは終わりかな?」
「そっか。それじゃあ甘いものでも食べて帰るか。近くに美味しい鯛焼き屋さんがあるんだよ。今は季節限定のリンゴ餡がオススメかな? それとチーズ。あずき餡も捨てがたい……」
「へぇ。それじゃあお土産に少し多めに買って帰ろうかな」
「それがいいと思うよ。万が一のことがあっても、またあの飴玉を舐めたら餡子の分のカロリフベシッ‼︎」
──スパァァァァァン
「女の子相手に直接的表現は禁止!!」
「ら、ラジャー‼︎ 今日の鯛焼きは全て奢らせて貰います」
「それじゃあ行こうか」
この後はたい焼きをお土産に新山さんは帰宅。
俺も自宅用のお土産を抱えて、のんびりと帰ることにした。
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。
・今回のわかりづらいネタ
タイトル『十人十色』から。




