第九十三話・禍福倚伏と青天の霹靂、貴方はどっち?
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つい先日。
ヘキサグラムの機械化兵士の二人に魔法を教えましたとさ。
ええ、二人の話を聞いて、そのまま無視するなんて出来ませんでしたよ。
にも拘らず、なんで俺が文句言われないとならないんだよ? しかも朝っぱらから。
いくら冬休み中とは言え、朝一でうちに押しかけてきた防衛省の役人の、まあ、五月蝿いこと五月蝿いこと。
……
…
「事情は理解できますが、何故、日本国民である貴方が日本を蔑ろにしてアメリゴの研究機関に協力するのですか?」
「俺は、ヘキサグラムに協力した気はないよ? 個人的にあの二人に魔法について教えただけだから」
「でも、その結果、彼女たちは光球の魔法を修得したじゃ無いですか?」
え? そうなの?
ちょっと驚いていると、役人さんがタブレットで二人の動画を見せてくれた。
その中で、二人は試行錯誤の上に光球を修得したらしく綺麗に発動していた。
しかも最後には俺宛のメッセージ付き。
『マスター乙葉、サンキューデース』
『これで、俺たちも一歩踏み出せる。感謝する。あと、君の彼女にも俺たちの代わりに礼を伝えてくれ』
か、か、か、か、か、彼女じゃねーし。
まだ早いし。
しかし、しっかりと発動してますなぁ。
これには驚きだけど、保有魔力量が少ないので、せいぜいが5分程度の持続時間ってところだろう。
秘薬無し、発動媒体なしの悲しいところだね。
それでも大したものだよ、なんで使えるようになったかはおおよそ理解できたけどね。
「乙葉君、それで、君はどう責任を取るのかね?」
「はぁ? どこに責任の所在があるか教えてくれますか?」
「君の持つ魔法技術は、もはや君だけのものではない。いわば日本の財産だ。それを自国のために使わず、他国の、それもライバルであるアメリゴに教えるなど言語道断じゃないのか?」
「……そうですか。では、日本国民のために魔法を教えますよ」
もう面倒くさいわ。
この頭の中まで洗脳されている感じの役人の相手なんて、やりたくもないし続けたくもないわ。
親父たちは、この件で朝早くからヘキサグラムの札幌駐屯所に向かっているようだし、俺一人のタイミングで来て子供程度と思われても癪からね。
「講習費用は1時間一億円。テキストその他は全てこちらで用意します。発動媒体もお貸しします。それでどうですか?」
この一言で、目の前の役人は呆然とする。
「き、君はふざけているのか? なんだってそんなに法外な値段設定をするのかね?」
「法外じゃないですよ。発動媒体は普通に作ったら一億円越えますよ? それをこっちで用意するのですからね。あと、さっきの金額は一人頭です、十人集まったら10億円支払ってもらいますよ」
──ガタン‼︎
おーおー。
役人さん、顔を真っ赤にして立ち上がったよ。
「そ、その金額を支払ったら、本当に魔法使いになれるのだな?」
「そんなの知りませんよ。講習はしますけど、あとは自力で頑張ってください。教習所だってそうでしょ? 高い受講料を払ったからといって、全員が自動的に免許証をもらえるわけではないでしょ?」
「……また来ます」
そう告げて、ようやく役人さんは出て行ったよ。
全く、なんだってあそこまで身勝手なこと言い出すかなぁ。
恐らくは思考誘導で操られているんだろうけどさ、俺ってまだそう言う魔法を解除できる魔法を覚えていないんだよ。
「はぁ。出かけよ……」
気分転換は遊びに行くに限る。
という事で家から出て地下鉄駅へと向かうのだけれど、後ろからついてくる四人の人影。
「Gogglesゴー。戦え大戦隊‼︎」
──ピッ
速攻でサーチゴーグルを装備すると、しっかりと対象をサーチしたよ。
『ピッピッ……中級人魔・マルカーリー、同・ヤッホー、同・メメゾン、同・モバオー。特殊能力として特化する部分無し』
うわ、なんだろ?
どうにも怪しすぎるんだけど。
まあ、このままついてこられても迷惑なので、少し離れた公園まで誘導すると、立ち止まって振り向き一言。
「後ろからついてきている四人の人魔さん、俺に何か用事か?」
──ガサガサッ
声を掛けてみると、その場で全員が立ち止まった。
そしてお互いに顔を見合わせてから、俺に向かって駆け寄ってくる。
「悪く思うな、お前を喰らうと強くなれる」
「いくら魔法が使えるといっても、所詮は人間、俺たち妖魔に勝てるはずがない」
「滋養になって死ねぇぇぇ」
「ごっつぁんです‼︎」
よし、敵対意思確認。
それならこっちも本気で行くよ。
──シュンッ
ローブ型魔導強化外骨格に換装して、空間収納からフォトンセイバーを引き抜くと、問答無用で一人目の魔人核目掛けて強烈な一撃をお見舞いする。
──バッギィィィン
俺の攻撃が見えていたらしく、体を捻って躱そうとするが惜しい、ザッツ・スイート。
「それぐらいはお見通しだって……え?」
「こっちもお見通しなんだよっ!」
──ガン‼︎
追撃を仕掛けようとしたところに、仲間の人魔が飛び蹴りを仕掛けてくる。
お陰で攻撃はキャンセルすることになったし、間合いを外されて散々だわ。
「……お見通しかぁ。そんじゃあ、これはどうかな? 4連装・64式力の矢っ‼︎」
──シュンッ
俺の周りに威力64倍の力の矢が四本浮かび上がると、一斉に四人の人魔に向かって飛んでいく。
流石は妖魔、身体能力は高いらしく次々と交わしていくが無駄だよ、打ち出した力の矢はGogglesで自動追尾させているからね。
ゴーグルのサーチ能力と俺の魔力をリンクしているから、俺を倒さない限りは永遠に追いかけるからね。
「な、なんだこの魔法はっ」
「躱しても追いかけてくるだと?」
「馬鹿な、たかが人間如きにこんな上位魔法が扱えるなんて信じられぬ」
「我ら、テン・バイヤ一族がここまで追い詰められるだと?」
「ええっと。そこの人魔御一行様、敵の攻撃を躱しつつ驚愕するのは死亡フラグだからな」
──シュタタタタッ
両足に風魔法を纏って『風の力』という魔法を作り出す。
これで俺の移動速度は二倍‼︎
「い、いかん、逃げるぞ兄弟‼︎」
「逃がす筈がないだろうがっ」
──タン‼︎
さらに力一杯大地を踏み締め、高度10mまで上昇。
ここから『力の盾』を空中に形成し、それを力一杯蹴って急降下‼︎
さらにフォトンセイバーに上下二つの刃を形成しツインブレードモードにすると、それをグルグルと回転させる‼︎
「風の力で威力は二倍、さらにジャンプして二倍、そこから力の盾を踏み台にして加速し威力がさらに二倍、フォトンセイバーをツインブレードにしてさらに倍、それが回転してさらに倍。威力32倍のフォトンセイバーを喰らえ……ええ?」
──バシュゥゥゥゥ
俺の攻撃の着弾点予測ポイントでは、4人の人魔が力の矢に撃ち抜かれて霧散化しているところでした。
「お、おのれ乙葉浩介っ、今日のところは負けを認める。だが、再生したら必ず貴様を喰らってやるわ」
「戦術的撤退だ‼︎ いくら現代の魔術師でも、霧散化した我々を捉えることはできまい‼︎」
「はーっはっはっはっ。我ら兄弟の連携を見たか‼︎」
「あばよっ‼︎ いい夢見させてもらったぜ‼︎」
──ブワサッ
あ、霧散化して消滅した。
流石に魔人核をサーチして追尾する余裕はなかったんだけど、なんだろう? 別の意味での敗北感満載だよ。
「……結局、俺を喰らおうとしたのかよ。面倒くさい妖魔だなぁ」
フォトンセイバーを収めて装備を解除すると、遠巻きに見ていた人たちから拍手が飛んでくる。
いや待って、見ているのは構わないけど戦闘エリアにいたら危険だからね?
ほら、警察も来たじゃない。
「ここで妖魔と人間の戦闘が起こったと連絡があったが、君が戦っていたのか? なにか身元を証明するものはあるかな?」
「あ、はい、これを」
思わず生徒手帳を出したよ。
それを確認してどこかに連絡している警察官だけど、その後ろから忍冬師範が歩いてきて俺ちゃんホッとしたよ。
「公安第六課所属退魔官の忍冬だ。この件はこちらで預からせてもらうが構わないな?」
「ご苦労様です。それでは、よろしくお願いします」
おおう。
敬礼して立ち去る警察官と、入れ替わりに忍冬師範ともう一人の男性が近寄ってきたわ。
「忍冬師範、ちわっす」
「妖魔と人間の戦闘があったと報告を受けたんだが、やっぱり浩介か」
「俺は襲われたのでやり返しただけですからね。それと、退魔官ってなに?」
「第六課所属メンバーの正式な呼称だ。退魔官は一般警察の巡査部長と同じ権限を有しているからな」
へぇ。
そういうのがあるのか。
「それで、俺はもう帰っていいの?」
「待て待て、一応は調書を取らないとならないからな。近くの派出所まで移動するから付き合えな」
「で、す、よ、ね〜」
なんだろう?
今日は朝からろくなことがない。
そして調書を取り終わって解放されたらもう昼だったよ、チクショウめぇぇぇ‼︎
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
──チュドーン‼︎
爽快な爆発音が、森全体に響き渡る。
誰とも知らない人間の体が内部から吹き飛び、臓腑が骨が血飛沫が、周囲の草木を染めていく。
「ふん。なかなか使い勝手はいいが、退魔師相手には使えないだろうが」
目の前の百道烈士はそう吐き捨てるように告げると、足元に転がっている大腿部を拾い上げ、大きな口で噛みつき食いちぎっている。
「そうじゃなぁ。恐怖に怯えた生気も格別じゃが、あの味を知ってしまうともう他の生気など食べる気にもならんわ」
笑いつつ足元の頭蓋骨を蹴り上げると、妾は振り向きつつ百道烈士を眺めてみた。
ここ最近は新鮮な生気など食べることができず、ここ妖魔特区内の妖魔たちは消耗し始めている筈なのじゃが。
それにも拘らず、百道烈士とその配下たちは以前と同じようにみずみずしい肉体を維持しておるのは、一体どういうことなのじゃ?
「のう百道烈士や、どうしてお主たちの配下は、この結界内で消耗せずにいられるのじゃ?」
「定期的に餌を寄越す奴がいるからに決まっているだろうが。この結界はな、物理・魔術共に完全な耐性を持っている。けれど、念話は通るんだぜ」
成る程。
相変わらず、狡賢いのう。
それにしても、何処の何奴が百道烈士に餌を供給しておるのじゃ?
「念話で餌を運ばせるか。外にいる妖魔が運んでくるとは思えんが?」
「そりゃあ、人間に決まっているだろうが。札幌市の職員や警察官の中には、俺の配下の人魔が大勢いる。そいつらに話をつけてな、こう、いなくなっても構わなさそうな奴らを入り口から堂々と……」
「呆れたものじゃな。いつかバレはせぬか?」
「その時はその時だ。燐訪とか言う議員に張り付いている部下に連絡を入れるさ。昔の盟約通り、犯罪者を寄越せってな」
やれやれ。
またも盟約か。
妾は盟約には縛られておらぬが、中級人魔共は盟約に縛られると能力が半減したりするからのう。
それにしても、この日の本の役人は、あいも変わらずよく深いものが多いのう。
「白桃姫は食わねえのか? ここ最近は、まともに生気を食っていないだろうが」
「要らぬわ。あの乙葉浩介の生気を食べてからは、もう他の生気など食べる気もせぬわ。こちらに来てからは、人間とやらも殺してはおらぬしのう」
それに、迂闊に人間の生気など食べたことがバレたなら、もう乙葉から生気を貰えなくなるからのう。
あの男は、その辺りの境界線をしっかりしておけば危険はないと判断できたからのう。
「そうか? それなら構わんが。お前の配下……はこっちにいないんだったな、まあ、俺に出来ることがあれば何でも言ってくれ」
「まあ、頼る事はないと思うがの」
そのまま百道烈士の元を離れ、人間共が12丁目結界と呼んでいるセーフティエリアに向かう。
妾たち妖魔は入ること叶わぬが、人間は自由に出入りするからのう。
──ガサガサ
ん?
結界から抜けてきたものたちがおるのか。
どれ、警告でもしてやろうぞ、妖魔に襲われたら殺されるとな。
「……ターゲット確認。機械化兵士のパーツと思われます」
「回収だ。ネジ一つ残すな、いいか、川端政務官が煩いからな」
「了解。しかし、妖魔たちは俺たちのことに気がついていないようだな。案外、俺たちを見て怯えていたりして」
「怯えるも何も、アリンコに恐怖などせぬが?」
すぐ近くで実体化して見せると、、人間共はいきなり武器を構えた。
「ターゲット2確認、排除します」
──brooooooom
おうおう、それはあれじゃな?
テレビで見たぞよ、5.56mm機関銃とかいうやつじゃな? くすぐったいのう。
「た、隊長、銃が効きません」
「何だと、教会で聖別された弾丸だぞ、妖魔にも効くって言っていたのにあのメーカーは、実践テストもしていないのか‼︎」
「これが聖別されたじゃと?」
クンクン。
何処に神の加護が宿っておるのじゃ?
「こんなもので騙されるとは、人間もまだまだじゃなぁ。其方らや、今すぐにここで拾ったものを置いて逃げるか、ここで死ぬか選ぶが良いぞ」
「ふ、巫山戯るな‼︎ 我々の任務は、ここにある機械化兵士のパーツを回収することだ。それを為せなくて、何が特戦自衛隊だ‼︎」
ほう? つまりはあれか?
これがあれば、乙葉と交渉できるかもしれぬのか?
「よかろう。人間共や、これは妾のものじゃ。置いて立ち去らぬのなら、実力行使に出るが良いのじゃな?」
──ギン‼︎
久しぶりに魔眼を使うとするか。
ほれ、そこのものたちは一瞬で金縛りにおうたぞ?
隊長とやら、そこで立ち尽くしたままズボンを濡らすでない。
はよう撤退せい。
──うわぉぁぁぁぁぁぁぁ
恐怖のあまり全員逃げおったか。
よしよし、これは妾のものじゃ。
ネジ一つ残さず集めるのじゃ。
ネジってなんじゃ?
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。
・今回のわかりやすいネタ
大戦隊ゴーグルV
キ○肉マン / ゆでたま○ 著




