第九十二話・呉越同舟、朱に交われば赤くなる(弟子などいらぬ‼︎)
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はてさて。
俺たちが魔法の箒の免許証を習得したことがニュースに流れた。
それ自体は良い。
問題はそのあと……。
警察各庁や公安委員会には、魔法の箒の免許習得についての問い合わせや、箒の販売についての質問が後をたたない状態になっているらしい。
これは当然なのだが、魔法の箒を操るために必要な魔力が足りなければ、箒はうんともすんとも言わない。
現状で、俺たち以外では箒に乗って空を飛ぶなんてことはできないわけで、質問の返答は終始そこに帰結していたわけで。
正直、すまんかった。
「近所の子供達から、箒に乗って空を飛びたいという問い合わせがあったんだが」
「無理だな、魔力が足りない……って子供に話して理解してもらえるわけないよなぁ」
今日は俺の家で作戦会議。
免許習得のために尽力してくれた忍冬師範に、お礼ということで魔導具を譲ってあげる事にした。
それは良いのだけれど、いざ何を送るかで頭を悩ませている。
「子供の夢を壊したくはないですけど、将来の夢が魔法使いになったら、それはそれは嬉しいですけど親としては困り果ててしまいますよね」
「いっそ、乙葉君が魔法学校を設立するというのはどうですか?」
「ほうほう、それも悪くはないが無理だよ、俺は人に物を教えるのが苦手なんだよ? だったらノウハウを知っているみんなの方が教師に向いているとは思わぬか?」
俺のは完全に自己流。
祐太郎たちのも俺が教えたやつだけど、俺のように突然使えるようになったチート魔術師じゃなく、本当の意味でしっかりと勉強して身につけた魔術師だからね。
「さてと、忍冬師範に渡すお礼をどうするか。俺は何か作るとして、皆んなで何か作るのもありだよなぁ」
「錬金術が使えるのはオトヤンだけだから、俺たちは、ケーキとか菓子を作るってのはどうだ? 師範は超甘党だから」
「それなら私も手伝えます。ケーキ、良いですね」
「それじゃあレシピを探しますわ」
──ブゥン
ケーキのレシピを探すのに、深淵の書庫を開くのはどうなんですか先輩。
そう突っ込みたいところだけど、真面目な顔で話し合いをしている三人にはそう言うツッコミなんてできない。
なので、俺は俺にできることをやるだけ。
……
…
「カナン魔導商会GO‼︎ サイドチェスト工房からハードレザーアーマーとミスリルソード、ミスリルインゴット、アダマンタイトインゴットを購入! さらに魔導商会からは魔晶石と秘薬各種、ついでに竜の牙と……」
様々な錬金術媒体を購入して、ここからが本番。
錬成魔法陣にハードレザーアーマーと各種素材を放り込む。
「錬成開始。対妖魔結界……あ、この材料では無理なのか。体表面に薄く張り巡らせる対魔法防御、身体能力向上、対精神抵抗の三つを付与っ‼︎ 足りない魔力は周囲から回収‼︎」
──シュゥゥゥゥ
魔法陣が輝き始める。
これで自動発動型・ハードレザーアーマーの完成。
ここに『サイズ変更』の術式を組み込んで完成したのがこれ。
「ヨシ‼︎ 名付けて『強化型レザーアーマー』。これで妖魔の攻撃にも多少対応が効く。次は……」
ミスリルソードの改良だね。
アダマンタイトを細く加工し、それをソードの握り部分と頭身の中に『融合化』する。
さらに刀身には『闘気強化の術式』を組み込むことで、できたのが闘気強化型・魔法剣。
師範が闘気解放すると、刀身ではなく刃部分にのみ凝縮した闘気が纏わられる仕様である。
俺が淡々と作業しているのと同じく、祐太郎達もキッチンに移動して何か作っています。
あちらはそのまま任せておいて、今のうちにこっちの作業を全て終わらせる。
「そう言えば、カナン魔導商会から依頼があったよな」
そう。
新しく追加された発注システム。
このページには、カナン魔導商会から納品して欲しいリストが表示されており、いつもの査定よりも割高で買い取って貰えるらしい。
『ピッ……納品希望リスト』
・上質紙
・缶詰・鯨の大和煮
・アルミニウム
・女性用衣服
・女性用肌着、女性用下着
・飴
・自転車
「ふむふむ。それじゃあ裏技をば……」
カナン魔導商会のメニューから、『ウォルトコ』のメニューを開く。
『ピッ…… Welcome to Waltco‼︎』
よし来たガッテン。
このままウォルトコのメニューで上質紙や缶詰、女性用衣類や下着などを次々とバスケットに放り込む。
金額にして約20万円をすぐさま精算、購入したものは真っ直ぐに俺の空間収納に届けられるので、今度はそれを納品画面に切り替えてポチッとな。
『ピッ……納品完了しました。査定合計額の485万クルーラーを自動的にチャージしますか?』
イエスイエスイエス。
やがてチーンという音と同時に、残高が増えましたよ。
このシステムがあれば、俺は懐具合を気にすることなく無限にチャージできるんじゃね?
と思ったんだけど、発注システムに追加の納品リクエストがない。
つまりは、そういう事なのね。
「まあ、世の中そんなに甘くはないということか。それでも、これで色々とやることの幅が増えたからいいか」
ついでに購入したウォルトコのプライベートブランド、『ガークランド』のビーフジャーキーをモグモグと齧りつつ、みんなの作業が終わるのをのんびりと待つことにした。
そして夕方には、皆んなで第六課のある北海道庁簡易庁舎に向かい、堂々と忍冬師範に手渡してきたよ。
最初は呆然としていたけど、改めてお礼を言われてので少し恥ずかしかったのは言うまでもないよね。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
「さてと、そんじゃ魔法の研究を始めますか」
翌日には皆さん用事があるらしいので、俺は自宅で魔法の勉強。
魔力、妖力、闘気、三つの耐性をどうやって身につけるか、これが問題。
いつも通りにレジストリングでつける方法もあるし、昨日、祐太郎に頼んで闘気耐性リングは作り出した。
魔力耐性は自分で魔法を自爆して身につけたので、残りは妖力耐性のみ。
「でも、妖力ってなんだ?」
「妖力は別名『妖気』と言ってな。本来の魔族には備わっていない力だな。転移門を越えて人間世界にやってきた魔族が、こっちの世界の理を身につけて昇華した力が妖力だった筈だが?」
「へ? って親父、なんでそんなこと知っているんだよ、本当になんでも知っているんだな」
部屋の扉が開いたままだったらしく、親父がそこに立っていた。
「そりゃあ、伊達や酔狂で陰陽府に勤めていたわけじゃないからな」
「へぇ。それじゃあ、その妖力を放出する妖魔って知っている?」
「昔は結構いたんだがなぁ。今の世の中じゃ、妖力を放出する妖魔はほとんどいない筈だが?」
「マジか。それって妖怪とか言うタイプ?」
「そうだ。昔は結構いたんだけど、拝み屋とかフリーランスの妖術師とかに退治されちまったからなぁ」
成る程。
つまりあれですか、俺の使っているゴーグルによる妖気感知は、実際には魔族感知なのか?
ゴーグルをセットして確認したら、本当にそうだったよ。
俺の意思を汲み取って、内部で自動変換されたみたいだわ。
「これはまた、融通が効く良い魔導具だなぁ。と、親父、誰か妖怪に知り合いいないか?」
我ながらアホな質問だよ。
これには親父も腕を組んで渋い顔をしている。
「いるにはいるが、協力的かどうか……」
「誰でもいい、教えてくれ」
「上級妖魔・伯狼雹鬼と言ってな。昔、魔族関係の調査をしていたらかならず出てくる上位種なんだが、今は北海道にいない筈だからなぁ」
へぇ。
どっかで聞いたことがある名前だと思ったら、それってあれだろ、井川巡査部長の家族を殺害した奴だろ?
「まさかとは思うが、親父は戦ったことがあるのか?」
「一度だけな。今、生きているのが不思議なぐらいだよ。俺の知っている魔族関係では、伯狼雹鬼だけが唯一、魔力と妖力を自在に操れるからな」
「つまり、望みは絶たれたのか……ありがとう」
「望み……ねぇ。浩介、もう少し柔軟な思考を持った方がいいぞ」
へ?
それってどう言う意味?
思わせぶりなことを言って部屋から出ていくの?
ま、まあ、そう言うことなら柔軟に考えるよ。
………
……
…
「わ、か、らねぇぇぇぇぇ。柔軟に考えが及ばないわ。ちょっと息抜きするか」
困った時は遊びに行く。
祐太郎は……親戚の集まり。
新山さん……も家族で温泉。
瀬川先輩……は、会社の新年のイベントに出席。
あれ?
俺、久しぶりにボッチ?
それならそれで、のんびりと街に繰り出しますか。
魔法の箒に乗って、のんびりと飛んでいくんだけど、後ろからも前からも横からも、スマホで撮影するされるのはどうにも……ならないよなぁ。
時折、車の中から手を振ってくる子供がいるので手をふり返す。
うむ、サービス過剰と言わないように。
素顔で箒に乗っていると目立つので、ストリートマジシャン・甲乙兵の姿。
そのお陰なのか、どこから見ても魔法使いが箒に乗って空飛んでいるだけに見える。
これが日常化したらいいんだけどなぁ。
「ウホッ‼︎ 同人誌の山、最高じゃぁぁぁ」
札幌市の同人誌の聖地は、全て妖魔特区の外に引越ししたのだけと、そのどさくさに大型店舗にした店とかも結構ある。
特に、新札幌近郊が、第二中央区という感じに開発が進んでいた。
つまりはあれだ、妖魔特区を解放する気はさらさら無いらしい。
国会でも、札幌市妖魔特区を妖魔に解放して、登録された妖魔市民の住居として解放してはどうかという法案も提出されている。
人と妖魔の共存がまた一歩近づくので、早くこの法案を成立させてくださいませと思いつつ、新札幌のショッピングモールで『轟きステーキ』の500gランチセットに舌鼓を打っている。
「んだけど、なんであんたらが俺の目の前でステーキ食べているんだ?」
「OK。日本のステーキは最高デース‼︎」
「まあ、アンガス牛なんだがな。キャサリン、俺の人参やるから肉を少し寄越せ」
「NO。好き嫌いせず食べナサーイ。マックスは、ウサギの目がなんで赤いか知っているのデスカ?」
「知るか」
はぁ?
ヘキサグラムの機械化兵士のお二人さんが、どうして俺と同席してステーキ食べてるの?
ついでに言うと、キャサリン、あんたアニオタだな? その質問が全てを物語っているぞ?
「人参を食べるからさ……だろ?」
「OK OK OK。コースケ最高ですデース」
「それがわかるあんたは何歳だよ? それよりも、なんで俺を尾行してきたんだ?」
「ん? ちょっとまて、その話の前に、ステーキを追加してくる」
「マックス、私の分も追加デース‼︎」
まだ食うのか。
さっき、俺と同じ量を注文していたよな?
仕方なく、俺は先に食べてコーヒータイム。
ココアがないのが残念であるが、フードコートにそこまで求める気はないので。
そして食べ終わって一息ついてから、ようやく本題に入ったんだけどさ。
「Mr.乙葉、俺を弟子にして欲しい」
「私もお願いしマース」
「はぁ。綺麗なテーブル土下座だけど、普通は床でやらないか? それよりも迷惑だから降りろ」
「日本人のものを頼むスタイルでは?」
「違うから‼︎」
思わず叫んだよ。
それに気づいて、周りの人が変なものを見る目でこっち向いてるよ、ああ恥ずかしいわ。
それに気づいてくれたのか、二人はテーブルから降りて椅子に座り直してくれたよ。
「弟子にしてくれマスカ?」
「弟子は取っていないんだよ、なんでヘキサグラムの二人が俺に弟子入りしたいわけ?」
「実は、それには理由があってだな……」
そこから先は、まあ、聞くも涙、語るも涙。
このキャサリンとマックス、実年齢は100歳を越えているらしい。
過去に不治の病や事故により体が欠損してしまったため、ヘキサグラムの前衛組織である機関で実験体を募集していたときに応募して、妖魔細胞と機械化によって今まで生きていたらしい。
「あの、脳細胞って劣化したら再生しないよね?」
「Mr.築地とMr.乙葉の魔術治療により、細胞ガ活性化シマシタ‼︎」
「おかげさまで、体は健康だし脳年齢も20歳ぐらいまで戻ったんだ。それは良いんだが、ヘキサグラムでは俺たちは機械化兵士としての存在意義はあったが、今の俺たちではただの無駄飯食いになっちまったんだ」
ふむふむ。
「それで、どうして俺に弟子入り?」
「ヘキサグラムに魔術兵団を組織化してもらう。そうすれば、俺たちはヘキサグラムの居場所を得ることができる」
「その為にも、魔術を教エテ下さ〜イ‼︎」
「……田舎も無いし、知り合いもとっくに死んじゃっているのかよ。そりゃあ、キツイなぁ」
まあ、できるかどうかは別として、取り出しましたる魔力感知球。
使い方を説明して、二人の魔力を測定する。
──キィィィィィン
「ワオ、青く光りマシタ?」
「俺も青いぞ、これはどうなんだ?」
「……馬鹿な、魔力値が100を越えているだと?」
キャサリンが116、マックスが101。
まさかのオーバー100には、俺は驚くしか無い。
しかし、なんでこんなに高いんだ?
「二人って、ヘキサグラムでは魔力幾らぐらいだったの?」
「以前は、魔術適性がなかったんだが、ここ数日でいきなり高くなった」
「乙葉基準で、確か100越えた筈デース」
「はぁ? なんでいきなり?」
そう考えたんだけど、おそらくはこうじゃ無いかって言う理由の想像がついた。
俺と祐太郎は、二人の治療に闘気と魔法を使ったんだよね。
それも直接、脳に向かって使ったことにより、経絡が活性化したんじょないかなぁ。
「答えはわからん。けど、折角だから、このタイミングを逃したくは無い」
「溺れるものは笑笑掴む言いマース」
「笑笑じゃないから。笑いながら掴んだらダメだから……とは言え、今の二人でも、魔法は使えないよ?」
「「 WHY? 」」
淡々と説明しよう。
魔力は十分だけど魔導書契約は不可能。
つまり、別の魔法発動媒体が必要になる。
それがヘキサグラムにあるのかどうか調べろって説明したし、魔導書がない状態での魔法の習得なんて俺は知らない。
まあ、術式を教えればなんとかなるのかもしれないから。
「そんじゃ、簡単なやつな。『我体内に流れる魔導の理よ、右手に集まり光となせ』」
──ブゥン
ゆっくりと詠唱しつつ、空中に指先で術式を描き込む。
すると、俺の右手に魔力が集まり、光球が発動した。
「お、おおお」
「ファンタスティックでース。ゴールデンアップルです」
「そのネタは知らん。アメリゴジョークは理解できない。でも、今ので魔法は成立しているから、練習してみるといいさ。これは術式起動なので秘薬を必要としないから」
そう説明したら、握手されたよ。
そりゃどうも。
そしてふと気がつくと、俺たちの周囲には大勢のひとだかり。
自分たちの席に戻り始めたら、今の光球の魔法の練習を始めたよ。
魔力足りないから、無理じゃないかなぁ。
そして目の前の二人も練習を始めたんだけど、こっちの方が素質はあるように見える。
「まあ、あとは頑張って。ヘキサグラムにも魔導書みたいのはあるんでしょ? そこも調べてみるといいよ。じゃあね」
軽く挨拶をしてその場から離れる。
マックスとキャサリンは立ち上がって頭を下げているから、俺もヒラヒラと手を振ってその場を後にしたよ。
のんびりと休みたかったのに、あまり休めていないような気がするなぁ。
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。
・今回のわかりづらいネタ
○戦士ダンバイン




