第八十七話・一暴十寒、三日見ぬ間の桜かな?(白桃姫とガチ勝負?)
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目が覚めたら、朝。
いや、当たり前だけどね。
昨晩は遅くまでクリスマスパーティ、新山さん達は祐太郎の家のゲストルームに泊まって朝一番で帰ったらしい。
先輩はそれよりも早く帰ったので、今頃は快適な目覚めを堪能していることでしょう。
そして俺はと言うと。
「ち、こ、く、だぁぁぁぁ。何故起こしてくれない!どうして家の中が静かなんだ‼︎」
リビングにあった手紙曰く、親父達は朝一で第六課に向かったらしい。
なんでも妖魔特区の調査についての協力が何たらかんたらで、一度話を聞いてほしいと言うことで向かったんだってさ。
ついでにあの機械化兵士達の様子も見に行くんだって。朝から忙しいね。
取り敢えずはトースト咥えて着替えてから、急ぎ祐太郎の家の中庭へゴー。
既に祐太郎は飛んでいったらしいので、俺も急ぎで飛んでいく。
まあ、これで遅刻はないから安心だ。
早く魔法の箒の飛行許可申請を出したほうがいいよなぁ。これを逆手に取って、交渉材料にするのもいいな。
……
…
「セーフ‼︎」
「ギリギリだな。寝坊か? 俺が迎えに行ったのも気づいていないだろ?」
「気づかなかったわぁ。まあ、昨日は楽しかったわ」
お陰様で、羽が伸ばせましたよ。
クラスの女子の冷たい視線が痛いけどね。
「築地君、明日の土曜日って何か用事ある? クラスの子でカラオケ行くのだけど、一緒に行かない?」
「明日は空いているから構わないよ」
「そ、それじゃあ皆に声掛けておくね‼︎」
はい、相変わらず祐太郎はモテますなぁ。
実に羨ましいですなぁ。
そして、この女子の誘いなんだけどさ、休み時間ごとに、次々と別の女子から声を掛けられていたよ。
しかも、全て最後は同じで、『それじゃあ、皆に声掛けておくね』って。
これはあれだろ、『誘ったんだけど、皆用事があるんだって』って言って、自分だけ抜け駆けするパターンだろ?
女子の恨みは恐ろしいから、俺は何も言わないよ。
祐太郎だって、それを理解しているんだろうから、何か手を打つんだろうけどさ。
……
…
そんなこんなで土曜日。
皆さん色々と予定があるようですが、それは俺にも当てはまりました。
って言うか、そろそろ本気で妖魔特区の対策を考えないとならないかなぁと。
最初は北海道庁本庁舎と札幌市役所にしか設置していなかった対妖魔結界だったけど、大通り12丁目を囲むように追加したけれど、それだけじゃまだ安心できない。
しかも、札幌妖魔特区の場所にも問題がある。
大通り一丁目を起点に、直径3kmの結界と言うことはですね。
札幌の主要交通機関である『地下鉄』が完全に分断されているのですよ。
南北線、東西線、東豊線
この三つの交差するのが『大通り』。
南北線と東豊線が交差するのが『札幌駅』。
結果、すべての地下鉄が大通りと札幌駅を経由できず、幾つか手前の駅で折り返し運行を行なっているのと、各駅からはバスによる臨時便も出ている。
まあ、妖魔特区内の企業はほぼ休業状態、地方にある支店や営業所に仕事の割り振りを行ったりしているらしい。
テレビでは毎日、妖魔特区内対象企業に対しての補償についての答弁が行なわれていたり、通勤や通学に対しての交通機関の対応について話し合いが行われているようですが。
まあ、『現代の魔術師』が結界を破壊したらいいっていう無責任な言葉がboyaitterに上がったりしていますが、それを言われるとねぇ。
あれ、俺でも壊せないんだよ。
……
…
「という事で、今日は『俺の体から魔力が外に発散しないための魔導具』を作ります。これがあれば結界内に入ることもできるので、そこで妖魔を殲滅したいと思います」
早朝の祐太郎宅。
ゲストルームを借りて、今日は錬金術に全力投球。
祐太郎は午後から出かけるらしいので、この作業は午前中だけ。
「俺ができることは?」
「試作品を作ったら、魔力感知で確認してほしいいのだが。どや?」
「その程度なら構わないさ」
用意するのはミスリル、ドラゴンの皮膜、大きめの魔晶石、各種秘薬、そしてルビーの原石。
これらを材料として、『魔力封じの護符』を作り出す。
すぐさま材料を魔法陣に投入して融合開始。
その傍らで俺は、魔晶石に術式を刻み込む。
細い針に魔力を込めて刻印する方法と、直接魔力により術式を焼き込む方法の二種類があるが、俺は後者のタイプ。
大体30分ほどで刻印が終わると、あとは縮小化してから『魔導化』でフィニッシュ。
「よし、これが試作型魔力遮断器。名付けて『マジックカッター』」
「何か、別のものを想像するのだが?」
「まあ、見てろよ、マジックカッター起動‼︎」
──ヴン
単行本サイズのマジックカッターに魔力を注ぐと、すぐに効果は発揮された。
まあ、こればかりは俺にも分からないので、祐太郎の出番です。
「よし、サーチ開始、魔力波を対象として……お? オトヤンからは何も反応がないぞ?」
「マジが。では、この状態で光球っ」
初期の生活魔法光球を発動する。
うん、特に問題なく発動するし、抵抗も何も感じなかったよ。
「お、発動時の魔力波をキャッチしたけど、そのあとは相変わらず遮断されたままだな」
「オーケィ。これで戦える」
「やっぱりあれか? 妖魔特区に入るのか?」
「まあね。少なくとも魔人核を破壊すれば、再生できなくなるからな。最低でも百道烈士と白桃姫だけは仕留めておかないと」
仕留める?
何だか、昔の俺と違うよなぁ。
人の形をしたものを『仕留める』って、弱肉強食の異世界ファンタジーならまだわかるけどさ、現代に生きていてこの発想が出来始めているのは、魔法が使えるようになったからなのかなぁ。
「力が必要なら、俺も今日の予定をキャンセルするぞ?」
「いや、そんなに本格的に戦闘する気はないからね。あくまでも偵察だよ。そんじゃ第六課に顔出してから行ってくるわ」
ひらひらと手を振りつつ築地宅を後にする。
そして大通りに向かって移動しがてら、スマホで要先生に連絡だけは取っておこう。
………
……
…
大通り13丁目・妖魔特区入り口ゲート。
プレハブの建物があちこちに作られ、入り口周辺は厳戒態勢のような状態になっている。
世界最大の対妖魔機関『ヘキサグラム』の切り札が一方的にやられたのはまだ記憶に新しいらしく、万が一にも入り口ゲートを突破されたりしたら、今の特戦自衛隊と第六課では対応できない。
それでも、万が一の時のために準備はしているのだろう。
「乙葉君、随分と早かったわね? まだ連絡を貰ってから10分も経っていないわよ?」
「魔法の箒で飛んできたからね」
「便利よねぇ。国会の妖魔対策委員会では、あなたの持っている魔道具を早く回収したくてうずうずしているみたいよ? その魔法の箒もね」
「回収したところで、同じものが作れるはずないんだけどね。それで、中に入る許可は出ていますか?」
そう問いかけると、要先生が首掛けタイプの許可証を手渡してくれた。
これでよし、中に入るには問題がない。
「お、乙葉君じゃないか! そうか、我々の要請に応えてくれるのだな?」
「応えません。俺は俺なりにやることがあるので来ただけですので」
「機械化兵士の残骸だけでも、解析に出せばかなりの情報が得られるのだよ? 日本に貢献する気はないのかな?」
「ないっす。それじゃあ」
あ〜、面倒くさいわ。
後ろで何か叫んでいるようだけど無視。
まずは入り口ゲートを通って、妖魔特区内部のセーフティエリアに向かう。
このセーフティエリア『大通り12丁目』は、さっき説明した通り、俺の作った対妖魔結界装置で守られているので、まだ安全。
ここにも特戦自衛隊が待機しており、さらに向こう、対妖魔結界の外では飢えた妖魔がウロウロしている。
「君、ここは危険だぞ?」
「はい。それは分かっていますのでお構いなく」
セーフティエリア内から妖魔に攻撃できたら良いのだけれど、特戦自衛隊の装備は格闘専用。
発掘した退魔法具がメインであり、万が一にも武器を掴まれて結界外に引き出されたらアウトである。
それが分かっているから、特戦自衛隊と妖魔は結界を挟んで睨み合っている状況。
「そんじゃあ、行きますか。現代の魔術師・甲乙兵行きまぁぁぁあす‼︎」
一瞬でローブ型魔導強化外骨格を身に纏うと、フォトンセイバーを引き抜いて妖魔に向かう。
「魔導体術・剣の型っ‼︎」
マスター・羅睺の元で修行した魔導体術を発動。
体内の魔力回路に魔力を循環して細胞を活性化、身体能力を向上させると、目の前に襲いかかってくる妖魔を次々と分断する。
──ズビズバドシャァァァァアッ
予め魔人核の位置を確認して、そこを目掛けて斬りつけていく。
俺の後ろでは、魔人核が破壊されて霧散化していく妖魔の姿があちこちに見え隠れしている。
どうせカメラが回っているのは知っている。
まあ、今更感満載なのは気にせず、俺は俺の目的を果たすだけ。
「さーて、百道烈士が来るか、白桃姫が来るか?」
『妾じゃあ‼︎』
突然、頭上から声が聞こえてきたかと思ったら、高角度で飛び蹴りが、まさに飛んできた‼︎
──ドゴグウォッ
ガードが間に合わない。
そのまま後方に吹っ飛ばされたが、打撃耐性があるので無傷、ノーダメージ‼︎
「じゃねぇ、痛ってぇぇぇ」
体の骨が軋み、あちこち擦りむいた。
うっすらと血も滲んできたのだが、なんで今の攻撃を無力化できなかった?
「どうじゃ? 妾の全力の魔力の籠った蹴りは」
「普通の人間なら、今の一撃で肉片になっているわ。そもそも、お前との待ち合わせ場所は別の場所だろうが‼︎」
文句を言いつつ身体を起こすが、白桃姫はそれ以上は俺に手を出してこない。
目の前でニヤニヤと笑ってはいるが、これといって殺気を放ったり威圧するような雰囲気は感じない。
「そんなもの知らんわ。貴様の魔力波長を感じたから見にきたのじゃよ」
「え? それって百道烈士にもバレたって言うことか?」
いきなり最終回。
じゃないわ、それなら死亡フラグだわ。
少し様子を見にきた程度なのに、いきなりファイナルファイトに突入か?
「それはないのう。あ奴の魔力感知範囲はそんなに広くない。そのための部下をあちこちに配置していたのじゃが、大抵は貴様たちにやられてまだ回復しておらぬからなぁ」
カラカラと笑う白桃姫。
くっそ、こうしてみると白桃姫もそこそこの美人なんだよなぁ。
脳内が残念思考なのと、『怠惰の氏族』とかの特殊能力がなければ、友達になれたかも知れないからなぁ。
「そっか。それで白桃姫、俺に何か用事があったんじゃないか?」
「お、それじゃ。どうだ貴様、転移門に魔力を注いで開いてくれぬか?」
ええっと。
俺とお前は敵同士だよな?
なんで、俺がお前たちに協力して転移門を開かないとならないんだ?
「こ、と、わ、る。転移門を開いたら、大氾濫が発生するんだろう?」
「大侵攻じゃが?」
「立ち位置の違いだ。どの道、あれが開いたら妖魔がこっちにくるんだろうが?」
「妖魔ではなく魔族じゃが?」
「だから、立ち位置の違いだって……ああもう、なんでこう話が噛み合わないんだよ」
すっかりペースが乱された。
くっそ、これが怠惰の氏族の能力なのかよ。
「お主が転移門を開けばな、妾たちは余計な殺戮を繰り返す必要はないのじゃが?」
「どういう意味だよ。あれか? 転移門を開くには生贄が必要だってことか?」
そう問いかけると、白桃姫は笑顔でコクコクと頷いている。
でも、妖魔特区を包み込んでいる、完全無欠の対物理障壁があるのなら、生贄を捕まえたりできないよなぁ。
つまり、このまま妖魔特区を維持していれば、転移門は開かないのか?
「過去の大侵攻とは違い、幸いな事に、この度は前回の大侵攻と同じくこの地に転移門が発生したのじゃよ? 向こうで水晶門に魔力を注がなくとも、その気になればこちらから開けるのじゃぞ?」
「だから開けねーよ‼︎ なんで転移門が開くことが前提なんだよ?」
「お約束じゃからな。扉があれば開きたくなるじゃろ?」
その理屈はおかしい。
それなら扉がなくなれば、もう大氾濫が起きることもないよな?
やっぱり、早めに封印の退魔法具を集めた方がいいか。
「思わねーし。そんじゃ帰るわ、これ以上、お前の話に付き合う必要もないだろう?」
「帰るなら、生気を少し分けるが良いぞ?」
「ねだるな。そもそもお前にやる意味がわからん」
「綾女には何度もあげたのであろう? それなら妾にもくれてたもれ」
「綾女ねーさんにあげるのは、色々と話を聞かせてもらったからだろうが」
「それなら、何か聞きたいことはあるか? それと引き換えに生気をたもれ」
うわぁ、ついにねだり始めたよ。
そしてさっきから、俺の鑑定眼がアラートを通知しているよ。
今の白桃姫は戦闘モードではなく、怠惰モードに移行しているらしい。
結果、今の白桃姫には『絶対無敵』のバフが付いている。
話には聞いていたけど、ここまで無敵な怠惰の氏族とか、どうよと思うわ。
「お前、確か妖魔王の十二魔将とかだよな? この北海道に十二魔将は何人いる?」
「妾と百道烈士だけじゃな。本州とやらにはあと1人おるぞ? 愛欲のラクリラがおるはずじゃ」
「日本に三人か。あとは外国か?」
「そうじゃなぁ。そもそも、あとの九人の封印が外れたかなんて妾も知らぬわ。これで良いか?」
まあ、そんじゃしゃーねーか。
手の中に光球を作り出して白桃姫に向かって投げる。
それを受け取ってからひょいと摘み上げて、白桃姫は嬉しそうに口の中に放り込む。
──ゴクッ
実体化している白桃姫が、今のたった一口分の魔力を身体の中に取り込んだ瞬間。
全身に歓喜による震えが走る。
体が脱力し、その場に腰砕けになってしゃがみ込んでしまった。
「ふぁ、ふぁぁぉぁぁぁ。もっとたもれ‼︎」
「やらんわ‼︎」
「後生じゃ、このままでは妾はもう、普通の人間の生気では満足できぬ。物足りぬのじゃ、他ではダメなのじゃ。まるで生まれて初めてアイスクリームを食べた子供のような気持ちじゃ、幸せが振り返るのじゃ、ハッピーがターンするのじゃ」
「うわぉ。そこまでかよ……」
まてよ?
それなら、白桃姫を手懐けることはできないか?
そう考えていたら、大通り11丁目に立ち煙が立ち上がった‼︎
「遅かったなぁ、甲乙兵ぃぃぃぃ、勝負だぁぁぁぁ」
あ、百道烈士に見つかったのか。
こりゃ不味い、いくら俺でも2人同時になんて無理。
しかも、俺の対物理抵抗が破られている以上、何らかの対策は必要だよなぁ。
「こ、と、わ、る‼︎ それじゃあな」
一走りで対妖魔結界の中に飛び込む。
同じタイミングで百道烈士が結界を力一杯殴りつけているが、その程度では俺の結界はびくともしないぜ。
後で何か叫んでいる百道烈士と白桃姫を無視して、俺は妖魔特区を後にする。
あ、後ろで待機していた特戦自衛隊の方々が、今のやり取りで呆然としているがそっとしておこうそうしよう。
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は恐らく変わりませんので。




