第八十四話・冬夏青青、とんでもない藁をも掴む(四人目の覚醒は、超ダークな神様?)
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二人の兵士機械化兵士の治療。
いくら俺が魔法が使えるからといって、死にかかっている人を治療するのは難しい。
ましてや、相手は魔導具の回復薬も効かないし魔力循環による細胞活性化も使えない。
もうね、どうしたらいいか。
隣では祐太郎が脳に向かって直接闘気を流し込み循環して、意識を保つように促しているし、治療スタッフは壊れた体内プラントを無理やり外して直接投薬できるようにしている最中。
そして鑑定眼で見えた結果。
もって、あと10分。
「ぬぁぁぁぁぁ。錬金術発動、『変形』で歪んだフレームの修復……」
体内プラントを外すにも、肋骨部分が折れて曲がり食い込んでいる。
それならばと、『変形』で肋骨部分を開いてプラントを剥き出しにした。
「あと10分持ちません‼︎ 急いでプラントの交換を‼︎」
『分かった‼︎』
すぐさま作業を開始する治療班だが、どう考えても時間が足りない。
隣の祐太郎も懸命に頭部に闘気を流し込み、細胞の活性化を続けているのだが、もう限界だろう。
ここで諦める?
ま、さ、か‼︎
普段なら自重するところだけど、人命が掛かっているんだよ?
もう全力で行かせてもらうに決まっているだろう。
その時。
──バッ‼︎
「遅れました、あとは私に任せてください‼︎」
俺が第四聖典で治癒魔法を作り出そうとした時、新山さんが飛び込んできた。
「えええ? なに? 何がどうしたの?」
「神聖魔法行きます‼︎ 対象者の体内から金属プラントを『除去』。並行で強治療を発動‼︎ かける2っっ」
──シュゥゥゥゥ
左手に輝く魔導書を構えた新山さんが、神聖魔法を発動する。
すると、俺と祐太郎の前にいた機械化兵士から機械部分が次々と除去され、同時に細胞が活性化したのか再生治療を始めた。
車内のバイタルモニターを見ると、先程までは死の直前であった二人のバイタルが正常化へと戻り始めている。
「おおお、マジの神聖魔法凄いわ」
「そ、そうだな……」
ふと気がつくと、治療班が跪き、涙を流しながら新山さんに祈りを捧げている。
『Jesus……』
まあ、そうなるよなぁ。
どう見ても神の御技だよなぁ。
そして一時間後には、二人の機械化兵士の体は『元の姿』に戻った。
バイタルも正常、うん、機械化したパーツどころか妖魔細胞すら引き剥がしているよね。
骨格まで全て作り替えているのって、とんでもない魔法じゃないか?
──フラッ
そして意識を失って倒れそうになった新山さんを、俺はがっちりとキャッチ。
一度に大量の魔力を消費したら起こる『魔力酔い』だね。俺もよくやるやつ。
「オトヤン、新山さんは大丈夫か?」
「ただの魔力酔いだから、少し休ませておけばいいと思うよ。という事で、後はお任せしますので」
そう告げて、俺たちはキャリアーから外に出る。
少し離れたところでは、例の防衛省のお役人が座って待っていた。
「ヘキサグラムの兵士たちはどうなった? やはり間に合わなかったか?」
「無事に治療は終わりました。そんじゃ、帰りますので」
「ちょっと待ってほしい。結界内にある『機械化兵士』のパーツの残骸が残っているだろう? それの回収を頼む」
「「 こ、と、わ、る 」」
俺と祐太郎、同時に叫ぶ。
あとはこのまま透明化して、この場から離れる事にした。
これだから、目先のことしかか考えていない役人なんて嫌いなんだよ。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
意識を失っていたようです。
目が覚めたら、自分の部屋でした。
ベッドサイドにはお母さんの置き手紙、どうやら乙葉君と築地君が送ってくれたようです。
「そっか。私、助けられたんだ」
嬉しさのあまり、グッと拳を握ってしまいます。
これで、私も乙葉君や築地君、瀬川先輩の力になることができます。
「はぁ、ひどい汗。シャワー浴びないとだめですね」
兎に角、寝汗が酷い。
多分ですが、乙葉君がよく魔力の使いすぎで起こす『魔力酔い』でしょう。
取り敢えずは汗を流して……あら?
私の右のお腹、こんなところに痣なんてあったかな?
何処かにぶつけたのかしら?
「ん〜。まあ、痣程度の治療に魔法はもったいですよね」
温めて血行が良くなったら、多分消えるでしょう。
私が神聖魔法を使えるようになったのも、あの時声を掛けてくれた魔導神アーカムのお陰ですね。
ありがとう、アーカム。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
翌日、早朝。
新聞やニュースは大忙しの開店セールのような状況かと思いきや、予想外に静かであった。
国際妖魔評議会に同行していた『機械化兵士』の映像が流れるかと思ったら、どうやら映像は流れてこない。
ついでに言うなら、どの民放でも流れているニュースは『昨日、国際妖魔評議会の視察団が現地を調査、途中でアクシデントはあったものの、査察初日はまずまずの成果があった』という事だけ。
あの機械化兵士の話も、妖魔とのバトルにも一切触れていない。
……
…
「うわぁ。見事な情報コントロール、見事な隠蔽。これはツッコミどころ満載だなぁ」
「浩介、逆にお前たちも助けられたんだぞ? 昨日の出来事を普通にニュースに取り上げられてみろ、新山さんの魔術も知られてしまうんだぞ?」
「あ、そっか。俺たちを守る為に、情報コントロールしているのか」
親父の意見にも一理あります。
「それでも、マックスとキャサリンの二人を元の人間の姿に戻せたのは大、たいしたものよねぇ」
「……今思ったんだけど、なんで親父もお袋もその事を知っているの?」
俺は、昨日の出来事は誰にも話していないはずなんだけど?
「昨日の夜、ヘキサグラムの統括から連絡が来たのよ。今日の午後には二人の体を見てほしいって」
「仕事として引き受けたので、問題はない。特戦自衛隊の護衛もつくからな」
あー、そうですか。
もうね、堂々と自分たちがヘキサグラム所属だったってバラしているよ。
もう、今更だから構わないけどね。
それじゃあ、とっとと学校に行きますか。
……
…
はい、放課後ですよ。
え? 授業何それ? 普通に受けていたよ。
まさか授業中に妖魔の襲撃が起こったり、いけすかない役員が呼び出したりなんてしなかったよ。
という事で部活です。
昨日の件で要先生は朝から居ない。
しかし、俺たちの監視で学校に居るはずの要先生まで呼び出すとは、余程、手が足りないのですねぇ。
「オトヤン、昨日の治癒の件なんだが」
「ほい、何が知りたい?」
真面目な顔の祐太郎。
うん、こう言う時は真面目に話を聞こう。
「昨日、俺は、あの機械化兵士の生命維持のために、闘気で脳細胞の活性化を行なったんだが。あれじゃあ拙かったのか?」
「合っていると思うよ。俺も生命維持に必要な部位に魔力を直接送り込んで、細胞活性化を促しただけだから。本当なら、対象者の魔力回路を伝って魔力を流し込み、本人の魔力による活性化を促すのが正解なんだけどさ」
「機械化してて、経絡に当たる部分がミスリルに置き換えられていたからなぁ。道理で、オトヤンの方法も試したんだけど上手くいかなかったわけか」
治癒魔術を持たない俺と祐太郎にできるのは、魔力や闘気を注いで『細胞活性化』を促し、新陳代謝を高める事。
これによって擦り傷程度ならすぐに塞ぐことができるのだけど、大きな損傷になると活性化が追いつかない。
特に、昨日のような『機械化した部位』は治せるわけもないし、生命維持に必要な部位に集中しないと死んでしまう。
「そう言う事。俺だって、魔力回路循環式が使えなかったから直接傷口に魔力をぶち込んだんだよ? それでもありゃ無理だったわ」
「そう考えると、神聖魔法って凄いよなぁ」
「ああ。死者蘇生までは無理だろうけど、世のため人のためって考えたら新山さんの覚醒はびっくりだわ」
チラリと新山さんの方を見る。
ちょうど先輩と昨日の話をしているようで、少し興奮気味である。
それでも、今まで以上に嬉しそうな顔で笑っているから、取り敢えずヨシ。
「問題は……昨日の新山さんの魔法を見たヘキサグラムが、どう動くかだよなぁ」
「捕獲……とまでは来ないと思うけど、少し気をつけたほうがいいんじゃないか?」
「何かあったらルーンブレスレットもあるし、連絡は来るだろうさ」
「そうだな。周りを気にしてばかりだと、思うように動けなくなるからなぁ」
祐太郎の言う通り。
それよりも問題なのは、昨日の国際妖魔評議会の動きだよななぁ。
各国の代表団に同行していた護衛、あれってどいつもこいつも対妖魔組織所属だったよ?
治療後にチラッと見ただけなので確信はできないけれどさ。
そんな奴らが、あの場所に何しに来たかなんて簡単に想像できる。
生の妖魔の情報を得る為
これ以外ないでしょ?
アメリゴはヘキサグラムを送り込んで、実践でデータを取ろうとして失敗。虎の子の機械化兵士がああもあっさりと破れたのなら、ヘキサグラムの面子は跡形もないぐらい潰れたんだろうなぁ。
そして、あれだけの出来事が起こったにもかかわらず、ホスト国の日本が何もできなかったと言う事実。
これもまた、日本の面子丸潰れ。
オマエ、オレサマ、マルカジリって感じだよ。
「さてと。新山さんの方は、何かあったら相談されるだろうから、俺たちは俺たちなりに出来ることするとしますか」
「そうだなぁ」
祐太郎は部活が終わってから、円山の喫茶・九曜の裏でにある道場に機甲拳の修行にいくらしい。
それなら俺は?
できる事?
一つでしょう。
「何か、お勧め商品はないかなぁ」
カナン魔導商会を開いて、何か新しい商品がないか確認。在庫が空になったものが補充されていたら嬉しいんだけどね、そうそう美味い話はないんだよなぁ。
『ピッ……本日のお勧め商品。上級錬金術教本、下級錬金術師にお勧めの逸品です。ゴーレム程度で満足しているあ、な、た。禁断の世界『ホムンクルス錬成』を試してみませんか?
錬金術でも禁忌の世界に、足を踏み込んでどっぷりと使ってみませんか?』
危ないから、これ、ダメだから。
迂闊にやるとあれでしょ? 真理の扉が開いて、こう、黒い触手がウネウネとする奴でしょ?
魂の代価に何か持っていかれる奴でしょ?
ポチッとな。
こんな危険なもの、誰かが購入して悪用されたら不味いからね。
そのまま読書タイムに突入、たしかに錬金術で作れる魔導具のレシピや新型魔導核の作成手順、魔法薬の調合レシピや各種付与についての術式など、かなり高度な術式がガッツリと記されていましたよ。
そして、生命の秘技『人体錬成術』まで。
おい、ホムンクルスどこ行った?
あ、人体錬成術で素体を作って、新型魔導核で『擬似魂』を作るのね、なるほど納得。
やらないよ。
「あら? 乙葉君、新しい本ですわね。魔導書か何かですか?」
「上位錬金術のレシピですね。不老不死の妙薬、エリクサー、オリハルコンの精製方法もありますし、各種治療薬のレシピもありますよ」
ちなみにですが、不老不死の妙薬、材料がわかりません。アマハダラのヘレホッボをヌヌカムラに溶かしてとか、何が言いたいのかよく分からん。
「ますます強くなるようですわね」
「乙葉君、何か、面白いこと書いてありましたか?」
何か面白いものねぇ。
取り敢えず、折り紙で奴を折ってみる。
それを錬金魔法陣に放り込んでゴーレム化の術式を発動すると、ほら、
──ムクッ
ゆっくりと奴さんが動き始めましたよ。
「うわぁ。折り紙に命を吹き込んだのか?」
「近いかな。ゴーレム核を作らないで、折り紙の裏に術式を書き込む手法らしい。これがあれば、どんな乗り物も簡単にゴーレム化できるぞ」
そのまま奴さんが机の上でひょこひょこと動いている。
マスター権限の登録をしていないので、先輩と新山さんが色々と命令して遊んでいるのは、実に見ていて微笑ましい。
「それは便利だなぁ……因みに、その錬金術の本って、人体錬成も書いてあるとか?」
「ああ。新しい生命の創造、しっかりと書いてあるぞ。なんなら祐太郎、俺と一緒に新しい生命、作ってみるか?」
──ブハッ‼︎
あ、瀬川先輩が鼻血を噴き出して後ろに倒れていった。
ほんの冗談なのに。
「わ、私も乙葉君と、新しい命を作りたいです‼︎」
新山さん待ったぁぁぁ。
それは俺が鼻血吹き出す。
「新山さん、俺たちだから話は通じるが、他でそんなこと言ったら危険だからな?」
「え?」
祐太郎の静かなツッコミに、新山さんは一瞬フリーズ。
そして。
「いやぁぁぁ、違うの、違うのぁぁぁぁぁ」
真っ赤な顔で部室から飛び出して行きましたわ。
うん、可愛いなぁ。
「それで、本気でホムンクルスでも作るのか?」
「まさか。他人が購入して悪さされるよりはマシだろ。それに! 新しいレシピも手に入ったから万々歳だよ」
すぐさま、自分のスマホを取り出して錬金魔法陣の中央に配置する。
ミスリルのカケラと魔石を置いて、新しい術式に切り替わった『魔導化』を発動。
──プシュゥゥゥゥゥ
これで、俺のスマホは『魔導式スマートフォン』に進化した。
充電は不要、内蔵バッテリーと魔石が融合して、大気中の魔力を電力に変換するようになった。
しかも『強靭化』の加護も組み込んだので、象が踏んでも壊れない。
「……って言うわけ。ええっと、原価はミスリルのカケラと魔石。祐太郎、妖魔から魔石の回収頼めるか?」
「一狩り行く? みたいなノリだなぁ。まあ、見かけたら狩って来るわ。結構使うのか?」
そりゃもう。
この新しいレシピには必要なんだよ。
妖魔の魔石をいくつか魔法陣の真ん中に置いて、術式を発動する。
「超融合‼︎」
「お、ヒーローデッキか?」
「違うわ!」
術式の発動と同時に、細かい魔石が一つになり純度の高い魔晶石に変化した。
「へぇ。こりゃ便利だわ」
「これであれか、何か作るときに毎回不足していた魔晶石を補うことができるようになったのか」
「そう言うこと。さて、ほかの魔法陣も試してみますか」
のんびりと新型術式のテストを繰り返す。
そして部活が終わる頃には瀬川先輩の鼻血も治ったし、新山さんも恥ずかしそうに戻ってきた。
ここで、お約束の言葉を注げないのは、俺の理性と思ってくれて構わないぞ。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




