第八十ニ話・緊褌一番? 粉骨砕身?(ヘキサグラム、出撃‼︎)
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対妖魔特殊機関『ヘキサグラム』
アメリゴを拠点とした六つの企業による組織であり、アメリゴの妖魔研究機関の一つ。
六つのセクションに分かれて研究は続けられており、このセクションの一つ『妖魔生態研究部門』では、乙葉浩介の両親も研究員として参加していた。
『妖魔生態部門』
『対妖魔兵装研究部門』
『エネルギー研究所』
『医薬品開発部門』
『魔術研究所』
『対妖魔機動部隊』
これら六つの部門に内部は分かれており、その中央に『sevens section』と呼ばれている統合監督機関が存在している。
アメリゴ政府とは綿密な繋がりはあるものの、ヘキサグラムは政府機関ではなく、あくまでも民間企業の集合体であるという見解を示している。
但し、対妖魔戦においてはアメリゴの四つの軍以上の働きをする事が確認されており、その道の研究家の意見としては、ヘキサグラムこそ世界最大にして最強の対妖魔機関であると言われているほどである。
まあ、この話はこの辺りにしておくとして。
………
……
…
いつもの学校、HR前。
朝っぱらから外務省の役員がやってきて、なんだかんだと一悶着。
目立ちすぎた俺のせいということもあるが、だからと言って未成年に過度な期待を寄せるのもどうかと思う。
ましてや、ここは日本だよ?
なんで未成年を戦地に送ろうとする川端政務官。
貴方はどれだけの企業から忖度受けているんだよと、心の中でツッコミを入れておいて。
まずは、余りにもやらないとならないことが増えすぎたので、一度、書き出すことにした。
・転移門封印のための退魔法具集め
・神居古潭の退魔法具回収のための情報収集
・大雪山の退魔法具回収のための情報収集
・百道烈士との決着
・白桃姫に対しての対応
・封印及び封印呪符の研究
・新山さんの魔術の覚醒
うん。
一人でやる事じゃないよね。
この中で、急ぎじゃないのは……どれも急ぎじゃないと言える。
転移門が自然開放されて大氾濫が始まるのは二年後なので、それまでに退魔法具を集めれば良い。
百道烈士については、放置しておけば精気を得ることができなくなるので弱ってくるだろうから。
これは白桃姫も同じ。
封印呪符と封印術式の研究は、別に俺じゃなくても良い。
新山さんの覚醒については、条件を見つけ出すのが新山さん自身なので俺が同行する事はできない。
はい、俺、急ぎ何かする必要がなくなりました。
良かった、平和な日常が帰ってきたよ。
「オトヤン、これはなんのメモ?」
「今現在起きている、俺の周りの問題点。特に急ぎで何かするってわけじゃないので、本当にメモ程度に纏めてみただけだよ」
「ふぅん。でも、周りに知られないように『魔法言語』で書いていても、私と築地君には丸見えだよ?」
「そこは構わないさ。寧ろ、五月蝿いのに見つかったら色々と突っ込んでくるから」
チラッと煩いの代表・織田を見る。
今日は友達と集まって、魔法の研究をしているらしい。
教室の片隅を陣取って、あーだこーだと漫画や雑誌を広げて論議している。
「そうだ、オトヤンの所に政務官から連絡来たか?」
「さっき役人さんが来て話してきたよ。評議会の護衛を頼みたいって。ユータロのところにも来たのか?」
「朝っぱらからな。親父に陳情書を持ってきたぞ、どうか俺達を説得してほしいって」
へぇ。
絡め手で来るとはやりますなぁ。
でも、それって悪手だよなぁ。
晋太郎おじさんが、喜んで息子を戦地に向かわせる事はないだろう。
その辺りのツメが甘いですなぁ。
「それで、どうなった?」
「博多の塩を袋ごと投げてたぞ」
「あ〜。その光景が目に浮かぶわ」
「私のところにも、外務省の人が来ていましたよ? 私からも乙葉君と築地君を説得してほしいって」
なんですと?
そんな事されても無駄だよ。
こっちはより細かい事情を知っているんだよ?
今、妖魔特区に入るのがどれだけ危険か知っているのか?
「それで?」
「当然、断ったわよ」
「お前たち、なんで断るんだよぉぉぉぉぉ。乙葉、それに築地‼︎ お前達は魔術師なんだろうが。日本のために、困った人のために尽くすっていう慈愛の心はないのかよ‼︎」
なんで織田が話に割り込むんだよ。
全く、壁に耳あり障子にメアリーとはよく言ったものだよ。
誰だよ、メアリー。
「そんなのねーよ。子供を戦場に送ろうとする国に対しての愛など要らぬ‼︎」
「持てるものの義務を果たせよ、ノブナガ・オブ・ルルーシュだろうが」
「それを言うならノブレス・オブリージュだ‼︎ お前、ルルーシュファンに刺されるぞ‼︎」
巨大ロボと燃え盛る本能寺を背景に、敦盛を舞うルルーシュなんて見たくないわ。
そもそも、お前の苗字が織田だろうがぁ。
「それなら築地、お前こそ魔術師なら戦え‼︎」
「あ、織田。俺は魔術師じゃないからな、闘気使いだからな。近接しかできないからな?」
「異能力者なことに変わらないだろうが。さあ、お前達がやらないなら、俺にその能力くれよ、俺が日本をしは……守るからよ‼︎」
「お前、今、支配って言いかけただろうが」
織田も、魔術についての研究が進まなくなって絡む方法変えてきたな。
クラスの中では、一番真面目に魔法の修行をしているんだけどさ、迂闊に覚醒されて巻き込みたくないんだよ。
今更、お前言う? って突っ込まれそうだけどさ、戦うのは特戦自衛隊と第六課だけで良いんだよ。
「それに新山……さん。君も二人を説得したまえよ。君も異能力者なんだろう?」
「お断りします。私の力はそんなに強くないのですから」
「うぉぉぉぉ。なんで乙葉ばっかり良い目にあうんだよぉぉぉ」
「ほら、いつまでも騒がない。HR始めますよ」
おっと、いつの間にそんな時間に。
急ぎメモを空間収納に放り込んで、学生の本分を全うしますか。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
「……静かだねぇ」
妖魔特区、大通り3丁目広場。
噴水付近を、飛頭蛮の綾女はフワフワと飛んでいた。
対物理障壁によって大通り一丁目を中心に結界に包まれてから、綾女は外に出ることもできなくなっていたのである。
もっとも、無理にここから出る必要も感じないし、元々、彼女が活動維持に必要な精気はごく僅かで足りる。無理に人間を襲う必要もなく、結界内に残っていたカラスなどから摂取するだけで事足りていたのである。
「あら、知っている魔力を感じたと思ったら羅刹ではないか。久しいのう」
テレビ塔下で暇を弄んでいた白桃姫が、魔力感知で気になる波長を捉えたのでやって来たら、そこには旧知の魔族である綾女が飛んでいた。
「白桃姫かい? あんたまでこっちに来れるようになったのか。こりゃあ、本当にヤバいことになりそうだねぇ。それでどうするんだい? 今から私とやりあうのかい?」
「じょ、冗談ではないわ。二代目魔人王側近の羅刹など相手したくはないわ。生贄を100体捧げて頭を下げるレベルではないか」
やりあうかい? と言われて真っ青な顔になる白桃姫。
「どうだか。三代目魔人王配下、十二魔将が第四位の白桃姫が、この私を恐れる必要はないんじゃないか?」
「いやいやいや、いくら妾が十二魔将トップ4といえど、魔人王ディラック側近を相手などできぬわ。我が主、魔人王フォート・ノーマ様からも、引退した魔人王とその側近には逆らうなと言われておるわ」
……
…
妖魔の王、すなわち魔人王。
古くから鏡刻界に住む魔族を治める王。
その出現は一切不明、分かっている事は、彼らを生み出したのが人間などの亜人種を生み出した創造神とは対極に位置する破壊神であること。
それら魔人種を統治していたのが『魔人王』。
原初の魔神王から数えて、いまの魔人王であるフォート・ノーマは実に24代魔人王に当たる。
ただ、現世との繋がりができた時代、鏡刻界を発見した魔人王は自らを『初代・統一魔人王』と宣言した。
残念なことに初代の統一魔人王は、魔人ディラックの罠により鏡に封印され、鏡刻界から放逐された。
結果として、現世界へと進出を開始したのが『二代目の統一魔人』であるディラック。
二つの世界を統べる魔人王。
そう宣言したディラックは、大氾濫を起こしたのち二度目の転移門大進軍の折にひとりの魔術師の手によって滅ぼされてしまった。
大氾濫が起こるたびにディラックは敗れ、最後は滅される始末。
その後の三代目魔人王フォート・ノーマは『統一』の呼び名を外し、『魔人王』だけを名乗るようになった。
現在、大氾濫を起こそうとしているのは、その三代目魔人王のフォート・ノーマ。
全ての魔人王の中でも、最も野心に溢れた知略家である。
……
…
「それで、白桃姫はこんなところに何をしにきたんだい?」
「ええっとですね、妾は、餌を求めて先行偵察しようと必死に転移門を作り出して越えようとしたのじゃが、中々うまく来れなかったのじゃよ。それでこの前、あの転移門が突然完成したとき、どうにか単身でやってきて、今、このような状態じゃ」
ここに乙葉浩介がいたら『解説、乙‼︎』って叫ぶレベルである。
「ふうん。まあ、私の平穏を邪魔しなければ、私はあんたらには何もしないから安心おし」
「た、助かるのじゃ」
もう、白桃姫は身体中から汗が吹き出している。
肉体構成によって作られた体は、人間とほぼ同じような構成になる。
当然ながら空腹にもなるし汗もかく。
ただ、血管を流れるのは液状化した妖気、体細胞は魔族細胞。
固形物も食べることができるし味も分かる。
精神生命体状態では得られない欲求を、肉体構成することで得られる。
それでも、純粋なエネルギーでえる生気を渇望するのは本能なのであろう。
「さて、それじゃあ私はそろそろ行くよ。なんだかきな臭いが流れてきた感じがするよ」
「きな臭い? ほう、これは知らない魔力体じゃな? では妾はそちらに向かうとしよう」
翼を広げて空高く飛び上がる白桃姫。
そのまま人間達の使っている妖魔特区の出入り口『通用門』のある大通り13丁目へと飛んでいく。
それを、綾女は頭をふりつつ眺めていた。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
札幌市妖魔特区・大通り13丁目ゲート入り口。
現在は第六課と特戦自衛隊が共同管理している。
北海道庁並びに札幌市庁舎は大通りから結界外に移設されているものの、未だ運び出しが終わっていない資料や備品は膨大にある。
幸いなことに、乙葉浩介によって張り巡らされた結界で両庁舎は鏡刻界の侵食に晒されることはなかった。
そして、どうにか逃げ延びてきた人々は庁舎内に一時的に避難し、定期的に特戦自衛隊によって救出されていた。
現在、特戦自衛隊は結界内に残っている人間がいないか定期的に調査している。
そして、定期調査のたびに無惨な姿となった死体が幾つも回収されている。
もっとも、それはススキノ地区でのみ発見されており、大通り以南では妖魔の影はひとつも見当たらない。
この事から、妖魔の拠点がススキノ地区に存在すると特戦自衛隊は断定し、36号線から先のススキノ地区をバリケートによって封鎖した。
現在は人間に害を及ぼす妖魔を殲滅するための対策会議が国会で行われているところであった。
並行してこの日、国際妖魔評議会の視察団たちが妖魔特区ゲートを訪れていた。
外にあったゲート入り口と、新たに追加された結界により、大通り12丁目に張り巡らされた対妖魔結界区画。この周辺も既に堅牢なバリケードによって囲まれている。
妖魔特区の中でもここまでは安全であるため、各国代表団も護衛を伴って妖魔特区内に入る事ができた。
だが、どの国の護衛も何か異様な雰囲気を醸し出している。
各国の対妖魔機関としては、実際に妖魔が張り巡らした結界と、その中に人間の手によって作られた『対妖魔結界』のデータは欲しいところである。
そのために、視察団の護衛は自国の対妖魔機関のものから選抜したのであるが、中でもアメリゴ政府の派遣した護衛だけは一種異様な雰囲気を醸し出している。
どの国の護衛も、これ見よがしに防弾チョッキや銃を携帯しているのに対して、アメリゴの護衛はジーンズにジャケット姿。
女性はクッチャクッチャとガムを噛んでいるし、男の方は咥えタバコに光化学ゴーグルを装備し、ずっと結界を睨みつけている。
……
…
「さて、妖魔特区ゲートの視察も終わりましたので、このあとは会食になります。一旦、皆さんをホテルまで送りますので、少々お待ちください」
特戦自衛隊のゲート責任者が代表団に説明する。
するとどの国もホッと一安心して胸を撫で下ろしているのに対し、アメリゴの二人の護衛だけは内部ゲートに近寄って行く。
「あの、そちらから先は妖魔特区内部になります。結界に守られていない区画となりますので、安全上、関係者以外は立ち入り禁止ですが」
『ああ、それぐらいは知っている。俺たちの仕事はこれからなのでね。悪いが通してもらうよ」
『此方が、ここの責任者デスネ。貴方達のボスからノ司令書デス。私たちヘキサグラムは、これより作戦を開始しますノデ、速やかにゲートを開いてくダサイ』
ヘキサグラムの名前を聞き、さらに自国の防衛大臣の司令書を確認したゲート前責任者は、驚いた表情で何処かに連絡を入れると、5分後にはやりきれない表情でゲートを開いた。
──ギギギギギ
ゆっくりと開かれる両開きの扉。
その向こうには、数体の妖魔の姿がある。
人魔と呼ばれるタイプであるが、額からは鬼の角が生えている。
『タイプ・オーガか。キャサリン、あれは捕獲対象なのか?』
『ノー。タイプ・オーガのサンプルはあった筈デス。私たちノ目標は十二魔将のみ。それ以外は殲滅対象デスガ? マックス、やるのデスか?』
『オーケー。それなら作戦を執行する』
ボソッと呟く、マックスとキャサリン。
そして二人は勢いよく、目の前の妖魔に向かって走り出した‼︎
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。