第八十一話・舌先三寸、累卵の危うきかも(妖魔の都合、人間の都合、そしてアメリゴからやってくる)
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ふぅ。
白桃姫からの呼び出し状。
そんなの罠だって理解しているし、そもそも俺はあの中には入れないのだからね。
という事で、呼び出しについては無視。
万が一、妖魔特区の中に入れるようになったら考えてみるさ。
そして2日後。
学校から帰宅して、最初に目に入ったのは国会の参考人招致の手紙でした。
……
…
「今度はなんなの? 俺はもう行かないよ?」
「目を通すだけ通せば良いんじゃないか?」
はぁ。
まあ、親父がそう言うのでしたら目を通しますけれど、俺は国に仕える気とかはないんだからな。
そんなこんなで封を開けて目を通すとですね、この度、めでたく国連でも『対妖魔機関』に関する取り決めや情報交換の場を設けるらしくてですね。
『国際妖魔評議会』
なるものが新設されるのですわ。
そこに加盟できるのは、国連で安全保障理事会に加盟している5カ国の『常任理事国』と10ヶ国の『非常任理事』の計15か国だけ。
そして日本はと言うと、この10ヵ国の非常任理事国に当てはまるらしい。
そして、ここからが問題。
この国際妖魔評議会に加盟している国は、自国の対妖魔機関が保有する情報に対して、評議会の請求があれば開示する義務がある。
そんでもって、この度第一回の評議会で採択されたのが『魔術師・乙葉浩介の所有する魔術に関する情報開示』。
俺の魔術を国際的に公開する事により、一般の人々でも扱える魔術を研究したいと言う事らしい。
なるほどね。
「ん、断る。一般市民を人身御供に出すような国の指示には従わないよ」
「まあ、そうなるだろうなぁ。最後まで読んだか?」
「いや、まだだけど?」
おっと。
まだ書類は残っていたのか。
そして目を通すとですね、日本国としては今回の国連の開示請求を受ける必要なしと判断、『国際妖魔評議会』からの脱退も考えると言うらしいが、これに対して一部野党が反発。
あそこはあれだろ?
与党が成果を上げそうになると反発することしか知らないだろう?
『国民を守るのが義務』という自民党の言葉に対して、関係野党は『国際的にも妖魔に対する情報を公開するべきである』の一点張りだって。
「はぁ、成る程理解したわ。親父、俺はこれを受けないので悪しからず」
「別にいいんじゃないか? 浩介がそう決めたのならそうしなさい」
う〜む。
さすが我が親。
先日の防衛省政務官襲撃でかなり怒っていたからなぁ。
「じゃあ返答するか」
当然、行きませんとも。
何が悲しくて、利権を貪るのに忙しいおっさんおばさんの跳梁跋扈している場所に行かないとならないんだよ。
前回の参考人招致の時に、肌で感じたわ。
どいつもこいつも、俺を利用する気満々だし、質問だって失言を引き出すのに必死だったよ。
国会中継での失言なんて、言質取りましたって言わせるようなものじゃないか。
なので、俺は今後は国会になんて行きませんとも。
スラスラっとお断りの手紙を書いた後は、のんびりと一家団欒タイム。
永森ココアを飲みながらテレビを見ていると、不穏当なニュースが流れてきた。
『国連の国際妖魔評議会代表が、明後日、日本に到着。その後札幌市妖魔特区の視察を行う』
ふんふん。
なんで誰も止めないの?
死にに行く気満々だよね?
あの場所に妖魔が徘徊しているのは、日本国政府も承知しているよね? にも拘らず、なんで受け入れた?
──シュゥゥゥゥ
「浩介、イライラする気持ちは分かるが、体から魔力を放出するのはやめなさい」
「怒りの感情で制御できない魔力が吹き出しているわよ?」
あ、サーセン。
そっか、体内保有魔力って、感情にも左右されるのか。
「……って、親父とお袋には見えるのかよ?」
「こう見えても、俺と陽子は元・陰陽府の妖魔研究者だぞ? 妖気感知や魔力感知ぐらいは日常レベルで使えるからな」
「そうよ。だから、浩介はもう少し魔力をコントロールする方法を鍛えないとダメよ」
「うわぁ……俺の能力もドン引きだろうけど、両親の秘密を知った俺もドン引きだわ」
その後も話をしているとだね。
うちの親父と祐太郎のとーちゃん、瀬川先輩の親父さんは幼馴染だったらしい。
だから、親父たちの仕事のことも知っているし、先輩の親父さんが妖魔に狙われて殺されたって言うことも知っていた。
「そうなのか。晋太郎おじさんと先輩の親父さんも、妖魔になんらかの形で関わっていたのか」
「瀬川善弥は、表向きは普通の商社社長だったなぁ」
何か思い出しつつ呟いていたけど、それ以上の話はなかった。
まあ、大人の事情というのもあるんだろうなぁと思いつつ、その日はのんびりと過ごすことにした。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
場所は変わってテレビ塔下の妖魔御一行様。
「……なぁ白桃姫。お前が甲乙兵に送った果し状、奴の元に届いているのか?」
「当然じゃ。妾はキチンと仕事したぞよ」
「そうか。しかし、奴はいつまで俺を待たせる気なんだ?」
「知らんわ。また近いうちに手紙を送っておくから安心せい‼︎」
椅子に座ってのんびりとしている白桃姫に向かって、百道烈士がイライラしながら問いかけている。
乙葉浩介との決着をつけたい百道烈士と、乙葉浩介を餌として見ている白桃姫。二人の共通の目的は、この場所に浩介を引っ張り出すと言うこと。
白桃姫としては、百道烈士に乙葉が殺されると餌にすることができない。
そして百道烈士としては、乙葉が白桃姫に食い殺される前に自分の手で殺したい。
それ故に、白桃姫は鏡を媒体とした簡易転移門を使って乙葉に果し状を出したときも、日時と場所については軽く濁らせていたのである。
妖魔特区の人間サイド入り口付近では、白桃姫の配下が乙葉の来訪をじっと監視している。
いつ乙葉が来てもすぐに動けるようにと、いくつもの対応策は練っている。
それに対して百道烈士は、テレビ塔周辺に配下を忍ばせ、いつでもタイマン張れるように、そしてそれを白桃姫が邪魔をしないようにしている。
お互いに協力体制を整えているように見せかけてはいるものの、実際には相手を陥れて自分の欲求を満たすために動いていた。
但し、テレビ塔下を指定場所として、乙葉の持つ魔力を使って転移門を開くと言う部分については一致している。
「白桃姫、この転移門を使って配下を召喚できないか?」
「無理じゃなぁ。妾は空間系術式を使ってここにくることができたのじゃが、それも条件が揃っていたからじゃ。転移門が発生していなければ、妾の術式ではこちらの世界に干渉することなどできぬ」
それに、妾以上の空間術式を使える魔族はおらぬからのう。
それにしても、この結界の中から出たいものじゃ。
ここにいると食事に困ってしまうわ。
魔力の少ない、痩せ細った大地からは精力を得ることはできぬ。
はよう、この結界内を鏡刻界と同じ環境にならぬかのう。
そうすれば、この大地も我らの故郷のように変貌するじゃろう。
環境の変貌については、結界などでは全てを抑えることはできぬ、それに人間どもはまだ気づいておらぬ。
楽しみじゃのう。
「……お前、何か企んでないか?」
「まさか。妾としても、はよう甲乙兵とやらに会いたいのじゃ。あの芳醇な精気を喰らいたくてウズウズしておるのじゃぞ」
「先手は俺だからな。そこのところは忘れるなよ?」
「わかっておる。じゃから、ここでのんびりとしておろうが」
全く喧しいわ。
甲乙兵とは、あの乙葉の事じゃろ。
妾も待ち遠しいのじゃ。
………
……
…
2日後、北海道、新千歳空港。
航空自衛隊・千歳基地の管制により、急遽北海道にやってきた大型輸送機・C130ハーキュリーがゆっくりと着陸する。
そのまま千歳基地エリアまで誘導されると、そこからアメリゴ海兵隊員達が次々と降りてきた。
そして千歳基地からも、出迎えの自衛官たちが列をなして待機している。
「ようこそ北海道へ。我々、北部航空方面隊・第二航空団は皆さんを歓迎します」
第二航空団司令の大隈純友空将補が挨拶をする。
それに合わせてアメリゴ海兵隊『特殊戦略部隊』司令官のクロム・マンスフィールド中佐も敬礼を返すと、お互いにがっちりと握手する。
『暫くお世話になる。我々も上からの命令で『彼ら』を連れてきただけですから』
「ええ。事情は聞き及んでいます。ですが、できうる限り、日本国内での『戦闘行為』は避けて頂けると助かります」
『彼らにも説明はしてある。まあ、彼らの所属は我々とは異なるから、何処まで話を聞いてもらえるかわからないのでね』
流暢な日本語で話をするクロム中佐。
後ろでは、ハーキュリーから生活物資を始めとするさまざまな備品の収められたコンテナが次々と降ろされていく。
やがてコンテナが全て下ろされたのち、二人の兵士がタラップを降りてきた。
そして大隈空将補とクロム中佐の元にやってくると、にこやかに敬礼をして一言ずつ。
「ハーイ、ミスター・クロム、私達の戦う妖魔は何処にいますか?」
「それと魔術師だ。我々はヘキサグラムの仕事でここまできたんだ、魔術師のサンプルデータも回収するようにって言われているのだからな?」
金髪ヤンキー娘とオールバックの強面軍人が、階級差など気にすることなくクロム中佐に話している。
だが、大隈空将補は今の話に何か違和感を感じた。
「失礼。今回の来道は、12月5日から行われるヤマザクラ演習の打ち合わせと現地視察と伺っていますが」
……
…
日米共同方面隊指揮所演習、通称『ヤマザクラ演習』。
日本からは陸上自衛隊が、そしてアメリゴからはアメリゴ陸軍及び海兵隊各部隊が参加する大規模合同演習。それぞれの指揮系統に従い、共同して作戦を実施する場合における方面隊の指揮幕僚活動を演練して、その能力の維持及び向上を図ると言うのが目的であり、毎年十二月に定期的に行われている。
大隈空将補は、今回のクロム中佐の千歳基地にやってきた目的が現地視察と聞いていたので、ヘキサグラムの特殊部隊が来ることなど報告を受けていない。
……
…
「大隈空将補、こちらがヘキサグラムからの親書です。それと、貴方たちのボスからの司令書も預かってきています」
クロム中佐は顔色ひとつ変えることなく、事務的にそう告げると大隈空将補に書簡を手渡す。
本来ならば然るべき手段で届けられて当然のものを、何故、アメリゴの軍人が届けるのか?
その時点で疑惑が湧き上がるのだが、受け取った書簡を確認して大隈空将補は脱力する。
書簡は本物であり、今回のヘキサグラムの作戦行動は『超法規的措置』により認められた事、同封されている作戦指示書に従い行動するようにとの通達が記されている。
(ま、また川端政務官か……あいつは、日本をなんだと思っているんだ? 妖魔関連特措法の適応範囲内だと? 超法規的措置で対人兵器の塊であるヘキサグラムを入国させるなど馬鹿げている)
心の中で川端政務官にデンプシーロールからのガゼルパンチを浴びせてから、大隈空将補は大きな溜息を吐く。
外交的対象であるアメリゴ海兵隊の前で溜息など、外交問題にも繋がりかねないのだが。
その心中をクロム中佐も察しているらしく、頷くだけであった。
「気持ちはわかります。我々も、ヘキサグラムを輸送するだけの任務で此処まで来たわけではありません。本来の仕事は合同演習の打ち合わせです」
「ソウイウコトデース。ここから先は、ヘキサグラムは独自行動に入りますのでご安心下サーイ」
「まずはターゲットの捕捉からか。妖魔特区まで案内を頼みたい」
そう告げると、二人は用意されていた車両に乗り込む。
それを見ながら、大隈空将補は二人の自衛隊員を付けて、無言で見送ることしかできなかった。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
「国際妖魔評議会の護衛を頼みたい」
「こ、と、わ、る。なんで未成年に、しかも民間人に要人警護を頼むんだよ? 日本政府はアホの塊か?」
ニュースを見た翌日。
文字通り学校に飛びながら登校した俺を待っていたのは、日本政府の外務省役員でした。
なんで? と思ったけれど、どうやら数日後にやってくる『国際妖魔評議会』の視察団が『妖魔特区』を視察するため、彼らの警備をお願いしたいそうです。
アホか?
「事は重要な案件でね。君は未成年とはいえ、対妖魔戦においては他国に追従を許さない力を有しているじゃないか。今回の視察団には各国の重鎮とも呼べる方々もいらっしゃる、万が一ということがあってはならんのだよ?」
「知りません。第六課を使ってください。若しくは特戦自衛隊に要請してください。俺は公務員でないので従う必要もありません。ですのでお断りします」
先方はどうにかして俺を引っ張り出したいらしい。
まあ、大方の想像はついているさ。
いくら結界に守られているとはいえ、妖魔特区の中を歩いて行くのは自殺行為でしかない。
今のあの中には、人間から精気を喰らえなくなって久しい妖魔達がいる。
そして現・十二魔将の百道烈士と白桃姫の二人も。
そんな所に行くなんて、オークの群れにエルフの美女を放り込むようなものだよ。
そこに俺が警備員として配備され、俺の魔術で妖魔を蹴散らす。
日本国にとっては、国保有の魔術師の実力をアピールできる良い機会だろうさ。
「万が一ということがあったら不味いのだよ? それこそ国際問題になる」
「あの、俺が結界内に入った時点で、最悪はあの転移門が活性化しますよ? 二年待たずに大氾濫が起きて最悪は札幌が崩壊しますよ? それでも良いのですか?」
「え?」
え? じゃないわ。
この話って、第六課を通じて各方面に通達されているはずだろうが。
忍冬師範が第六課と特戦自衛隊、元・陰陽府の御神楽さまのところに通達したって聞いているぞ?
「そ、それは聞いていない。私は川端政務官からの命令で、君に護衛を頼むように仰せつかっているだけですから」
「そうですか。それならすぐに確認してください。それに川端政務官って、この前独断専行でやらかしましたよね? 国会でも散々叩かれて静かになったと思ったら、まだそんなことしているのですか?」
あのクソジジイがぁぁぁ。
あいつが今回のラスボスに見えてきたぞ。
でも、うちの周りに張り巡らせていた対妖魔結界に反応しなかったから人間だよね。
……
…
って、ちょっと待ったぁぁ。
あのとき、玄関まで妖魔きていたよね? 人魔。
川端政務官と一緒にいたあいつ。
対象者を思考誘導する厄介な奴。
あいつがいる限り、川端政務官って何をやらかしても妖魔の能力で打ち消せるのかよ。
しかも、あいつは結界に反応しないのか?
結界無効化能力でもあるの? 怖ぁぁ。
「俺から話す事はもうありません。では授業が始まりますので失礼します」
そう告げて席を立つと、俺はクラスに戻る。
後ろでは役人さんがどこかに連絡しているみたいだけど知ったことか。
俺はヒーローじゃないんだ。
何でもかんでも助けることなんて出来ないんだよ。
だから、手の届く範囲だけは必死に守るのに頑張っているんだよ?
そんな所に俺が顔出したら、最悪なにも守れなくなるじゃないか。
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




