第八話・旧雨今雨は友を呼ぶ(選ばれる者、選ばれなかった者)
『ネット通販で始める、現代の魔術師』の更新は、毎週日曜日と火曜日、金曜日を目安に頑張っています。
はじめまして。
私は、この世界を管理する管理神の1人、魔導神アーカムと申します。
貴方は、この世界に新たなる力や技術を広めるための伝道師として選ばれようとしています。
貴方達の中には私たちの与える加護の卵が生まれました。
ですが、それはまだ目覚める事はありません。
卵が目覚めるには、試練や魔力が必要です。
さあ、加護の卵を孵化させる術を探してください。
道は開かれています……。
……
…
はっ‼︎
深夜に目が覚める。
今のはまさか夢?
ですよね。
この科学文明の時代に神の加護なんて。
そんなものがあったら。
「楽しそうですわね」
「人の役に立てるかなぁ」
「ん〜。使い方次第か。親父みたいに政治家目指せるよなぁ」
──バタン、スヤスヤスヤスヤ
これはほんのひと時の夢。
でも、現実。
瀬川雅、新山小春、築地裕太郎。
この3人は、同じ日の深夜に、同じ夢を見た。
それが本物の女神の神託であること、この瞬間に、三人は普通の人としての生活を送ることができなくなるなど、知るよしもなく。
………
……
…
早朝。
最近は朝一でもカナン魔導商会のページを開く習慣を身に着けている。
因みに例の宝くじの件だけど、両親が夏休みに一時帰国するらしいので、その時に一緒に換金に行ってくれる話が付いた。
うちの親は意外とドライであった。
息子が億万長者になったにも拘わらず、フーンとかへーおめでとうという実感のない返事を返してくれる。
まあ、当選金額は教えていないので、当日になったら驚けよ。電話口で当選金はすべて俺の自由にしていいって言った言葉を忘れるなよ?
ということで、朝一番のステータスチェック。
‥
‥‥
名前:乙葉浩介
年齢:16歳
種族:人間(転生処理済み、バグ)
レベル:19
体力:91(113.7)
知力:92(115.0)
魔力:1180(1475)
闘気:1180(1475)
HP:340
MP:17800
・スペシャルアビリティ
ネットショップ・カナン魔導商会
空間収納チェスト
自動翻訳 (初期セット)
鑑定眼+ (初期セット)
・固有スキル
一般生活全般 レベル16
魔力循環 レベル1
魔力解放 レベル1
第一聖典 レベル3
・コンディション
体調 :超優良
拗らせ童貞
チン長:最大18cm
‥‥
‥
うん。
レベルが10も上がっているね。いったいなんだろうね。俺、寝ている間に何かしたかなぁ。
て言うか、拗らせ童貞ってなんだよ、こ、こ、拗らせてねーし。
そんな事を考えつつ、カナン魔導商会のメニューも確認。
昨日の夜に査定可能になっていたので、とりあえず手元にあった香辛料をぶちこんで残高を575万クルーラまで上げてある。
だが、もう俺の家には査定に出せそうなものがない。
今月の小遣いでスパイスやら買ってしまったせいで、小遣いがかなりピンチ状態。
この危険な状態をどうにかしたいところだが、ふと本日のおすすめを確認してみると、なんだかよくわからないものが販売されていた。
『本日のお勧めはこれ。レジストリングです。魔法使いには定番の、様々な元素に対抗するために作られたこちらの商品、とある事情で販売停止となりました。ですがご安心ください、今回限りのネット販売が実現しました。今なら一つ10万クルーラでご奉仕します。販売数は十個限定の早い者勝ち‼︎』
ポチッとな。
俺ね、こう言う数量限定とかに弱いのよ。しかもカナン魔導商会の魔導具でしょ?
全部買うに決まっているよね?
『チーン。残額は475万クルーラです』
脳裏に響く販売員らしき声。
そしていつもの宅配魔法陣が輝き、10個の指輪と取説がセットになって置いてあった。
まずはじっくりと取説から目を通す。
『レジストリングの使用方法。1、どの指でも構いませんので指輪を嵌めます。2、右手人差し指に魔力を込めて指輪に触れます。3、耐性を付与するための対象に、右手人差し指で触れます。以上で指輪に耐性が付与されます』
へぇ。
物は試しと指輪を嵌めて、右手人差し指に魔力を込める。
ぶかぶかだった指輪がシュッと縮まってサイズがぴったりになる。さらに、指を曲げても指輪が引っかからない。指の動きに合わせて形状を変化しているようだ。
「あ〜、6月なのに暑いからなぁ……熱耐性?魔法ならレジストヒートってやつか。なら……」
居間にある親父のライターに火を灯して、素早く炎を掴むマネ。一瞬だからちょっと熱いけど、その瞬間に熱さを感じなくなった。
気のせいかもしれないが、さっきまでの蒸し暑さもなくなり、むしろ過ごしやすく感じる。
「へぇ。こりゃいいや、でもなんで販売停止なんだろう?こんな便利なものがねぇ」
実に不思議であるが、まあ良い。
むしろ現実を見よう。
間も無くバス停にバスが来る。これを逃すと遅刻確定‼︎
「ふっ。現代のチートキャラをなめるなよ?ブースト開始、脚力をブーストして走る速度をアップ、行くゾォォォォオ」
──ブオン‼︎
勢いよく玄関を飛び出し、あまり不自然にならない速度でバス停まで駆けていく。
ちょうどバスが手前の信号に止まっていたので完全にセーフ。
もしいつも通りなら、遅刻は確定であった。
「ハァハァハァハァ……おお、汗は掻いているがあんまり暑くないぞ‼︎」
タオルを出して汗を拭う……フリをしながら、生活魔法の一つである清潔を無詠唱発動する。
――シュゥゥゥゥゥ
一気に汗が引き、じっとりと湿っていたシャツもすっきり乾燥。
洗濯後に日向で干したような清涼感が蘇る。
あー、俺天才。
最近は魔法の練習もしていたから、それでレベルが上がったんだろうなぁ。
まあ、学校ではいつもどおり、努めて平和な高校生活ライフを楽しむことにしましょうそうしましょう。
ちなみに、この清潔があればクリーニング屋が開けるかなぁと一瞬思ってしまったことは、ここだけの秘密ね、リョーマ君に怒られるから。
……
…
放課後、いつもの部活。
日直当番だった俺は、今日は最後に部室に到着。
‥‥到着したんだが、なんか部室の雰囲気がどんよりしている。
「ちーっす。何か雰囲気が暗いけど、何かあったの? 廃部決定?」
「そんな縁起でもないことを言うものではないわね、乙葉君。ちょっとみんなと意思疎通をしていてね、頭が痛くなってきただけよ」
「そうですよ。まあ、こんな偶然もあるのかなーって思っただけですよ」
「……折角だからオトヤンにも確認するか。まあオトヤン、正座」
「なんでそこで正座なんだよ、それってラノベの伝統芸だろうが」
まあ、正座は断るが椅子には座る。
すると、3人が一斉に俺を見る。
いやぁ、美人2人に見つめられると照れるんだけど祐太郎、貴様は別だ‼︎
「オトヤン、加護の卵って分かるか?」
「ヨード卵光? 烏骨鶏の卵? 磨宝卵GOLD?」
「あ〜、今の返事で理解したわ。最後のは俺にも判らないけど突っ込まないからな。この件はオトヤンは無関係みたいだな」
ガッカリと肩を落とす祐太郎。
いや、加護の卵って言われてもわからないよ、磨宝卵GOLDは親父がネットで取り寄せていたおいしい卵な。烏骨鶏はマオ君のアレな。
確かに俺は魔法が使えるって言う加護があるけど、あ、俺のはネットショップの加護か、魔法は副産物だしな。
「築地君、いきなりそのような質問をしても乙葉君は理解できないわよ。では私から。乙葉君! 貴方は神託を信じますか?」
「信託? 親父からは将来的にも手を出すなって言われているけど?」
「それは投資信託ですわね。私の話しているのは神からの言葉、神託ですわ」
あー。
神託も何も、俺は女神様に直接会って加護を貰ったからなぁ。信じるも何も、その奇跡を貰った人なので信じるよ。お陰で死んだのに死んでないことになって大変だったけどね。
で、なんで今、神託の話?
「あ、そっちの神託ね。シャーマンキングとか巫女とかが貰うやつね」
「シャーマンキングのは違うな。瀬川先輩、オトヤンはラノベ脳だからきっぱり話しても大丈夫ですよ」
なんだよラノベ脳って。
俺は『いつかは異世界転生』なんて夢はもう見ないぞ?
そりゃあ厨二病患っていたときは、FF7のセフィロス人形を集めていたし、いつかはセフィロスみたいになりたいと思っていたこともあったよ、ああ、黒歴史だよ。
「そう。ならはっきりと言いますわ。私と築地君、新山さんの3人は、昨晩、神からの啓示を受けましたわ」
「私たちの中に加護の卵があって、それが孵化すると様々な加護が使えるようになるんですって。これって凄いことですよね?」
瀬川先輩の言葉に新山さんが続く。
へぇ。
そんな神の啓示を受けたんだあ。
良いなぁ、俺は……あ、俺の方が凄いか。
「な、なんだと、俺だけ仲間外れ??? 俺は要らない子なのか? 今日からこの文学部は魔術研究部にでもなるの?」
「そうではありませんわ。私たちが受けたのなら、乙葉君も受けたのではと思いましたの。ですがその様子ですと受けていないようですわね?」
「加護の卵って何ですかね。そもそも啓示って事は、神様からの話ですよね? どの神様? ジーザスクライストナンバーワン?」
敢えて分からないフリをする。
すると、3人とも頭を傾けてしまう。
「オトヤン、俺たちは真面目だから真剣に聞いてくれ。俺たちに啓示をくれたのは魔導神アーカムって話していたんだ」
「???ラノベの神様?」
「そう思うわよね。私も今日部室に来て、古今東西の神々の資料を探したのよ。でも、どの文献や本にもその名前の神様は出てこなかったの」
「私もラノベかなと思って調べたんですけど、やっぱり該当する神様はいなくて」
「俺はほら、クトゥルフ神話かもなって思ってさ。でもいないんだよ」
先輩と新山さんは良しとして、なんで祐太郎は一番可能性がないところを調べるかなぁ。
なんで悪神から選ぶんだよ。
「ユータロよ、クトゥルフだけはやめておこう」
「そうだな。それでな、俺たちは加護の卵を孵化させて、この世界に様々な技術を広める伝道師に選ばれたらしいんだ」
「私だけが見た夢だったら、まあ、疲れているのかなと思いましたけれど。今日部活に来て築地君がその話をして驚きましたわ」
「それでね、私も同じ夢を見たんだよって話したら先輩まで見たって言うので、これは偶然じゃないんだなって思ったの」
「成る程。つまり全員が後天性厨二病を患ったのか。いや、ユータロは悪化しただけだな」
腕を組んで云々と頷く。
あれだろ、その魔導神アーカムって、多分俺に加護くれた女神だろ?
なんでいきなりこの世界に魔術広めたいわけ?
「まあ、そう考えるのが普通なんでしょうね。そうなると、私たちが見た夢は偶然? なにかそのような夢を見るようなきっかけがあったのでしょうね?」
「映画とかドラマとか、あとはアニメとかの設定でそう言うのを見て、はまったとかですか?」
「そう言えば、オトヤンって手品使えるんだって? ちょいと見せてくれるか?」
瀬川先輩と新山さんはなんか話し合いに突入。
そして祐太郎は俺の手品がみたいだと?
新山さんに聞いたのか。
まあ、空間収納に物を出し入れするだけのやつだから、特におかしいとは思われないだろう。
「良いぜ。って言いたいけど、タネを仕込んできてないからさ。新山さんの時みたいにペットボトルは出せないぜ、こんな感じかな?」
机の上のラノベを手に取って、くるっと回して空間収納に放り込む。
一瞬だけ掌で隠れるようにしたので、そこで収納すれば手品に見えるだろう。
目の前で空間収納を使ったんだけど、祐太郎にはやっぱり黒い球体は見えていない。だから手品と思ったらしい。
「うわ、マジで手品か。新山さんに見せた魔法の薬を作るってやつはできるのか?」
「バッテリーもLED電球も持ってきていないわ。予め用意してあったら見せられるけどな」
「え、あの美味しい水って作れるのですか?」
今度は新山さんが食いついたよ。
まあ、病気治癒ポーションは健康な人が飲んでもなにも効果がない事は、自分で飲んで実証済み。健康な人が飲んだら無味無臭なんだよ。
「あれかぁ。原液はあるけどまだ薄めてなくてね。粉末のやつを水で溶かしただけだから、今度仕込んでおくよ」
「お願いしますね」
「という事で、俺の手品はタネも仕掛けもありさ、オオアリさ」
この場をごまかすためにシュシュっとシャドーボクシングの真似をする。
「それはオオアリじゃなくモハメド・アリだな。昨日はモモタロウできたか」
「一発ギャグはオトヤンの特権じゃないぜ」
ガシッとお互いの拳を打ち鳴らすと、俺もオトヤンもお笑い。
「成る程、まあ、この話は今日はこの辺りにしておくとしよう。それで乙葉君、今日のお茶当番は君なのだけどね?」
「あ、あ〜」
はい忘れてました。
折り返しだから二日連続なの忘れてたよ。
まあ、今日もマルムティーセットで良いか。
ちゃっちゃと用意して、みんなで今日も放課後ティータイムだ。
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。
・今回のわかりずらいネタ
ザ、モモ○ロウ/にわの○こと著
ヨー○卵光/烏骨鶏の卵/磨○卵GOLD/通販参照
・カナン魔導商会残チャージ数
475万クルーラ