第七十八話・炊金饌玉、穴二つ?
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前略。
天気晴朗、本日は月曜日なり。
掲示板に張られた連絡によりますと、学食のおばちゃんが病気で倒れたらしく食堂内のメニューが一部変更、もしくは中止になりました。
と、人込みを越えてみたけれど、どうやら明日からは弁当持参しかないなぁと思いはじめております。
いや、他のメニューが嫌なわけじゃないよ?
ただね、俺の好物のカツカレー特盛がメニューから無くなる可能性があるんだよ。
たかがカツカレーと思ったお前、うちの学食のカツカレーは半端じゃないぞ?
そのトンカツ、サクサクの衣を纏いて香辛料の野に降りたつべしだよ。
失われた食欲との絆を思い出させてくれるんだよ。
その担当がおばちゃんでね、今日は別の人がカツをあげているんだけどさ、なんて言うかこう、油切りが悪くて、衣が薄くて、肉が硬くて、なんていうか。
『このトンカツを揚げたのは誰だ‼︎』って厨房に突入する案件なんだよ。
‥‥
‥
「それで、オトヤンも今日は弁当なのか」
「そう言う事。お袋は忙しいから、自分で作ったおにぎりだよ。ユータロも弁当か」
「まあね」
「なんで弁当が4つ?」
祐太郎の机の上には4つの弁当箱。
健全な男子としては少々ボリュームが足りなさそうではあるが、唐揚げ弁当とホッケフライ弁当、サンドイッチ、そしておにぎりと塩鮭とタコさんウインナーの入った弁当。それと、なんで卵焼きが三種類?」
そう考えていると、女子がモジモジしながら祐太郎のところにやってきたよ。
「あの、築地君。これ、よかったら食べてくれる?」
――キラーン
「ああ、助かったよ、ありがとう」
あ、いま『女の敵』スキル使っただろ、女子が真っ赤になって走っていったぞ。
「これで5つか。こりゃあ夜食も弁当になるか」
「あ、築地君はちゃんと食べるのですね? それはよかったです。まさか皆さんの気持ちのこもったお弁当を捨てるようーなことはしないと思っていましたから」
「俺のために作ってくれた弁当だよ? 俺以外に誰が食べるんだよ。捨てるなんてとんでもない」
「呪われたお弁当みたいだな。『それを捨てるなんてとんでもない』ってやつだろ?」
思わず突込みを入れてしまうけど、この辺りは祐太郎も変化したんだなぁと感心。
「ふん。それってあれだろ、乙葉が装備している『童貞』ってやつだろ。それでいい大人になって風俗営業の店に行って童貞を捨てようとしたら、『それを捨てるなんてとんでもない』って言われて、捨てられずに酒場で一人で飲んだくれるパターンだろ?」
通りすがりの織田が絡んでくる。
でも、そのネタ楽しくていいなぁ。
「あ~。大丈夫だよ。そんときゃ惚れ薬でも精力増強剤でもなんでも作ってみるよ」
「作れるのか、俺にもくれよ!!」
「やらねーよ。これから研究するんだよ、あと2年はかかるよ、18歳未満は使用禁止だよ!!」
カナン魔導商会のR18商品だから買えねーよ。
そう叫びたくなってくるわ。
「そ、そうか。それはまあ‥‥そうだ乙葉、お前もいっぱしの魔術師なら、美味い弁当ぐらい魔法で出せるんだろ!! 俺にもくれ!!」
「作れねーよ。クリエイトフードなんて使えねーし知らねーよ」
そう言い切ると、織田が勝ち誇った顔。
「そうだよなぁ。所詮乙葉は魔法で料理も作れないぐらいレベルの低い魔術師なんだよなぁ。それなら俺でも勝てる見込みあるわ」
「なんだと?」
いちいち絡んでくるのはいいんだが、今日のそれは許さん。
本気で怒ってみるなら、ゆ゛る゛ざ ん゛!!
「例えばトンカツ。学食のおばちゃんの作っていたサクサクのトンカツ。あそこまで完成度の高いトンカツなんて、乙葉には作れないよなぁ」
「できらぁ!!」
「よし、それなら魔法で作ってみろよ、サクサクのトンカツを」
「え、魔法でサクサクのトンカツを?」
‥‥‥
‥‥
‥
ということで、なんでか知らんけど、放課後に料理対決することになりました。
それも対戦相手は織田じゃなく、料理研究会の部長の道場三四子先輩。
一般ギャラリーは抽選方式、審査員は織田、要先生、研究会顧問の鹿賀薫先生の三名と一般募集の4名の生徒たち。
「季節は間もなく冬。野生の動物たちは厳しい冬を越える為に体内にエネルギーを蓄える。それはすなわち脂。古来より『月に旨いと書いて脂』とも呼ばれるほどであり、冬間近の食材に蓄えられた脂こそが美味である。そして脂といえば豚。よく肥育した豚の脂を、さらに脂の集大成であるラードで揚げたものこそが至宝。本日のメインテーマはトンカツ!!」
――ババーーーン
派手な演技と同時に鹿賀先生の前口上が終わる。
「アレ・キュイジーヌ!」
いや待って先生。
突込みどころ満載なんですけど。
そして俺の前には一切食材がないのに、道場先輩の前には高級食材が並んでいるのはどうしてですか?
「あ、公平を期すために乙葉君はすべての食材は魔法で用意してくださいね」
「何処が公平だよ!!」
そう叫んでいても仕方ない。
そんじゃやりますか。
まずは調味料から。これはカナン魔導商会提携店舗であるウォルトコで小麦粉とパン粉を購入。
塩コショウは使わないよ、boyaitterで有名なホットサンドメーカーで料理する人、レオ氏の使っていた『Massive』っていう万能調味料で味付けするのさ。
そんな感じの調味料を次々と購入して空間収納に配達してもらい、取り出して並べる。
この時点で俺を見ていたやつらは絶句、織田は顎が外れそうになっている。
「ええっと‥‥肉、豚肉‥‥」
カナン魔導商会の食材一覧には豚肉かない。
あ~、あっちの世界じゃ畜産業ないのか?
その代わりやばい食材を発見。
『オーク肉』
うむ。
オーク肉って食えるのか。
そういう世界なんだろうなぁと思いつつ、オーク肉の一覧から『オークジェネラル』ってうのを選択。ついでにスモールレットドラゴンのしっぽの肉も安いから買って。
ああ卵もいるか。
これはあれだ、いつも購入しているノッキングバードの卵でいいか。
それらも空間収納から取り出して並べていくと、ついに見ていた道場先輩が叫んだ。
「お、乙葉君、それはなんですか!!」
「なんでって、魔法で作った調味料と食材だけど?」
「食材ですって? それはなんなのよ、どこの豚肉を作ったのよ!!」
「まあ、それは秘密ですよ。ちゃんと可食部ですので」
そう説明すると黙ってくれたので、そのまま調理に入る。
といっても、厚さ3cmに切り分けて『Massive』を振っておいておく。
その間に付け合わせの食材、つまりキャベツを購入。
30cmほどのバルーンキャベツをまな板の上にのせると、生活魔法の『切断』と風魔法を組み合わせて即興で作った調理魔法『千切り』で極細にカット。
まずは水にさらしておいて、その間にオーク肉とドラゴン肉を揚げることにしましょう。
小麦粉、卵に、パン粉もまぶしますよ。
あ、サラダ油がないから、これもカナン魔導商会で購入。
バーン・ワイバーンの脂ってよくわからないけど食材欄だったからヨシ!!
鍋に脂を注いで生活魔法の『加熱』で温度を上げる。
あとは普通のトンカツと一緒、サクサクに揚げて出来上がりと。
揚げている間にキャベツの水も切りましょう。ほら、まるで風船のようにふわふわした手触りと触感じゃありませんか。
最後にミスリル包丁でカットしてさらに盛り付けて出来上がり。
――ジャァァァァァァァァン
「で、できました」
「俺も完成。さあ、実食時間だよ、公正な審判をお願いします」
先輩のトンカツは九州産黒豚のトンカツと付け合わせのキャベツだけ。
よけいなものはいっさいなし。
ソースとドレッシングは市販のものを共通で使うことにした。
「それじゃあ、まずは道場先輩のトンカツから食べようぜ!!」
織田がそう告げるので、先に実食されたのは道場先輩のトンカツから。
なるほど、先に先輩の奴から実食してもらって腹を膨らませようって魂胆だな。
しかもラードは時間を置くと冷えて固まってくる、この12月頭の気温ならすぐに冷えてトンカツの衣にうっすらとラードが見え始めてくどくなる。
そこまで考えて先輩を先にしたのか、織田‥‥恐ろしい子!!
「うんうんう、うまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい」
「これはまた、トンカツ専門店でもここまでの味はでないわ。これも食材の差なのかしら?」
「いえ、この下味のつけ方、食べやすいようにカットされた大きさ、パン粉の中に隠し味まで仕掛けてあるなんて憎い演出ね。腕を上げたわね、道場さん」
「恐縮です」
おおう、審査員の評判も上々。
一般審査員の生徒たちも絶賛している。
そして、いよいよ俺のオークトンカツの出番だけど、織田が食べる前からクレーム。
「あんなうまいトンカツ食べた後で、ラードでべしゃべしゃなトンカツなんて食いたくねーよ」
「じゃあ食うな!!」
そう告げて織田の前からトンカツを下げると、織田もニヤッと笑った。
どうせあれだろ、鹿賀先生は道場先輩に勝ち点をつけるだろうって考えているんだろ?
それはそれで構わんよ。
「ということで、織田は無視して食べてください。メインのトンカツはオークジェネラルのロース肉、その横についているちっさいのはドラゴンテイルの一口かつです。こっちは評価なしで、オークジェネラルのトンカツだけを評価してください。それと、キャベツはちょっとした風圧でも飛び散ってしまいますのでお気をつけて」
――はぁ?
俺の説明を聞いて目が点になる。
そして要先生は迷うことなくオーク・トンカツを一口齧って‥‥。
――バッ!!
迷うことなく俺のネームプレートを上げていた。
「乙葉君に一票です」
「えええ‥‥そこまで反応早いのですかぁ」
ややドン引きで鹿賀先生もオーク・トンカツを一口食べて、キャベツも恐る恐る口に運び。
――バツ
「乙葉君に一票で‥‥残念ですけど、乙葉君のほうが上です」
「そ、そんな!!」
動揺を隠せてない道場先輩が俺のところまで来ると、織田から取り上げたトンカツ皿に手を伸ばして一口。
そして膝から崩れ落ちる。
「そ、そんな‥‥なんで‥‥」
「あ、揚げ方とかカットとかは先輩のほうが上ですよ。所詮おれは一人暮らしで身に着けたものですし。ちゃんとしたスキルを持っている先輩にはかないませんて、このオーク肉つかってあげてみてくれますか?」
崩れている先輩を起こして残ったオーク・ジェネラルのロースを手渡す。
そこからはまさに鬼気迫る調理。
最高の食材を使って、先輩が『調理レベル14』を駆使して作った最高のトンカツ。
これには俺も勝てるはずがない。
「ゴホン‥‥それではですね‥‥この度の勝負、乙葉浩介君の勝利となります!!」
「納得いかねぇぇぇぇぇぇぇ」
鹿賀先生の宣言で俺の勝利が確定。
けど、一口も食べられていない織田がクレームを入れてくる。
「同じ食材なら、どう考えても道場先輩の勝ちでしょうが。この決着には納得がいきません」
「そうね。その点を考慮すれば道場さんの勝ちで間違いはないわ。けれど、この戦いは、『乙葉君が魔法で食材を出せるかどうか、それでトンカツをつくれるかどうか』よね?」
はい、その通りです。
そこに料理研究会を巻き込んだのは織田です。
そしてバンバンと机をたたいている織田が文句を言っているが、誰も織田の話なんて聞いていない。
ギャラリーの皆さんは、俺と道場先輩の作ったトンカツに舌鼓を打っている最中である。
道場先輩には追加でドラゴンテイルの肉も渡してあげてもらっている最中、そこの女子、こっそりと弁当箱にかくすんじゃない。自分だけで食べるんですよ、今日中にお願いしますよ。
「ちなみに乙葉君。オークってどんなブタなのかしら?」
「えぇっと、二足歩行の亜人種ですね。特技は『異種族すべての女性に対しての種付け』でして、繁殖力が旺盛で知られて‥‥どうしました?」
おいおい。
俺の説明を聞いて真っ青にならないでおくれよ。
「そ、それって‥‥知的生命体?」
「その肉を参考に、俺が魔法で作ったので‥‥まあ、養殖のオーク肉ということで」
そういうことにしないと収拾つかないわ。
まあ、それでもおいしさには勝てないらしく、あっという間に揚げていたトンカツはギャラリーのみなさんにもおいしく食べてもらいましたとさ。
めでたしめでたし。
‥‥‥
‥‥
‥
翌日。
朝から喧しい。
昨日の料理対決の結末を聞いたらしいクラスメート達が集まってくるじゃあーりませんか。
「お、乙葉、俺もドラゴンの肉が食べたい‼︎」
「ドラゴンなんて、何処で倒したんだ?」
「まさか、乙葉っ貴様っっっ、魔法で異世界に行ったなぁぁぁ」
「行けるかボケぇ。そんな便利な魔法があったら、登下校に使っているわ。ドラゴンの肉なんて、魔法で調達できるんだよ、簡単じゃないけどな」
そう説明すると、やはり食べたいとの言葉が聞こえてくる。
「金払うなら良いぜ。一人前一億な」
「まさかギル?」
「そこまでぼったくらないから安心しろ。円だ」
「たっか‼︎」
「まあ、魔法の媒体分払ってくれたら良いぜ。ダイヤモンド30カラット一つでいい」
「そ、そんなの無理だわ。そもそも、乙葉は持っていたのか?」
「過去形だな。今はない。昨日みんなで消化した」
実際には、それほど高くはない。
レッサードラゴンの尻尾程度なら、キロで12万円ぐらいで購入可能。それじゃあ、この前のドラゴンの肉はなんなのだろうか?
まあ、金額を告げると喧しい奴らはみんな引っ込むから安心。
そして今日の昼はカツサンド。
これは普通の豚肉だからね。
昨日の勝負の後で、道場先輩の持ってきた黒豚と、俺のあまりのオークジェネラルロースを交換したんだよ。
外には出さないって言う約束で交換したから、問題はないだろう。
数日後。そう考えていた俺が間違いだったと改めて思い知らされる事になった。
「乙葉君‼︎ あの貰ったお肉、お父さんが間違って使っちゃって……どうしたらいいかしら?」
「そんなの知らないよ。お父さんはなんて言っているの?」
「仕入れ先の肉屋に連絡して、あれと同じ品質のを見積もり出せって言っていたのよ」
うむ、俺しーらない。
結局、知らぬ存ぜぬで誤魔化しまくる事にしたのだけど、道場先輩大変そうですね。
がんば〜。
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。
・今回のわかりずらいネタ
スーパーくい●ん坊 / ●次郎・ビッグ〇
料理の〇人




