第七十四話・一触即発、寝た子も起きる?
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今年もあと一ヶ月半。
俺の華麗なる高校生デビューは、まさかのチート能力から始まりましたとさ。
異世界の神様から貰った能力、まさかここまで大事になるとは俺も予想していなかったよ。
そして、巻き込まれた形で加護を得た祐太郎と新山さん、瀬川先輩。
どうやら加護の系列が違うようで、あちらはガチで俺たちの世界を救うためじゃないかと推測。
だってさ、俺のチート能力って、どう考えても手違いで貰ったものが、そのまま使えているようにしか思えない。事実上、使えているのだからそういうことなんだろう。
だから、俺のこの力を教えろとか、俺にも授けろと言われても知らんがな。
………
……
…
「乙葉、今日こそ俺にも魔術を教えろ‼︎」
「漫画読めマンガ。結構、俺のやっている魔術訓練法と同じこと書いてあるものが多いから‼︎」
「どのマンガだ‼︎」
「知るか‼︎ 織田はあれか? なんでも一から十まで俺に教わらないとできないお子様なのか? 自分で調べろ、分からなかったらググれカス‼︎」
ここまで、毎朝恒例のテンプレート。
祐太郎はというと、俺が東京出張から戻ってきてからは毎日、早朝練習とかで体育館で闘気修練をしている。
不思議なことに、魔術の素養がある奴はほとんど皆無なのに、闘気については校内にも10人程度の『なんとなく素質あり』判定がいたんだよ。
それで、祐太郎が忍冬師範の所に連絡をしたらしく、希望者については呼吸法から教えてやってもいいことになったらしい。
まあ、祐太郎のファンクラブの連中も、少しでも祐太郎とお近づきになりたくて必死に訓練に参加しているらしいし、校内には第六課から派遣された警備員も待機しているから安全性は確保されている。
そんなこんなで普通に授業を受け、放課後は魔術研究部に向かう。
毎日、数名の入部希望者がいるものの、魔力が足りないのでお断りしている。
「今日は3名でしたわ。築地君のファンクラブの子が2人と、毎日来る織田君でしたか?」
「あ〜。あいつは本当に懲りないわ。魔術が使えないから部活に入るんだとか叫んでいたけど。オトヤン、織田の素養って上がると思うか?」
「分からん。流石に魔力回路を開くところからやらないとどうだも言えないし、教えたからといって開けるかどうかはさらに分からん」
そう。
魔術の素養がある要先生に頼まれて、魔術回路を開くための練習方法を教えてあげた。
けれど、体内に循環している魔力が分からないらしい。
俺が見た限りでは、魔力回路は全て閉じてあり、腹の奥に魔力の源が留まっていた。
でも、それを全身に流し込むための『魔力弁』がロックされているんだよ。
それを開くために必要な何かが足りないので、要先生は魔力回路を開くことができない。
「鍵なんだよなぁ。魔力弁を開くための鍵、それがあれば要先生は魔術を覚えられるんだよ」
机をトントンと叩きつつ考える。
部室の中では、要先生が新山さんから魔力回路のレクチャーを受けている。
今の新山さんは、クラスメイトに頼まれて魔力回路の開き方や魔力を感じるための訓練方法を教えている。
何故なら、今、うちのメンバーで最も魔力のコントロールが上手いのが新山さんになっていたから。
この数日で、何が起こったのか分からないほどにコントロールが上手くなっている。
本人曰く、日頃の訓練の賜物だとは言っていたけど、多分そうなんだろう。
「魔力弁の解放条件って、『加護の卵』の有無とか?」
「ユータロの意見に一票。でも、そうなると加護の卵がないと開かないんだよなぁ」
「魔術は神から授かった力、ギフトのようなものですか?」
瀬川先輩の質問に、俺は本棚にある『カナン魔術大全』を取り出して開く。
カナン魔導商会から購入した書物で、なんでも向こうの世界にいる『白銀の賢者』とかいう人が残した魔導全般の解説書らしい。
シリアルナンバーも打ってあり、かなり貴重なものであるのがよくわかる。
これによると、魔力は誰でも保有している、魔力回路は誰でも開ける、魔力弁を操作するには『魔力コントロール』が必要であると記されており、簡単な訓練方法まで書き込まれている。
でも、魔力回路が開かないと魔力コントロールの練習はできない。
魔力回路を開くためには魔力弁を開かないとならない。
魔力弁を開くには、魔力コントロールが必要。
堂々巡りな書き方しかされていない。
「……っていうこと。これ、意味分かる?」
「うーん。俺には理解できない。魔力を闘気に置き換えると分かるけど、闘気弁ってのはないからなぁ。体内を巡る闘気は誰にでもある、それをより凝縮して強くするところから闘気コントロールの訓練があるからなぁ」
「マスター羅睺もそう言っていたよな。あ、チャンドラか…。闘気は魔力と違うからなぁ」
「これ、本当に、他人に教えても理解できないだろうなぁ。オトヤン、要先生を通じて『魔術訓練法』は第六課に提出したんだろ?」
「まあね。書籍化するのなら印税くださいって話したら、忍冬師範が大笑いして了解してくれたぞ」
すでに、魔術の訓練方法については懇切丁寧にレポートを書いて、第六課に提出済み。
改めて魔法の発動方法について説明すると、まず、魔法の発動に必要な最低魔力は30。
但し、これは後述する発動媒体と秘薬がある場合。
そして、発動に必要な増幅装置の役割をする発動媒体。俺は魔導書を発動媒体としているけれど、そもそもそんなものがこの世界にはない。
最後に、発動に必要なエネルギーである秘薬。
『魔法とは、秘薬と魔力エネルギーを消費して知識プログラムを起動し、生み出された魔法を発動媒体ブースターで増幅することで効率よく奇跡を起こす』
では、この手順を全て用意できるかと言うと、ほぼ不可能。なによりも秘薬が存在しない。
発動媒体となるアイテムなら、ひょっとしたら退魔法具とやらには存在するかもしれないが、そんなに簡単に入手できるものではない。
まあ、ぶっちゃけると、俺が錬金術で適当な物品に『魔導化』の処理をするときに『発動媒体』をイメージしたらできるんだけどね。
話を戻すが、今の第六課では、俺が提出したレポートを基に訓練をしているらしいが、そもそも魔力がなんだか分からないので何もできていないのが現状らしい。
唯一、井川巡査部長のみが内容を理解し、訓練で保有魔力量を上げられたらしいので、効果は確かにある。
今は井川巡査部長の下で、希望者が魔術訓練をしているという。
そして問題の特殊戦略自衛隊。
ほぼ毎日のように実家に電話が来ていたので、今の我が家は固定電話は外してある。
迷惑電話登録もしていたんだけれど、色々なスマホからも連絡してきたので親父がキレた。
親父とお袋もアメリゴのヘキサゴンとかいう所を辞めて日本に戻ってきたので、特戦自衛隊に協力するようにって要請があったのよ。
元々、特戦自衛隊は親父たちが昔所属していた組織が前身だったので、それならいいかと思っていたらしいんだけどここで方針転換。
半ば脅しや恫喝に近い感じで話を進めてくるので、それなら勝手にやっていろって決裂。
先方としても、どうして断られたのか理解していない節もあるというから驚きである。
「はぁ。本当に、馬鹿な大人たちが多いわ。権力を振りかざして自分たちの好きなように人を使いたいのが目に見えるわ」
「まあまあ。そういう大人ばかりではないと思いましょう。中には真面目な大人もいますから」
「……じゃあ、あれは馬鹿の代表だね?」
窓の外から校舎正門を見る。
自衛隊のハーフトラックが二台横付けに停車すると、偉そうな服装の人物が降りてくるのが見える。
「鑑定……はぁ。防衛省の川端政務官か。それと警備の人二人と人魔一人。面倒だから、俺、帰りますわ」
「別に帰る必要はないわよ。話をつけてきますから」
そう告げて要先生が部室から出ていく。
そして正門に入ってくる川端政務官と何やら話をしているが、やがて憤慨して怒鳴り散らしている政務官たちは車に戻ってどこかに走り去っていった。
「……おお、要先生! パねぇ」
「流石は第六課というところですか?」
「所轄の違いなんだろうなぁ。特戦自衛隊は防衛省だけど、第六課は内閣府だからなぁ」
そんな話をしていると、要先生も戻ってくる。
「どうでした?」
「乙葉君を特戦自衛隊に迎え入れるために来たそうよ。高校を卒業したら幹部待遇で特戦自衛隊に迎え入れるって。そのための誓約書を書いてほしかったそうですが」
「あ〜。要先生、俺はのんびりとしたいのでお断りですよ?」
「それぐらいは分かっているわよ。強制力はないので従う必要はなし、何か奥の手がありそうだったけれど、乙葉君が機嫌を損ねたら、他国に行く可能性もありますよって脅しておいたわ」
なるほどなぁ。
今の日本にとっては、俺が日本国籍でいることが重要なんだよね。
その俺が日本以外に行く可能性を伝えて、ここは引いてもらったのか。
「そりゃまた、随分と簡単な対処方法で。外国ねぇ……絶対ないわ。法治国家の日本の方が、まだマシだわ」
「まあ、他にも避難先ならありそうだけどね」
避難先かぁ。
そんな所、ぶっちゃけこの日本以外に無いだろうしなぁ。諸外国なんかにいったら、それこそ人体実験の格好の材料になるだろうからなぁ。
………
……
…
ふと、そんなことを考えながら魔力コントロールで遊んでいると、なんとなく鏡に目が行く。
「鏡……日本以外?」
ふと立ちあがって、鏡の前に向かう。
そして手を合わせて、魔力を込めてみる。
「ん? オトヤン、何かあったのか?」
「いや、鏡の向こうって、確か異世界だよなぁって思っただけでさ。大氾濫で妖魔が……あっちでは魔族か。そいつらが来る世界って、確か鏡刻界って言っていたよなあ、って思っただけでさ」
振り返ってそう話していると、ふと、鏡が淡く輝き始めた。
鏡面が静かに波打ち始め、やがて虹色に固定されて波は収まっていく。
「……オトヤン、やっちまったなぁ」
「やっぱりそうなるよね? 鑑定……」
『ピッ……転移門。鍵を持つものにより扉は開かれる。扉を開いたものは、鏡刻界にある『アルカディア大神殿』の鏡の間へと向かうことができる』
ほうほう。
これは、かなりヤバくね?
慌てて手を離すと、虹色の鏡面はゆっくりと波打ち始め、やがて消えていく。
「……なあユータロ。俺、異世界への扉を作っちまったようなんだが」
「今更、驚かねえよ……と言いたいところなんだが、マジか?」
「マジだ。但し鍵がない。鍵の意味がわからない」
『ピッ……鏡刻界の鍵。扉の開放を望むものが、己の魔力により構築する。鍵というのは人間族がイメージしやすいように用いられているだけであり、その形状は自由である』
「そうか。まあ、それならそれで……オトヤン、その手の中の鍵はなんだ?」
ふと気がつくと、無意識のうちに鍵が握られている。大きさは30cmとでかい、南京錠の鍵。
え?
俺、異世界転移確定事項?
まてまて、まだこっちの世界ではやりたいことがあるんだ、そんな簡単に異世界なんて行かねーよ‼︎
そう考えたら鍵が消えた。
そして改めて念じてみると、鍵ができる。
「……はぁ。乙葉君。今見たことは、第六課にも報告して良いのかしら?」
「忍冬師範と井川さんにだけオナシャス。分かったことは、俺は異世界である鏡刻界に行けるっていうこと、俺しかいけないことってところかな」
「分かったわ。でも、いきなり異世界なんて行かないでね、今の私たちの世界には、貴方の存在が必要不可欠なんですからね」
「うい、ムッシュ」
マッシュじゃなくてムッシュね。
ガイア、オルテガ、マッシュ、ジェットストリームアタックを仕掛けるぞ、じゃないからね。
あれ? 一人多いぞ?
「分かってますって。でもさ、これで俺が大氾濫の元凶を向こうの世界で退治したら、俺ってヒーローだよね?」
「「「「 ……… 」」」」
ああっ、みんな呆然としている。
嘘です、言ってみたかっただけです、そんなたいそれたことしません、できるはずありません‼︎
「まだ大氾濫までは時間があると思うし、私たちも色々と対策を練っているから。だから乙葉君は、そんなこと考えなくて良いわよ」
「はあ。対策ってあるんですか」
そう問いかけると、瀬川先輩が深淵の書庫を発動した。
「大氾濫の起きるとき、その中心部分には巨大な門が生まれるそうです。その門を開かなくするために『退魔法具』があるそうなのですよ」
「へぇ。それって何処にできるの? どんな退魔法具?」
「それ以上の情報は見つかりませんでしたわ。恐らくは口伝なのでしょうね。ただ、必要な退魔法具は二つで、一つは扉に施す術式宝具の『五芒星結界宝珠』、そして扉を封印するための『封印杖』というのが必要なのは理解しましたわ」
──ブーッ‼︎
あ、要先生がお茶吹いた。
「ゲフッゲフッ……瀬川さん、あなた、その情報を何処から?」
「防衛省データバンクです。かなり強固なプロテクトでしたけど、深淵の書庫に突破できないプロテクトは存在しませんわ。その気になればペンタゴンに厳重に情報管理されている、とある空軍基地地下にある宇宙人のデータとかも入手可能かもしれませんわよ?」
深淵の書庫、半端ないわ。
でも、大氾濫を抑えるために必要な退魔法具がわかったのは大したものだ。
「要先生、これって正式なデータでしょうか? 解析するにも情報が不足していますので」
「御神楽様の仰った退魔法具に間違いはありませんね。でも、それが何処に眠っているのかは未だ不明ですよ? 御神楽様でも、その波動を追いかけることはできなかったさそうですから」
成る程。
そんじゃ、その波動を俺が探せば……って、そんなの分かるか‼︎
「まあ、あと2年ありますから。それまでにどうにか、二つの退魔法具を見つけて、現れた巨大な門を封じればまた500年は平穏無事なんでしょ?」
「そう伝えられているわ。でも、転移門の発生場所の解読は難しいのよ? 過去の文献でも、私たちの世界と異世界との環境が近く、魔力が豊富に存在し、外敵を受け付けない堅牢な結界によって守られている場所なんて……」
そう呟く要先生。
確かに、そんなに条件が一致するところなんてないわなぁ。
「あの……私たちの世界と異世界の環境が近い場所、ありますよ?」
真っ青な顔の新山さんが、ボソッと呟く。
「テレビ塔を中心としたエリア、内部が見たことない植生に覆われ始めていますよね? それって条件が合いませんか?」
「でも、豊富な魔力は?」
「魔力担当はオトヤンだなぁ。そして、堅牢な結界の条件も一致している。そっか、大氾濫の中心は、札幌かぁ……」
祐太郎がそう呟いてから、真っ青になる。
そして祐太郎だけじゃない。
今、部室にいる全員の顔色が真っ青になっている。
「わ、私はこれから道庁に戻ってこのことを報告してきます。みんなは今後の活動については十分に気をつけること。特に乙葉君、大量の魔力消費には気をつけてください」
それだけを告げて、要先生は部室を後にする。
そして俺たちも、今日はこれ以上は何もする気がなくなったので、皆、バラバラに帰宅することにした。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
翌日、正午。
場所は札幌、大通公園一丁目。
テレビ塔横にある広場に、突然、巨大な門が発生した。
高さ23m、幅11mの扉が二枚嵌っている…両開き扉の組み込まれた門。
時折銀色に輝いては、キーンという金属音を発している。
その一部が虹色に輝くと、中から一人の女性が姿を現す。
扉の前には、腕を組んで眺めている百道烈士の姿があった。
「……予定より、早くないか?」
「吐かせ。妾も驚いておるのじゃぞ。それよりも、しばらく見ていないうちに随分と消耗しておるのう」
ニマニマと笑いつつ、扉から姿を現した白桃姫が百道烈士の肩を叩く。
「あの、甲乙兵とかいう魔術師の仕業だ。奴のおかげで俺の計画は全てぶち壊し、この結界内に閉じ込められちまったんだ」
「結界とはまた……しかし、このお陰で、大氾濫は予定の半分の時間で開きそうじゃぞ? この結界はこのまま維持し、来る日の為に、より純度の高い生贄を多く集めなくてはならぬ」
そんなことは! 百道烈士も分かっているが、この結界から出られないため、今は活動を抑えて消耗を限界まで抑えておく必要がある。
「ふん。それはこれからだ」
「まあ良い。それでは、妾も食事に参るとしよう。ああ……あの芳醇な魔力を持つ者は、どこにいるのか」
竜の翼を広げて、白桃姫は青空に舞い上がる。
そして一気に高度を上げて‼︎
──ドグォッ‼︎
ドーム状の結界に衝突し、力なく墜落した。
「まあ、やるとは思った。三人、白桃姫をアジトに案内してこい」
そう指示をして、百道烈士は歩き始めた。
そして、テレビ塔真下に向かうと、そこで、待ち人が現れるのをじっと待っていた。
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




